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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
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第百九十一話 神殿と試練④

 なんというか、この神様――ガラムドのテンションになかなかついていけないのが現状だった。

 ほんとうにこの少女は神様なのだろうか? 目の前にいる少女は、ただの少女ではないのだろうか? どう見ても、ただの少女にしか見えず、僕に対して戯言を――つまり嘘を吐いているだけではないのだろうか。


「ああ、そうだった」


 白い椅子に再び腰かけてティーカップの中身を一口啜ったのち、ガラムドは言った。


「一応言っておくけれど、嘘という可能性は考慮しないほうがいいよ? ボクは神様だからね。それくらいお茶の子さいさいだよ。わかって当然、という意味さ」


 この世界に、お茶の子さいさいって概念があったのか。

 そんな突っ込みはさておき、僕としてもさっさと力の封印を解除してしまいたい。だから、僕はガラムドに問いかける。


「それで、さっきの話の続きだけれど……、ほんとうに力を解き放つことができるのか? シルフェの剣、その力を……!」

「当たり前でしょう。誰がその武器を作り、力を吹き込んだと思っているのですか。ボクだよ、ボク。ボクが作って、力を吹き込んで、エルフの女王様に託した。だからボクしか力を解き放つことはできない。そのためのパスコードを持っている、という感じかな」

「……じゃあ、それを早く……!」

「まあまあ、そう慌てなさんな。まずは、ティータイムでもどうかな? 暖かい紅茶もあるよー、お菓子もあるし。この長閑な光景をしばし楽しもうじゃないか」


 そう言ってガラムドはティーポッドに入っているのだろう紅茶を、空いているティーカップに注ぎ始める。

 そうして注ぎ終えると、それを向かいの席にあるソーサーに置いた。


「……何を言っているんだ? 世界が大変なことになっているんだぞ、それを介入せずにただここでティーブレイクをしろ……と?」

「時間の問題をしているなら、安心して。この空間はあの世界とは違った時間軸で動いている。しいて言えば、すべての世界と独立している、という感じかな。だから好きな時間にここに介入できて、好きな時間に別の世界に介入することができる。……簡単に言ってしまえば『なんでもあり』の空間だから」

「そんなこと……!」

「まあ、先ずは頭を休めようよ。でないと何も考えられないよ? ボクも考えられないときは、いつもこうやって頭を冷やすためにティータイムをしているんだ。でも最近はずっと独りぼっちだったからね。あなたがきてくれてとっても嬉しいよ」

「だから僕はまだ……!」

「何? 何か文句ある?」


 無垢な笑みで――しかしどこか恐怖を張り付けたような感じの笑みだった――ガラムドはこちらを見つめた。

 そんな表情でこちらを見つめられたら、何をされるか解ったものではない。舞台は相手のフィールド、そして相手の実力は未知数だ。まともにこちらの実力が反映されるとも限った話ではない。長いものには巻かれろ、とは言ったものだ。先ずは相手の出方を窺うのが一番――そう思った僕はその茶会に参加すべく、ゆっくりと歩き始めた。

 白い椅子に腰かけると、ティーカップから紅茶の湯気が出ていることを確認できた。


「ほら、紅茶を飲まないと……冷めちゃうよ? もっとも猫舌ならば仕方ない話だけれど」

「いえ、いただきます」


 そうして僕は紅茶を一口啜る。

 紅茶の味は意外にも美味しかった。いや、その味はあの世界で――僕がもともといた世界で飲んだことのある――どこか懐かしい味だった。

 僕ははっと目を丸くしてガラムドを見つめる。ガラムドは僕のティータイムをニコニコと見つめているようだった。よっぽど他人がほしかったのだろう。この場合は『話し相手』になるのかもしれないが。

 いや、そうじゃない。それどころではない。この紅茶を飲んで――俄然ガラムドに興味が沸いた。


「ガラムド。この紅茶……どこかで飲んだことがあるのだが、もしかしてあなたは……」


 こういうことは駆け引きなどしないほうがいい。

 第一、僕は駆け引きが苦手だ。

 苦手なことをするならば、さっさと話してしまうほうが一番だ。そう思って僕は単刀直入にその話題に切り込んだ。

 ガラムドはニコニコとした表情を崩さずに、


「あ、そのブレンド、気に入ってくれたかな? いやあ、よかった。ボクがずっと飲んでいるお気に入りのうちの一つなのだけれど、それならあなたの口に合うかな、と思っていたんだよ」

「まさか……、今日僕が来ることを予測していた……と?」

「当然だよ」


 僕の質問に、ガラムドは間髪を入れずに答える。


「だって、僕は神様だからね」


 その質問の解答として合致しているのかどうか解らない解答を示して、ガラムドもティーカップに残っていた紅茶をそのまま口の中に流し込んだ。

 それを見て僕も追いかけるようにティーカップに残っていた紅茶を流し込む。

 見ていたガラムドは目を丸くして、僕を見つめていた。

 その光景が少々珍妙だったので、僕はガラムドに問いかけた。


「……どうした」

「いや、熱いもの得意なのかな、って思って。ボクは若干猫舌気味だから、少し息で冷まさないといけないのだけれどね。ついでにお湯も人肌より少し熱いくらい。あまり温度を下げちゃうと紅茶の茶葉からうまくエキスが抽出できないからね! これはお母さんから教わったことなのだけれど……」


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