表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
176/335

第百七十五話 神殿への道⑥

 そうしてメアリーは踵を返すと、


「それじゃ、私は一旦眠ることにするよ。……ルーシー、あなたも眠ったらどう? 別に、ここの監視くらいほかの人に任せればいいじゃない」

「それもそうだけれど、僕はもう少し風にあたっておくよ」

「そう。……身体に気を付けてね」


 そのまま彼女は甲板を後にした。

 メアリーが甲板を出ていったタイミングで、ルーシーは呟く。


「……誰も居なくなったぞ」


 そう言うと、彼の影から何かが現出した。

 それはハンターだった。彼と契約したハンターは表の世界に出ることは可能だとしても、それが見つかってしまうことですべてが無駄になってしまう。そう考えたハンターは、誰かが居る間はルーシーの影に隠れることを提案したのだ。

 ルーシーとしてもハンターとの関係を取りざたされるのはあまりよろしいことではない。そう思っていたから、ハンターの意見に同意した。

 ハンターは肩を数回鳴らして、


「それにしても、私が提案したことだから仕方ないことであるとはいえ、人間の影に隠れるというのは億劫でどうも大変だな。出来れば二度としたくないが……、まあ、そうも言えないのが現状だ。ところで、何をしたい? 何のために私を呼んだ。それを話してもらおうか」

「何を話す、か……。人が居なくなったら呼べ、そう言ったのはお前だろ。だから呼んだだけの話だ。話をするなら……、そうだな。今後の内容を話し合うくらいか」


 それを聞いたハンターは舌なめずり一つ。


「ほう?」

「今後の提案だよ。ハンター。これから、フルを止めるために神殿へ向かう。そうして、僕はどうすればいい?」

「予言の勇者が妬ましいだろう?」


 一言、そう言い切った。

 ハンターの言葉に、ルーシーはゆっくりと頷く。

 もし彼が普段の思考能力があるとするならば、きっとその言葉に頷くことは無かったはずだ。

 しかし、今はその時代から十年が経過している。フルもその間ずっと封印されていた。ルーシーはずっと出会ってからメアリーのことが好きだった。でも告白することはしなかった。理由は簡単だ。メアリーがずっとフルのことを好きだったから。そうして、そのタイミングで告白したとしても、断られるのが目に見えているから。

 それが解っているからこそ、ずっとルーシーはフルを追い求めるメアリーをただ助けるだけに過ぎなかった。

 そして、ハンターはルーシーのその心の隙間を突いた。


「……予言の勇者さえ居なければ、自分はすべて手に入れることが出来た。いいや、それどころの問題じゃない。この世界をここまでしてしまったのは、予言の勇者がオリジナルフォーズの封印を解く魔法を使ってしまったから。そうじゃないか?」

「……確かに、確かにそうだ。フルがその魔法を使わなければ……」


 この世界がここまで破滅することは無かった。

 つまり……フルは敵?


「そうさ。そうだよ。フル・ヤタクミ、予言の勇者が自分勝手な行動をとったせいで、この世界はここまで破滅してしまった。今、彼はそれを戻そうと行動をしているらしいな。それは、つまりけじめをつけるということだろう。でも、それをつけさせていいのか? 元に戻す、ということでけじめをつけさせて構わないのか? そうすると、彼を裁くものは誰も居なくなる。だって世界は今度こそ平和になってしまうのだから」

「そうか。ということは……」

「予言の勇者を裁くのは、今しかないんだよ。ルーシー」


 耳元に周り、ぽつりと囁くハンター。

 予言の勇者を裁く。

 それは文字通り、予言の勇者を殺すことと同義だった。そうして、この状態でそれが出来る人間は――。


「ルーシー、それを成し遂げることが出来るのは君しかいない。君が持っている、シルフェの弓。それは、破魔の弓とも言われている。名前の通り、魔力を破ることの出来る弓だよ。もちろん、それと対になる矢が必要になるがね。……いずれにせよ、それを使うことで簡単に予言の勇者を殺すことは出来るだろう」

「でも……さすがにメアリーの前で殺してしまったら、どうなるか」

「そこは上手くやるんだよ。バルト・イルファという魔術師がともについているのだろう? 事故に見せかけるのさ。そうすれば、何もかも万事解決だ。矢を放つ。バルト・イルファはきっと障壁魔法を使うことだろう。しかし、この矢は特別な矢だ。そんなことは無駄だ。そうして、バルト・イルファに狙ったはずが、フルに当たる。……簡単なことだ。その一発で、すべてが終わる」

「でも……」


 やはり、ルーシーが危惧しているのはメアリーに見つかってしまう可能性だった。

 メアリーに見向いてほしい。それがルーシーの願いだった。そうしてそのための手段として予言の勇者を殺してしまうとして、それがルーシーの行ったことであるということが目の前ではっきりしてしまうのはよろしくない。

 それをルーシーは考えていた。予言の勇者を殺しておきたいが、それがメアリーに見つからずに秘密裡に殺してしまいたい、ということ。はっきり言って我儘な考えかもしれない。

 だが、それでもハンターは話を止めることは無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ