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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
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第百八十八話 神殿と試練①

 ヤスヴァールの祠からガラムドの神殿までそれなりに距離がある。

 だからホバークラフトを使うのが一番だったのだが、それを使おうにも鬱蒼と生い茂る森林になっているため操縦が難しいとのこと。

 バルト・イルファからの進言もあり、僕たちは歩いて神殿へ向かうこととなった。


「……それにしても、ほんとうに歩くしか道はなかったのか?」


 言いたくなかったが、ついつい弱音と言う名の本気が出てしまう。

 十年間眠っていたということは、緩やかに筋肉が衰退していった、ということも示しているわけであって。今の僕はその真っ只中にあると言えるだろう。


「歩く、というのは君にとっては仕方ないことかもしれないが、許してくれ。……ホバークラフトを使うには少々難しい地形であるということはさっきも話したはずだろう?」


 バルト・イルファはそう言って、僕を丸め込もうとした。

 確かにそうかもしれない。しかしもっと何かいい方法は無かったのだろうか。

 焦りが僕の感情を支配しつつあった。


「……まあ、君が焦る気持ちも解る。しかしながら、そう簡単に世界は滅びなどはしないさ。今の状況を例えるならば、氷を常温に放置しておいた状態だ。氷は常温に放置していけば緩やかに溶けていくだろう?」


 つまり、まだ時間はあるが急いで実行する必要も無い、ということか。

 焦りを隠し切れない僕にとって、もしかしてタオルを投げ込んだと思い込んでいるのかもしれない。

 しかしながら、それでもやはり、どうにかせねばならないという思いは強い。


「しかし、急がねば……」

「だーかーら、話を聞いていたかい? 実際のところ、この世界がどうなろうと一番関係が無いのは君だ。だって、そうだろう? 予言の勇者と君に神託があっただけであって、別に世界を救ったことでご褒美(リワード)があるわけではない。つまり、それはどういう意味か。きっと君にも理解できているのではないかな?」

「……何が言いたい」

「つまりね? ……いつでも逃げていい、という話だよ」


 それを聞いた僕は、目が丸くなっていたことだろう。

 それくらい驚きを隠すことが出来なかったのだから。

 バルト・イルファは深い溜息を吐いて、さらに話を続ける。


「君は予言の勇者。そして君をうまく使おうとして、世界を救おう……あるいは世界を手に入れようと画策しているのが僕たちであり、メアリー・ホープキン率いる飛空艇の一行だ。しかしながら、そこに君の意志はあるか? 君の考えはあるか? 君が『やりたい』と本気で考えて、実行しているか?」

「……何が言いたいんだ。バルト・イルファ、君はいったいどちらの味方だ? サリー先生か? それとも、世界を救おうとする一行か?」

「いいや、どちらでもないね」


 バルト・イルファはシニカルに微笑む。

 シニカル――とは言ったものの、実際のところバルト・イルファがどのような感情を抱いているのか定かでは無い。なぜなら彼はずっとクールな表情を、まるでそのお面を張り付けたかのようにキープしているからだ。何を考えているのか、はっきり言って解ったものではない。

 しかしながら、バルト・イルファとともに行動している以上、彼と向き合っていかねばならないこともまた事実。バルト・イルファの意見を聞いて、それを理解したうえで行動しなければならないだろう。

 そして、その結論が――神殿へと向かう、ということ。神殿に力が封印されている。その力を解き放てば、オリジナルフォーズは目覚め、今度こそ倒すことができる、そのチャンスが生まれるということだ。


「……バルト・イルファ、ならお前はいったい何を望んで……」

「僕は別に何も望んじゃいないよ。しいて言うならば、妹を取り戻すためさ」

「妹……ロマ・イルファのことか?」


 その言葉にこくりと頷くバルト・イルファ。

 ロマ・イルファ。バルト・イルファの妹だ。しかし、それは確か血の繋がっていない妹だったはずだ。しかし、バルト・イルファのニュアンスからすると――やはり、血が繋がっている妹ということになるのか?


「かなり長い話になってしまうから、それはまた別の機会に話すこととしよう。……それにしても、事前に調査した以上に草木が生い茂っているな。さすがにこれを燃やすとなると、この付近一帯の草花を燃やし尽くすことになってしまうから、それは出来ない」

「それくらい知っている。それに燃やした後はどうするつもりだ!? 水を出すことができるわけでもあるまいし、自然に燃え尽きるのを待つのもそれは不味いことだろう。それくらい、理解しているのか」

「それを理解したうえで、否定したのだ。解らないのか」


 バルト・イルファはばつの悪そうな表情を浮かべて、再び歩き始めた。



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