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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第二章 伝説の三武器編
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第百七十話 神殿への道①

 暗闇にも似たような石畳の通路を、僕とサリー先生は歩いていた。サリー先生が先頭になり、僕がそれについていく形になっている。明かりはサリー先生が炎を錬金術で生み出していて、それでカンテラに火をともしている形になる。

 サリー先生と僕は一言も会話をすることはなかった。僕から何か質問すれば良かったのかもしれないが、空間の空気――とでも言えばいいのだろうか。そういったものが僕とサリー先生の間に微妙な空気を生み出していた。


「……ここよ」


 サリー先生が立ち止まると、そこにあったのは鉄扉だった。

 鉄扉には窓のようなものがはめ込まれていたが、すりガラスのようになっていてそこから中を覗くことは出来ない。


「はいりなさい」


 扉を開けて、サリー先生が先に俺に入るように促す。いったいそれにはどういう意味があるのか理解出来なかったが、今はそれに従うしかないのだろう。そう思った僕はゆっくりと頷いて、その中に入ることとした。



 ◇◇◇



 中は意外と質素な作りだった。

 本棚が壁と一体化しているのだが、そこに入っている本は疎ら。それに明かりが点いていない。恐らく油が貴重品となっているから、そう簡単に使うことが出来ないのだろう。それを考えると致し方ないことなのだが。

 ソファが二つ並んでおかれている、その場所にサリー先生は腰かける。

 きっとここで話をするということなのだろう。そう思って僕も腰かけた。


「……あなたはこの世界についてどこまで理解しているつもり?」

「この世界に……ついて?」

「そう。この世界とは何であるか。ガラムドが神となり、この世界を作り上げた。しかしながらこの世界はかつて古い文明があったといわれている。その文明はどうして滅んで、どうして今の世界が成り立っているのか。その文献は残されていない、と言われている」

「世界の歴史がリセットされている、それも、故意に。ということですか?」


 僕の言葉にサリー先生は頷く。


「ええ、ええ。その通りですよ、ヤタクミ。あなたがどこまでこの世界の真実を知っているかは解りません。ですが、これだけははっきりと言えるでしょう」


 サリー先生は僕に向き直って、はっきりと言った。


「ヤタクミ。……あなたは最終的にある決断を迫られる時が来ることでしょう。その時には、あなたは、運命に縛られてはいけません。あなたはあなたの思う道を進まねばならないでしょう」

「……サリー先生、どうしてそれを知っているのですか?」

「私だって、祈祷師の血を継いでいる存在です。とはいえ、生業にしている祈祷師程ではありませんが。少しではありますが、予言だってできます。もちろん、今では貴重な存在となってしまいましたがね、祈祷師という存在自体が」

「というと?」

「あの破壊により、祈祷師や祓術師など、神の一族はほとんど消失してしまったのですよ。残されているのはあと僅かであるといわれています。たとえこの世界が再興していこうとも……、国のリーダーたる存在が居なければ話になりませんからね」


 国のリーダーが不足している。

 そもそも人が足りない事態になっているということなのだろう。

 果たしてそれは、オリジナルフォーズを封印することで何とかなるのだろうか?


「サリー先生……、僕はどうすればいいのですか? オリジナルフォーズを封印することで、この世界は本当に復活するのですか」

「いいえ、それは無いでしょう」


 無慈悲にも、サリー先生は首を横に振って答える。

 さらに話を続ける。


「この世界の脅威となっているもの……、それがメタモルフォーズであり、オリジナルフォーズであり、復りの刻なのです。そのどれもが、オリジナルフォーズに帰結している。オリジナルフォーズは、今は眠りについています。しかしながら、その最中であっても力は満たされ続けているのです。この意味が解りますか?」

「オリジナルフォーズを何とかしないと、何も始まらない……ということですか」

「ええ。この世界も、私たちも、何もかも。あのオリジナルフォーズを倒すか封印をしないといけない。我々はずっとこの十年間、それに縛られ続けたのですから」



 ◇◇◇



 サリー先生と僕の会話は、それから十分程続いたが、大した内容は聞き出せなかった。結局のところ、オリジナルフォーズを何とかしないといけないということが再確認できただけに過ぎない。

 僕の部屋に戻ってくると、まだバルト・イルファはベッドに腰かけていた。


「……いい情報は手に入ったかい?」

「別に。大した情報は手に入らなかったよ。……というか、バルト・イルファ。君はどちらの味方だよ。リュージュか? それともサリー先生か?」

「それは前も言ったはずだ。今はリュージュに捨てられた存在。そして、僕はサリーに拾われた。だから今はその恩を感じている、ということだよ」

「恩、か……。それにしても、どうすればいいかな」


 僕はバルト・イルファから少し離れた位置に腰かける。

 バルト・イルファと長く話をする必要がある、そう思ったからだ。

 バルト・イルファの話は続く。


「それは、君がどうすればいいかと考えればいいのではないかな?」


 それを聞いて僕はバルト・イルファのほうを向いた。


「君が得た情報がどれほどのものか解らない。それこそ、僕が知らない情報もあるだろうね。けれど、君の人生は君が変える。君に主導権があるのだってこと。つまり、君が得た情報で君が人生の主導権を握っていて、それを動かせばいいというだけ。別に何もしたくなければずっとここにいればいい。けれど、今よりも自由は奪われることになるだろうね」

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