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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
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第百八十二話 神殿への道⑬

 石板の解析は続く。


「ガラムドは世界の始まりと引き換えに、我々とともに生きることが出来なくなった。……これはつまり、神になってしまった、ということか?」

「その通り、だろうね。でも、それが本当ならば、ガラムドはもともと普通の人間として生きていた、ということになるし、それは学者の通説として語られていてもおかしくはない。だが、それはヤスヴァールが明らかにするまで、皆黙っていたんだ。そんな歴史書があるってことを」

「……、ヤスヴァールは凄い人だったんだな」


 僕は石板を見つめながら、そう言った。

 ヤスヴァールが遺したものではないだろうが、彼がしてきた研究、その一端を見ることが出来た。

 それはこの世界に生きていく上でかなり重要なことだったかもしれない。


「石板に書かれていることはそれでおしまいか?」

「……そうだね。あと書かれていることといえば、この世界の歴史について、か……」


 バルト・イルファの問いに僕は答える。

 それを聞いたバルト・イルファは深い溜息を吐いたのち、ゆっくりと頷いた。


「この世界の歴史は、皮肉にも、人間が滅びゆく方向に進みたがるそうだ。それがどこまで本当なのかは定かでは無いが、いずれにせよ、この世界は人間を嫌っている世界であることは間違い無いだろう。……この二千年余の歴史がそれを証明している」

「……二千年の歴史、か」


 僕はバルト・イルファに声をかけた。

 しかしながら、バルト・イルファの考えを一概に認めたわけではない。僕としては、バルト・イルファの考えもあくまでも一つの証拠に過ぎないと考えている。彼の考えも、世界の歴史を紐解くうえで、どう考えていけばいいかという結論に至るまでのポイントになるのだから。


「……いずれにせよ、これ以上の情報収集は出来ない、ということか。まったく、これでは『花束』を探すことが出来ない。いったい、どこにあるというのだろうか……!」


 花束。

 それは神殿に向かうために必要とされている何か。それについては何であるか実際に見たことも触ったこともないから、例えば今目の前にある石板が花束だと言われたとしても納得するかもしれない。なぜその命名をしたのか、という疑問は浮かぶが。


「いったい花束ってどういうものなんだ? やっぱり実物、とまでは言わなくても具体的な形が見えないとはっきり……」

「そこまでよ」


 声が聞こえた。

 そしてその声は誰の声なのか、僕はよく知っていた。

 祠の入口に立っていたのは、紛れもなくメアリーだった。

 メアリーは一歩前に立って、バルト・イルファに問いかける。


「……バルト・イルファ。まさかここでまたあなたに会うことになるとはね」

「それは、こっちのセリフだよ。メアリー・ホープキン。だって、ここまで早くこの祠に到着するなんて……」

「まあ、ほんとうはもう少しゆっくりでも良かったのだけれどね。……だって、あなたたち、『花束』を持っていないでしょう?」


 メアリーはそう言って、僕たちを見下すように見つめていた。

 その手には、木で作られた古い杖のようなもの。

 もしかして、それが花束だというのか――。


「フル、お目が高いわね。あなたはきっと、これが花束だと想像しているのだろうけれど、まさにその通り。これは花束。これを使えば、神殿への封印が解かれ、真の力、その封印を解くことが出来る。まあ、そのためには儀式をこなす必要があるわけだけれど」


 花束をくるくると回しながら、メアリーの話は続く。

 儀式。聞いたことの無いフレーズだ。

 もしかして、バルト・イルファは、サリー先生は、何か僕にまだ伝えていないことがあるのではないか? 考えただけで冷や汗が一筋垂れた。

 メアリーは僕の表情を見て、冷笑する。


「……その様子からすると、誰からも『儀式』について何も聞いていない、ということね。それにしても誰も彼も適当過ぎる。他人ならどうだっていい、といえばいいかしら。いずれにせよ、自分さえ良ければいいという甘言は通用しない。それはフル、あなたもさっさと理解しておくことね」

「メアリー……、言いたいことは解るけれど、落ち着いて。そうじゃないと聞ける話もまとまらない」


 僕はメアリーの気持ちを苛めるようにそう言った。

 はっきり言ってメアリーの話はとても気になる。けれど、メアリーはどこか興奮している様子が見えるし、そうだと彼女に有用な情報しか僕に与えなくなる。それはメアリーの性格的問題ではなくて、人間の心理的問題らしい。僕も聞いた話だからどこまでほんとうか解らないけれど。

 いずれにせよ、目的の達成を先行しようとして、自分で不要な情報かどうかを勝手に判断して伝えてしまうため、僕が得たい情報とメアリーが伝えてくる情報が乖離する恐れがある。それを考慮して、僕はまずメアリーに落ち着いてほしいと言ったわけだ。

 メアリーは深呼吸を一つして、再度僕を見つめる。


「それもそうね。確かに私は少し我を失っているところがあった。実際問題、あなたには伝えたい情報がたくさんある。あなたが知っている情報が間違いだらけだということ。そのまま進めてしまうと、フルの身がどうなるか解ったものではない……ということ」


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