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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百十一話 偉大なる戦い⑫

 なんか長い夢を見ていた気がした。

 目を開けると、朝になっていた。なぜそう解ったかといえば、僕の部屋はベッドが窓際にあり、そこから日の光が一筋入ってきていたからだった。遮光カーテンの役割を果たしているレースのそれを開けると、太陽が眩いほどその明かりを放っていた。

 そして僕は、そのまま天井を眺めながら夢のことを思い返していた。

 とても長い夢、ということしか思い出せなかったその夢は、なんというか――。


「とても、悲しい夢――?」


 僕の目からは、気が付けば涙が零れていた。


「お父さん……どうしたの?」


 声を聴いてはっとそちらを見つめる。見ると、僕の隣には一花が座っている。

 どうやら僕を起こしに来てくれたようだった。


「大丈夫だよ、一花」


 悲しそうにしている彼女の頭を撫でて、僕は優しくそう言った。


「お父さん、くすぐったい……。あ、そうだ! お母さんがね、ごはんだよーって言っていたよ!」


 そう言ってドタバタと足音を立てて部屋を出ていく一花。まったく、子供というのはパワフルだと思う。朝からああも全力で行動できるのはある意味子供の特権かもしれない。


「さて……、ご飯、だったか」


 僕は起き上がり、一つ溜息を吐く。

 一花が言っていたことを反芻して、僕は目を瞑る。

 それは眠たいからということもあったけれど、一番に挙げられるポイントは自分の見た夢を確認したかったから――ということがあった。

 その夢は、長い夢だったということしか思い出せない。

 夢の内容は、忘れてはいけないような重要なことだった――それだけは覚えているのに。


「おとーさーん!」


 一花の声が聞こえて我に返る。

 このまま物思いに耽るのもいいことかもしれないが、先ずは朝食を食べることにしよう。脳に栄養をいきわたらせてから考えることだって、選択肢の中にあってもいいはずだ。

 そう思って僕はベッドから離れて、そしてリビングへと向かうのだった。



 ◇◇◇



「あなた、今日はどうするつもり?」


 食事を食べ終えたタイミングで秋穗が僕に声をかけた。


「……そうだね。今日は身体を鍛えに行こうかな。何というか、ずっと家にいると身体が鈍ってしまうからね」

「それもそうね。……なら、剣道場へ向かうのはどうかしら?」

「剣道場?」

「最近できたばかりらしいのよ。何でも昔使っていた場所を流用しているらしくて。だから、そこを使えば何とかなるのかなあ、って。私は行きたいとは思わないけれど……。今、鍛えたいというならそこへ向かえばいいのではないかな?」

「道場か……。成程、あまりそれは考えなかったな」


 確かに道場ならば身体を鍛えられる。それに、今は身体が鈍っていることもまた事実。できることならば、ある程度取り戻しておく必要があるだろう。仮に、これから世界を大きく揺るがす戦いが始まるというのなら。

 そうして僕は、秋穂に言われた道場へと向かうことにするのだった。



 ◇◇◇



 思えばこうじっくりと町々を眺めるのは、初めてのことかもしれない。

 初めて、と言ってもこの時代にきて外出をするのが二回目だから、別に珍しい珍しくないの問題で解決できるものでもないだろう。

 道が舗装されておらず、悪路そのものであったが、それ以外の街並みはエルファスとあまり変わりないように見える。道に店を開いているお店も少なくなく、色とりどり……とは言えないが、ある程度の野菜を取り揃えている。

 野菜の種類が少ないのは、単純にこの世界の情勢が関係しているらしい。

 特にこの国――ジャパニアはどの国ともあまり仲良い関係を築いていない。理由は単純明快として、木隠との会話でも出たテーマなのだが、かつてこの国がネピリムというロボットを開発した際、その技術がすべて外国に持っていかれたことが原因であるといわれている。

 そのため、あまり他国と関係を築きたくない、できれば必要最低限で構わないという考えを持った人間が多い。それは、この国で信仰されている『大神道会』という宗教団体が影響しているかもしれない。

 木隠は語っていた。この国で(まつりごと)を牛耳っているのは、まぎれもなく大神道会であると。

 大神道会は使徒というグループがすべてを決定しており、配下にいる人間はそれをただ実行するというトップダウン型の組織だといわれている。いわれている、というのは木隠からしかその情報を聞いていないから、その情報が真実であるかどうか確認をとっていないためだ。

 大神道会がどういう組織であるのか―ー風間修一の知識であってもそれがどういう組織かという情報までは蓄積されていない。残念なことではあるが、彼が普通の一般人であることを考慮すれば致し方ないことなのだろう。

 しかし、疑問は残る。

 風間修一は、ほんとうにただの一般人なのだろうか、ということについてだった。

 ただの一般人なら、使徒と呼ばれた木隠にわざわざ呼び出しをされるだろうか? いや、正確に言えば木隠は僕たちを管理する役割にあるそうだから、時折僕たちを全員集めてヒヤリングをするらしい。しかしそれはあくまでも全員集めて実施するだけに過ぎない。今回のように、一人だけ呼び出して個人どうしで話をすることは、本来ならば有り得ないことらしい。――確かそれは、話し合いが終わった後に木隠も言っていた。だから、話した内容は誰にも口外するな、といわれたくらいだった。

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