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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
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第百七十二話 神殿への道③

 そのころ、メアリーはルーシーから聞いていた作戦、その内容について思い返していた。

 ルーシーが考えた作戦は、非常に単純だった。

 きっと、オーダー――サリー・クリプトンが率いる組織は、フル・ヤタクミを連れて力の開放に向かうはずだろう。

 その力の開放を行うには、神殿へ向かう必要があり、その神殿の封印を解く必要がある。

 そして、神殿の封印を解くためには――。


「この『花束』が必要、だと……」


 メアリーの目の前には、一本の杖があった。

 その杖の先端は、まるで花のように開いていて、どこか無機質な不気味さもあった。

 ルーシーがどこからかもってきたその杖の名前は、花束と呼ばれるものだった。

 特殊能力も、攻撃力も無い。ならばどうして花束は杖として存在しているのかが解らない。

 しかしながら、その花束を使うことで神殿への道が開かれるのだという。


「……このよく解らない杖にそのような力があるようには思えないけれどね」


 杖を持ち、くるくると回しながら呟くメアリー。

 メアリーにはこの花束の意味が理解できなかった。

 では、これをメアリーに渡してきたルーシーならその意味を理解しているのだろうか?


「質問をしたところで答えてくれるとは思えないけれどね……」


 メアリーは目を細め、窓から外を眺める。外には赤い世界が広がっていた。

 赤い世界を、元に戻すために、オリジナルフォーズを封印する。

 オーダーとメアリーたちの組織は、その目的に関しては共通しているといえるだろう。

 しかし、問題はその方法。

 メアリーたちはできる限り穏便に済ませてしまいたかった。しかし、オーダーは力づくでもオリジナルフォーズを封印してしまいたかった。

 そう、例え――予言の勇者が死んでしまったとしても。


「そして、彼らはそういう計画を立てようとしている……。それだけは避けないといけない。この世界に死んでいい人間なんているはずがない。それに、予言ではそこまで記されていない。つまり、今の時代は私たち人間だけが考える世界。そんなことは絶対にあってはならない」


 メアリー・ホープキンの望む世界はハッピーエンド。

 決して、誰一人も死ぬことのない、理想的なハッピーエンド。

 不可能と言われても。お伽噺と言われても。

 そんなことは、とうに理解していた。それくらい指摘される前から解っていた。

 ルーシーにも話していない、メアリーだけの考える計画。そのハッピーエンドには最初からたった一つしか残されていない、フルとメアリーとルーシーが笑いあう世界。


「そんな世界は……、いいえ、そんな世界にしないといけない。みんなが笑って暮らせる世界。そのためにも、」


 オリジナルフォーズを封印する。

 それも、誰一人犠牲にならない方法で。

 そのためにもメアリーは行動しなければならなかった。既にフルにも情報は知れ渡っているかもしれない。そう思っていたからだ。

 花束を使った、神殿の解放。

 それを成しえることが出来るのは、花束を持っているメアリーだけだ。


「となれば、」


 答えは一つ。

 とっくに出てしまっている、だれでも考えられる選択肢。

 花束を手にして、フルたちよりも先に神殿へと向かう。


「フルの目を覚ます。今度こそ、いいえ、今回だって。フルはきっと操られているだけなのよ。だから、きっと、直ぐもとに戻るはず……」


 歪んだ道筋は直ぐには戻らない。

 それはきっと、お互いがその間違いに気づいたとしても。



 ◇◇◇



「……準備は出来たか、フル・ヤタクミ」


 僕がバルト・イルファからその言葉を投げかけられたのは、ルチアとの話をした二日後のことだった。

 バルト・イルファにそう言われたところで、準備等しているはずも無かったし、そもそも準備とは何をすればよかったのか、という話にもなってきていた。

 神殿への道のりはそう遠くない。それはバルト・イルファだけではなく、オーダー全員に聞いてもそう言っていた。まるでどこかで口裏を合わせているかのように。まあ、実際合わせているのかもしれないけれど。

 ただ、時間がかかってしまうのは確かとのことだった。やはり地形が変わってしまっていて、遠回りを要することもあるらしい。つまり、道のりが遠くない、というのは直線距離ではそう遠くないが――ということだった。


「……準備とは言うが、いったい何をすればいい」

「シルフェの剣さえ忘れなければいい。それ以外はこちらで準備した」


 なら準備をしたか、と言う必要は無かったのではないか。そんなことを思いながら、ベッドから立ち上がる。

 バルト・イルファが僕の身体を一回り見たところで、ゆっくりと頷いた。


「……健康も問題なさそうだな? どうやら、あの食事をしっかりと摂取しているようだ」

「あれを食事と言うのは、些か倫理観が崩れると思うけれどね」


 ここで出てきた食事はどれもペースト状だった。まるで離乳食のようなそれは、色が単色――つまり一つしか存在しなかった。それが平皿に満たされている状態となっている。味は少し薄い肉と野菜の味だったかな。それも素材を生かしている、と言わんばかりの調味料が無い状態の。


「軽口を叩けるくらいなら、ある程度は問題ないな。それを知って少しは安心したよ。……別に君の健康を心配しているわけではなく、神殿まで無事に辿り着けるかどうか、その話になるからね」


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