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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第一章 異世界召喚編
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第一話 事の始まり①


 秋葉原の街並みがサブカルチャーに染まったのは、いったい何年前のことになるのだろう。

 いや、正確に言えばきっと何年で表現できるような昔ではないかもしれない。

 そんなことを思いながら、僕は秋葉原の街並みを見ながら、歩いていた。壁にはポスターが貼られている。最近はやっているアニメやゲームのポスターだ。少しも興味がないといえば嘘になるけれど、でも実際その作品は殆ど知らない。せいぜいキャラクターを見たことがあるかな、というくらいだ。

 かくいう僕は何を求めているのかといえば、ゲームだ。

 ロールプレイングゲーム。またの名前をRPGという。役割をもってプレイするゲームシステムのこと。各自に割り当てられた架空のキャラクターを演じて、時に協力し時に対立し物語を進めていく。それが、ロールプレイングゲームの醍醐味といったところだと思う。

 さて。

 僕が求めているゲームは世界で大人気のロールプレイングゲーム、その最新作だ。

 そのゲームは独創的な世界観とバトルシステムで一躍人気になった、その続編である。もちろん前作もすでにプレイ済みであり、クリアも当然している。だからこそ、今回の第二弾に対する期待度はとてつもなく高い。

 しかしながら、その人気ゆえに予約しないと発売当日に手に入れることもできない。

 残念なことに予約ができていないので当日に購入することはあきらめかけていたのだが――、秋葉原駅に着いてあるチラシをもらって、それは前言撤回することとなった。

 なんと、そのチラシによれば発売当日でありながら予約しなくても購入することが可能だという。そんな馬鹿げたことがあり得るのか、と何度も訊ねたが、可能だと言った。ならば信じるしかない。

 ……そういうわけで現在その変わった店員についているわけだが、道がどんどん暗い所になっていく。正確に言えばガード下。はっきり言って、こんなところにゲームショップなんてあったのか? なんて思ってしまうくらいだったが――すぐにその不安を拭い去ることとなった。


「ここだよ」


 店員はそう言うと、中へ入るよう促した。

 まあ、別にいいけれど、どうして客を先に入れるのだろう? そんなことを思いながら、僕は中へと足を踏み入れた。

 店の中は所狭しに棚が置かれていて、その中にはゲームがたくさん陳列されていた。中には僕が生まれる前のゲームもたくさん陳列されていて、マニアなら垂涎もののゲームもたくさん置かれている。だのに客は一人もいなかった。

 これは穴場スポットだぞ……そんなことを思いながら、棚を一つ一つ見ていく。ここまで来たならただ単にゲームを買うだけじゃなくて販売されている商品も見ていくことにしよう。ゲームを買う機会はそう何度もあるわけではないし、次に来るとしたら週末くらいしかない。学生にとって、週末は貴重な休日だから案外それすらもできないことかもしれないけれど。


「……すごいですね、このゲームの数。どうしてここって、あんまり人が来ないんですか?」


 単刀直入に、気が付けば僕は質問していた。ちなみに店員さんは僕の背後に立っている状態になっている。ゲームを店ですぐに用意すると言ってくれたから、きっとその準備をしているのだろう――僕はそう思っていた。

 頭に、衝撃が走った。

 文字通り、衝撃が走った。

 それは痛みなのか立ち眩みなのかショックなのか――よく解らなかったけれど、倒れゆく最中、店員さんが金属バットのようなものを持っているのを見て、僕はそれが最初に言った『痛み』であるのだと理解した。

 バットには血がこびり付いている。きっとそれは僕を殴ったときに付着したものだ。だとすれば、今、僕の頭からは血が出ているはずだ。ああ、だから暖かいのかもしれない。納得。

 いや、正確に言えば納得してはいけない。まずはこの場をどうにかしないと。携帯、スマートフォン……は無理だな。今はまともに動くことすらできない。意識が薄れつつあるのに、それを使うことはまず不可能だろう。第一、目の前にいる店員さんがそれを許してくれるだろうか? いや、まずありえないだろう。

 そう考えているうちに意識が薄れていく。ああ、もう、駄目だ。なんだかんだでむなしい人生だったなあ。何も考えるでもなく、ただ普通の学生として生きてきて、きっとこの後就職もして結婚もするだろう。子供もできて、平和な家庭を築いたはずだ。……まあ、まず彼女が居ないからそんなことは出来ないのだろうけれど。

 そして、次の瞬間、僕の意識は途絶えた。



 ◇◇◇



「フル」


 身体を誰かが揺すってくる。

 声はどこか可愛らしい感じで、少し凛としていた。誰だったかな、この声――と脳内のデータベースに聞いてみるが、そんなデータはヒットしなかった。というよりも、僕のことをフルと呼ぶ人など聞いたことがない。


「ねえ、フルってば」


 さらに僕の身体を揺すってくる彼女。

 うん、先ずは起きたほうがいい。これ以上揺すられると吐きそう。

 そう思って、僕は目を開けた。


「あ、やっと起きた! もう、フルったら、もう遅刻する時間よ? 夜更かしでもしていたのかしら。まあ、別に遅刻しても私の知ったことではないのだけれど」


 そこに立っていて頬を膨らませていたのは、美少女だった。

 ブロンドのロングヘアーに赤い目、幼げな表情、なんとなく膨らみを感じる制服に見える服(こげ茶色のブレザーにスカート、黒いタイツに革靴といった感じだ)を身に着けていた。

 ぼうっとしていた僕だったが、それが気に入らなかったらしい彼女は踵を返す。


「取り敢えず、急いで制服に着替えて教室に向かうこと! いいわね、私は部屋の前で待っているから!」


 そう言って彼女は部屋を出て行った。

 なんというか、朝から騒々しいけれど……僕にあのような知り合いって居たかな?

 まあ、取り敢えず彼女の言葉を守ることにしよう。そう思って僕は身体を起こして立ち上がると、部屋を見渡した。

 部屋は僕の知る自分の部屋ではなかった。床には赤いカーペットが敷かれているし、木目調の壁はどこか懐かしくもあるし高級な雰囲気も醸し出していた。

 まるでホテルのような感じだけれど、窓が無いので何も言えない。これ以上はとにかく外に出て確認してみないと、解るはずもなかった。

 それにしても、どうしてこのような場所に居るのだろうか? 僕はハンガーにかかっていた制服に着替えながらそんなことを考えていた。確か僕はゲームショップの店員に頭を殴られてそのまま気を失ったはずだった。

 ということは、あの後、誰かが僕のことを助けてくれたというのか?

 なんというか、解らないけれど。


「ねえ、フル。急いでくれない? でないと、私も遅刻するのだけれど!」


 だったら君一人で行けばいいじゃないか――なんてことも言えずに、取り敢えず僕の置かれている状況は後回しすることにして、彼女の指示に従うべく、大急ぎで制服を着替えることとした。


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