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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
201/335

第百九十九話 泡沫の日常⑥

 試練、か。

 その割にはかなり精神的にえぐいダメージを与えるようなものだったと思うけれど。或いは今から試練を受けるよりかはその空想の世界で生き続けるがいい――そういうメッセージだったのかもしれない。

 けれど、まだ僕はこの世界でやるべきことがある。

 それをクリアできない限り、僕は元の世界に戻ってはいけない。そう思っていた。


「……ほとほと思いますが、意識の高い方ですよ、あなたは」

「意識が高い? まさか。僕はただ、やるべきことをやっているだけのこと。それだけだ」


 もしかしたらそれがガラムドにとって『意識が高い』という言葉の意味なのかもしれないけれど。


「……まあ、ここまで話を続ける必要は無いでしょう。あなたにとって、今一番やりたいことはあの世界を救うために力を取り戻すこと。そうでしたね? だから、そのためにあなたは試練を受けなくてはなりません。本来、先程の泡沫に残り続けるようならば、ボクはあなたを見捨てるつもりでした。……でも、あなたは未練を断ち切りました。だから、ボクも改めてあなたと向き合うことといたしましょう。さあ、手を取って」


 ガラムドは僕に手を差し出す。

 その手を取るべきか――一瞬悩んだ。

 さっきの扱いを見て、まだガラムドを信じ切ることが出来なかったからだ。僕を裏切って、だまして、元の世界だった何かに閉じ込めようとしていたくらいなのだから。

 ほんとうにガラムドは僕に力を与えてくれるのだろうか?

 そんなことを思ってしまうくらいだった。

 そんなことを考えると――ガラムドはどうやら僕の考えていることを手に取るように解るようで、


「怖いのか?」


 と、ただ不敵な笑みを浮かべて言うのだった。

 だから僕は答えた。

 真っ直ぐと、前を見据えて言った。


「怖くなんか、無いさ」


 それを聞いたガラムドはゆっくりと、しかししっかりと頷いた。


「……なら、向かいましょう。あなたが挑む、ほんとうの試練に。あの世界を救うことが出来るくらい、絶大な力――その力を取り戻すための試練を」


 そして、僕はガラムドの手をしっかりと強く握りしめた。



 ◇◇◇



「簡単に言ってしまうと、これから行う試練はある歴史の追体験(シミュレーション)となります。歴史の追体験、と言ってもそれはレールに乗っていればあっという間にクリアまでたどりつけるわけではありません。簡単に死んでしまいますし、廃人になる可能性だって十分に考えられる。ボクの言いたい意味が解りますか?」

「……とどのつまり?」

「失敗する可能性が非常に高い、ということですよ。あなたが今から挑む試練は」


 ガラムドは踵を返し、ゆっくりと歩き始める。

 闇の空間は意外にも一寸先は闇といった状態で、どういうことかといえば、少しガラムドが僕から離れただけでその姿は闇に溶け込んでいくということだ。


「おい……待てよ、ガラムド!」


 僕はガラムドを追いかけるべく――走り出した。


「そんな慌てなくても、すぐ傍に居ますよ」


 ガラムドは溜息を吐く。

 よく見るとガラムドは僕の直ぐ傍に立っていた。強いて言えば、その若干闇に溶け込んでいる辺りが『離れている』ような様子になっているわけだけれど。


「……あなたが慌てている様子も解らないでもありません。けれど、しかしながら、あなたはこの試練を乗り切らなくてはなりません。この試練を乗り越えることで……あなたは真の力を手に入れることが出来る」


 そうは言うが、試練はどうやって実行出来るのか。

 まさかさっきのように急に意識を飛ばされるなんてことは――。


「さっきと同じように、やればいいのですよ。簡単です。あなたは何もする必要はありません。ボクが試練の世界にあなたの意識を飛ばすだけ。だから、あなたは何も準備しなくていいのですよ」

「……意識を飛ばす、か。簡単に言っているけれど、それで僕はどうすればいい? ゲームには何らかのクリア目標があるはずだろう?」

「ええ、簡単ですよ。その試練をクリアする最終目的は……ある女性を守り抜くこと。あなたはシミュレーションしていくうえである男性になりきる必要があります。なりきる、というよりも身体に憑依するといった感じでしょうか。ああ、でも、安心してください。記憶や知識はすべてその人間の身体に収録されていますから、自動的に読み込まれます。ですから、その世界に行ったとしてもご安心ください。……それじゃ、ご武運を」


 そう言って、ガラムドは僕の身体に右の手のひらを向ける。

 目をつぶり、念じる。

 そうして、再び僕の意識は――闇に落ちた。

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