ハロウィン特別編 メハナは嫌い?
※時系列は考えてはいけない。いいね?
※ハロウィン特別編です。
ラドーム学院、食堂にて。
僕とメアリーは席を寄せ合って昼食をとっていた。
「ハロウィン? 聞いたことないわね。そんな儀式があるの?」
「うん。まあ……。聞いたことは無いかな? とはいっても、僕もあまり気にしたことは無いのだけれど」
「それってどういうものなの?」
「うーんとね、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー、って言うんだったかな。もちろん、お菓子を渡せばそれでおしまい」
「へえ……。面白そうね。ねえ、フル」
「うん?」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー」
がおー、と両手を上げて口を開けるメアリー。
まるで自分が怪獣が何か、そんなことを考えているような。
僕としては急に何が起きたのか解らなくて――一瞬思考が停止していたのだけれど。
「……フル? せっかくあなたの言った通りにしたのに、それはどうかと思うけれど」
突然ジト目になってしまって、僕は我に返ると大急ぎで両手を合わせ彼女に謝罪する。
「ごめん! 急なことで頭が追いつかなくて……」
「ま、いいよ。別に」
フォークを僕に向けて、メアリーは言った。
「お菓子がないなら、悪戯してもいいってことよね?」
メアリーのフォークにはブロッコリーのような野菜――確か名前はメハナだったか――が刺さっていた。
まさに樹木のミニチュアのような形をしたそれはまさにブロッコリーと言っても過言では無いけれど、この世界ではメハナと呼ばれているようだ。
それはそれとして、どうしてメアリーがメハナを差し出しているのか?
メアリーは話を続ける。
「わたし、メハナが苦手なのよね」
溜息を吐きながら、具材の載せられたプレートを見つめる。
今日のメニューはハンバーグ、そうして付け合わせにはいくつかの野菜が載せられている。見たことの無い野菜も多いが、たまに形がもともと居た世界と同じようなものがあることもある。
そして、彼女はその付け合わせの野菜を見つめながら、
「カロットにトービは食べられるのだけれど、どうしてもメハナだけは食べられないのよ。そうして、だからあなたに強引に食べさせるってわけ。いい悪戯だとは思わない?」
悪戯――というよりも場合によってはご褒美に見える気がしないでもないけれど、メアリーはどうやら少し意味をはき違えているようだ。まあ、別にいいか。それについて、あまり理解してもらわなくてもいいし。
そうしてメアリーはフォークを僕の口に押し付ける。
「フル、あなたもメハナは嫌いかしら?」
その笑みはとても妖艶な笑みに見えた。魔女のような、悪の組織のボスのような、何か怪しいことを企んでいるような、そんな感じだ。
僕はそれに逆らうことはしなかった。
口を開けて、メアリーのフォークに刺さったメハナを口にする。
別にブロッコリーは嫌いじゃないから、こんなものは悪戯でも何でもなかった。
だから、僕にとっては別に気分を害するようなことでは無かった。
……そのあと、味を占めたメアリーが彼女のプレートに載せられていたメハナをすべて僕の口に放り込んだのは、また別の話。




