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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百四話 偉大なる戦い⑤

「……現状を整理しよう」


 ガラムドは再度僕に向けて言った。


「そうしてもらえると、有難い」


 僕の言葉に、ガラムドは笑みを浮かべて頷いた。

 一つ溜息を吐いたのち、ガラムドはゆっくりと話を始めた。


「ボクが話したことはたった三つ。一つ、あの世界はシミュレーションするために作り上げた仮想の世界ではなく、実際に存在している世界であるということ。つまりあの世界がそのまま何千年か時が流れれば、再びオリジナルフォーズが目覚める世界……、とどのつまり、あなたがやってきた世界になります。二つ目、あの世界での任務達成(ミッション・コンプリート)条件は『偉大なる戦いの完成』。とどのつまり、たくさんの人が死ぬことになります。しかしながら……、歴史を修正してはなりません。場合によってはボクがこの場に留まれなくなること、あなたがこの世界からもあの世界からも消滅する可能性もあります。歴史の修正とは、それ程大変だということは理解してください。そして最後に……失敗することは問題ありませんが、それも三度まで。以上です」

「端的にまとめてもらってどうも。……けれど、はっきり言わせてもらうが、手詰まりな気がしてならない。一体全体どうやってその結末まで導けばいい?」

「攻略方法を簡単に教えるとでも?」


 ごもっともな発言だった。

 ガラムドは見えない椅子に腰かけて、僕に目線を合わせたまま、


「いずれにせよ、あなたはこの試練に挑むしか無いのですよ。あなた、解っていますか? 結果として、これから何が導かれるのか。あなたは試練をクリアしないと、あの世界を救うことは出来ない。はっきり言わせてもらいますが、ボクとしては別にどうだっていいんですよ? 最悪、あの世界は『失敗作』として消してしまって構わない」


 失敗作。

 それを聞いて僕はふつふつと怒りが沸き上がる。

 今までずっと生きてきた世界を、失敗作と罵られそのまま削除されてしまう。それはプログラマーが自分の作成したプログラムを無能として削除するのと同じように。

 神と人間とはかくもここまで思考概念すら変わってしまうものなのか。

 それを思い知らされた。

 だからといって、ここで引き下がるわけにはいかない。ガラムドにはガラムドなりの考えがあるかもしれないが人間代表の僕にとっても僕なりの考えがある。


「……試練をクリアすることで、ほんとうに力を授けてくれるんだよな?」

「あたりまえでしょう。それで約束を反故にするならば、ボクは邪神か悪魔か、そのいずれかですよ。……まあ、それについてあなたが疑うことについては致し方ないことかもしれませんけれど」


 軽々しくガラムドは言った。

 まるでそのようなことなど最初から気にしていないかのように。


「……まあ、そこまで言うなら『証拠』を見せてあげてもいいのではないでしょうか」


 ブウン、と虫が耳元で飛んでいるような、そんな音が聞こえた。

 気がつけば僕とガラムドしか居なかったその空間に、一つの異物が混入していた。

 それは一本の剣だった。


「シルフェの剣……。本来ならばその時間軸には存在しないはずの物質(オーパーツ)です。実際のところ、それが呼び出されるのはそれから数百年後になりますがね。まあ、ボクがエルフの王様に渡すことになるのですから、実際のところは遠回りに渡していたのをストレートに渡すことになるのでしょうが」

「……何をいったい……? それに、このシルフェの剣は……」


 その剣は、確かにシルフェの剣だった。

 柄の部分に林檎――正確には知恵の木の実のモチーフが象られており、その刀身はとても輝いていた。

 いや、しかしながら。

 どこかそのシルフェの剣には、何か力がこみあげてくるような、そんな感じがあった。

 ガラムドの話は続く。


「あなたはそのシルフェの剣を持ってあの世界に戻りなさい。ああ、一応言っておきますが、あの世界というのは元の世界でも2025年の世界でもありませんよ。あなたが『風間修一』という人間に憑依して偉大なる戦いを生きていく世界。あの世界に今からまたあなたは戻ることになります。しかしながら、あなたがそこまで言ってくるのですから……、一応言っておきますがこれは私の温情ですよ? 力が解き放たれたシルフェの剣を貸し出しましょう。それを使えば、メタモルフォーズとも戦えるはずです。風間修一は魔法が使えませんから魔法を戦闘に用いることこそ出来ませんが……、使えなかったにしてもそのシルフェの剣さえあれば戦うことは可能でしょう。それほどの力を秘めているのですよ、あのシルフェの剣は」

「それは……シルフェの剣、その完全体の試し切りをしてこい、ということか?」


 精一杯の皮肉をガラムドに告げる。

 するとガラムドはニヒルな笑みを浮かべたのち――ゆっくりと頷いた。


「そう思ってもらって構いませんよ。……さて、もう夜が明けます。ボクがアドバイス出来るのもここまでですね。あとはあなた自身の力で偉大なる戦いを生き延びてください。そして、歴史を修正することなく、忠実に実際の歴史で起きたことを再現してください。……再現というよりも操作する、と言ったほうが正しいかもしれませんね?」


 そうして、ガラムドの声がゆっくりと遠くなっていき――僕の意識はそこから引きはがされるのだった。

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