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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第一章 勇者の帰還編
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第百六十六話 終わりの世界、始まりの少年⑬

 僕が目を細めて――疑っていると思われたのか――頷いたのか、ルチアは首を傾げて、


「おい、お前。まさか信じていないのか。というか、何をしにここにやってきた。まさか、このお茶を飲みに来たのではあるまいな。私と談笑に来たわけでもなさそうだが……」


 その通りだ。

 ルチアとは話をしないといけないことがいっぱいある。


「……実は、パスコードを教えてほしい。サリー先生の居る部屋へと向かうための」

「それを聞いて、あっさり私が教えるとでも思っているのか?」


 それは当然だ。

 それにそう簡単にパスコードが手に入るとは思っていない。

 だからパスコードを手に入れるまでは、僕の実力だ。交渉して、手に入れないといけない。


「……パスコードが手に入らないから、もう何もできないという感じかしら。確かに、パスコードを手に入れることで何が変わるか解らないけれど、いずれにせよ、何もしないというのであれば帰るがいい。そしてそのまま受け入れることね、あなたの運命に」


 そうして、デキャンタからお茶を注ぐルチア。

 ルチアにただ言われただけで、このまま出ていくわけにもいかない。

 やはりここは、ルチアを言い負かせてパスコードを手に入れないといけないだろう。


「……ルチア。僕はどうしてもさりー先生と話をしなければならない。理由は解るだろう? この世界のことについてだ。そして、僕が眠っていた十年もの間、何が起きていたのか僕が理解する必要があるからだ。そのためにも、僕は話をしなければならない。サリー先生から、すべてを聞かないといけない」

「すべてを聞く、ですか。それはサリーではないといけないのですか。バルト・イルファに、私もいます。書物で情報を仕入れたいなら図書室の場所をお教えしましょう。なぜわざわざサリーに会いに行く必要があるのですか」

「それは……」


 はっきりと言えなかった。

 ちゃんとした理由が無かったから、ではない。理由は確かにあった。サリー先生ならば信頼することができるから、サリー先生の話を聞けば落ち着くことが出来るから。

 少なくともバルト・イルファとルチアはかつて敵だった。だから、彼ら彼女たちから話を聞いても信用する証拠としては乏しい。

 書物を見たとしても、この有様では十年間の歴史を記した本があるかどうか怪しい。それに、書物は殆ど主観で描かれている。それを考えると、客観的な見方をした本を読んでおきたかった。しかし、それは無いと考えたほうがいい。そもそも、図書室があることも知らなかったし、ルチアが連れていく場所もほんとうに信頼足りえるものかどうかも解ったものではない。

 それを総合的に評価した結果、サリー先生と話をしたほうが僕の中で事実を噛み砕くことが出来る、或いは話を一番理解する上での近道という判断に至った。

 しかし、それがルチアと話し合ううえで彼女を論破するに値する発言であるかといわれると微妙なところだった。もしかしたら、だから、それがどうかしたか、と追及されてしまう可能性がある。そうなってしまったらそこまでだ。僕はサリー先生に会う手段を失うに等しい。

 ならば、どうすればいいか。

 その代案を考えていたのだが――それがなかなか浮かんでこなかった。

 そして僕はそのまま、ルチアとの話し合いへと突入していくのだった。


 ◇◇◇



 メアリーたちが乗る船には書庫がある。そこにはこの世界の歴史や文化を保存するために、できる限り残しておきたいとメアリーが考えたためのものだった。もちろんすべてが保存されているわけではなく、一部取りこぼしがある。それは別の安全圏に置かれているから問題ない、とされているのがメアリーの見解だ。

 そしてこの書庫は立ち入り禁止にはなっていないが、誰もやってくることはない。

 こんな時代で、進んで本を読もうという人間なんてあまり居ないのだった。

 しかし、今のルーシーにはそれが好都合だった。自分の部屋ならば直ぐに誰かが入ってくる可能性もあり得る。だからここならば滅多に人が入ってこない。シリーズとの会話も出来るだろう。そう考えたのだった。

 書庫の奥底にある椅子に腰かけ、漸くルーシーは溜息を吐いた。


『……漸く話すことの出来そうなポイントにやって来られたな?』


 シリーズの問いにゆっくりと頷くルーシー。

 そしてルーシーはゆっくりと話を始めた。


「先ずは、何から話せばいい? シリーズ」

『とにかく、先ずは呼び名から行こうか、ルーシー。シリーズという呼び名は言いにくいだろう? シリーズは色々と居るからね、私以外にも役回りが違う存在が何種類も。彼らと出会うことになるかどうかは定かではないけれど。彼らも忙しいからね。……さて、ルーシー、改めて私の名前を教えてあげよう。さっき私はシリーズといったけれど、それは私を含めた種族全般の呼称にすぎない。正確には、私は「ハンター」と呼ばれる。覚えておくがいい。そして、今後はそう呼ぶといいよ』

「……偉く高圧的な態度だな。僕と君にどのようなメリットがあるのか未だに理解できないが」

『言ったじゃないか。お前は惚れた女を自分のものにすることが出来る。私は……そうだね。面白いことが好きなんだよ。ただ、それだけだ。私にとって面白い事が起きればそれで構わない。何せ、この世界をずっと見ていくのは非常につまらない話だからね。面白い事といえばつい十年前に起きたあれか。人間たちには申し訳ないけれど、あの大スペクタクルはとてもじゃないけれど、またみられるものではないね』

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