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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第一章 勇者の帰還編
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第百五十八話 終わりの世界、始まりの少年⑤


 僕とバルト・イルファが到着した場所は、『暗闇』と表現するに等しい場所だった。

 簡単に言えばそう一言で片づけられる場所だった。


「ここは……」

「会議場。かつてのエノシアスタと呼ばれた町では、そういう目的として使用されてきたらしい。催事場、と言ってもいいかもしれないけれど、今はその現状をはっきり言って留めてなどいない」

「エノシアスタ、って……あの科学技術の最先端を誇ったと言われるあの都市のことか……?」

「そう。エノシアスタはかつて科学技術の最先端を常にリードしていた。それゆえに、『世界の研究所』とも揶揄された時代があった」


 気付けば、長机の向こうに誰かが立っていた。

 聞いたことのある声だったが、その時点では何者か判断する材料が非常に少ない。推論を立てずに、そのまま話を聞くこととした。


「フル・ヤタクミ。時が来たら、オリジナルフォーズを封印するため、ある場所へ向かいなさい」


 日が入り、少しだがその人間の姿を確認することが出来た。

 その人間は――サリー先生だった。


「サリー……先生?」

「驚くのも無理はないわ。私はずっと、あなたたちと接触を絶っていたからね」


 溜息を吐いたサリー先生は、昔出会ったサリー先生とまったく変わらない様子だった。

 サリー先生の話は続く。


「あなたが十年前、ガラムドの封印を解いてオリジナルフォーズをこの世界に放ってしまった。そのあと、世界の魔術師と錬金術師が知恵を振り絞って何とか無力化することに成功した。まあ、その大半の理由はオリジナルフォーズが力を失ったから、という理由に落ち着いてしまうのだけれど。いずれにせよ、オリジナルフォーズは今力を蓄えている段階にある。……その言葉の意味が解るかしら?」

「オリジナルフォーズは近いうちに……十年前と同じように暴れるだろう、ということですか」


 言葉に、サリー先生は頷く。


「その通り。けれど、十年前のような優秀な魔術師や錬金術師の殆どはかの災害で死んでしまった。つまりこの意味が解るかしら。この世界に居る魔術師や錬金術師ははっきり言って優秀とは言い切れない。そんな人材ばかりで、この世界を救うことが出来るのか? 答えはノー、よ」

「いやにはっきりと言い切りますね……」

「あなたがオリジナルフォーズの封印を解いた結果ですよ」


 サリー先生ははっきりと言い切った。

 そして、僕ははっきりと示されたその事実を飲み込めきれずにいた。

 当然といえば当然だったのかもしれないけれど、サリー先生にとっても、いや、この世界の人間にとっても――その怒りは当然だったのかもしれない。


「オリジナルフォーズの封印を解いた……のは、僕だったのか」

「当然でしょう。あの魔法はガラムドの書にしか記載されていなかったと知られている。そして、ガラムドの書を持っていたのはあなただけ。つまりその意味が理解できるかしら? 理解できないような知能は持ち合わせていないと思うのだけれど」


 踵を返し、サリー先生はさらに話を続けた。


「近いうちに、バルト・イルファとともに『封印の地』へ向かいなさい。そこはかつてリュージュが根城にしていた古代研究所があった場所。そして、偉大なる戦いでオリジナルフォーズが封印されていた場所。今も、オリジナルフォーズはそこに居る。もっとも、今は、封印は解除されていて、眠りについている状態にあるのだけれど」

「眠っている状態……ということは、今はまだ暴れだす状態には無いということか?」

「その通り。とはいえ、いつ目覚めるかはっきりとしていないけれどね。うちの研究員に調べさせても全然答えが導き出せない。ここには古代のオーパーツたるコンピュータが眠っているというのに。それを使ってもなお、解らないことがあるということなのかもしれないけれど」


 そうしてサリー先生はゆっくりと姿を消した。

 バルト・イルファと僕だけがその場所に取り残される。

 会話は、生まれない。

 当然のことだろう。十年前、僕と彼は敵同士だった。僕は世界を救うために、バルト・イルファはリュージュの野望を達成させるために、それぞれがそれぞれの意志をもって戦っていた、はずだった。

 しかし、十年後の今。僕とバルト・イルファは同じ施設に居た。

 いや、そもそもこの状態ではサリー先生が味方である保証もない。かといって敵である確証も掴めていない。まだ状況証拠と物的証拠があまりにも足りないからだ。

 早くこの状態から脱出したいところだったけれど、先ずは今の状況を冷静に見極める必要がある。


「そのためにも、情報が欲しい」


 僕は気付けば、そんなことを呟いていた。


「……外の世界を見せてあげようか」


 助け船を出したのは、ほかならないバルト・イルファだった。

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