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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第一章 勇者の帰還編
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第百五十七話 終わりの世界、始まりの少年④

「それはただの言い訳に過ぎないかしら。リュージュ様が世界を作ろうとも、お兄ちゃんが世界を変えようとも、真実はたった一つだけ。あの『未来視の黙示録』に記載されていることを……どちらが成し遂げるのか、というだけ」

「未来視の黙示録……?」


 ルーシーは首を傾げ、ルチアに訊ねる。

 しかしルチアはそれについて答えることは無く、


「まあ、私はお兄ちゃんと話をつけにきたわけじゃないんだよ。私にも一つの目的がある。それを達成することで……、世界は『浄化』される」

「浄化、か。まあ、それは別に問題ないことだ……なんて言えるとは思えないね。アドバリー家の家訓を忘れたか? 『私心ではなく、正義を貫くこと』と……」

「それはただの古臭い習慣に過ぎないよ、お兄ちゃん」


 ルーシーの言葉を、ルチアは一閃した。

 ルーシーは目を瞑り、さらに話を続ける。


「古臭い習慣、か……。でも、それをずっと守っていくことで僕たちが居る。アドバリー家がずっと続いているのであるとすれば?」

「それは今までの結果に過ぎないよ、お兄ちゃん。結局のところ、そのままじゃ何も変わらない。ならば、世界を変えるしかない。正義がどうだとか、そんなことはどうだっていい。ルールでも、しきたりでも、そんなものは……守るためにあるわけじゃないのだから」


 言って、ルチアは再び不敵な笑みを浮かべる。

 その時だった。

 ルーシーの背後で爆発があった。

 急いで後を振り返ると――そこに立っていたのは見覚えのある男だった。


「お前は……バルト・イルファ!」


 赤い服に身を包んだ赤い髪の男。

 その男が、フルの身体を抱きかかえていた。


「貴様、フルを……!」


 ルーシーは武器を手に取ったが、残念ながらルーシーたちは武器を持ち歩いていない。

 それを知っているか否か、バルト・イルファは笑みを浮かべる。


「どうやら、予言の勇者の取り巻きは十年以上経過しても何も強くならないどころか、人間の柵に囚われていて、何も出来ないようだね……。残念なことだ。それで世界を救おうと言っているのだから、阿呆らしい」

「果たして、ほんとうに阿呆らしいのはどちらかな?」

「言っていろ。それが、君の思う道であるとするならば」


 そして、バルト・イルファは指を弾くと――バルト・イルファとルチアの姿は無かった。

 それはまるで狐につままれたような気分だったが、そうも言っていられないのが現実。

 彼は落胆している様子を見せることなく、溜息を一つ吐いて、部屋を後にした。



 ◇◇◇



 目を開けると、そこも見たことの無い天井だった。青白い光は恐らく蛍光灯の一種だろうか。とにかく状態を確認しようと思ってゆっくりと起き上がる。

 そして僕は一瞬でそこが先程の部屋とは違う場所であることを理解した。

 何もない部屋だった。

 足元にはバルト・イルファが立っていた。


「……バルト・イルファ、お前、いつの間に……!?」


 気付かなかった。いつの間に部屋に入ったのか、或いは最初から部屋に入っていたのか。そもそもここはどこなのか。


「目覚めたか。……とにかく、身支度を整えて来ると良い。君を呼ぶ人がいるからね」

「それは、いったい……?」

「それを今言うと、楽しみがなくなってしまうだろう?」


 仕方ない。

 とにかく今の僕には解決の糸口が見えてこない。それを考えると先ずは情報を収集する必要があるだろう。そう思って、僕はバルト・イルファについていくこととした。




 バルト・イルファについていく僕は、ずっと通路を歩いていた。その通路はどこか見覚えがあるようにも見えるが、全体的に汚れているように見えた。その汚れは血か、吐瀉物か、それ以外にも思えるが……はっきり言って、あまり考えたくない。

 外の景色を見てみたいところだったが、ずっと窓が無い空間を歩いているため、外を見ることは出来ない。景色を眺めるには直接外に出るしかないようだったが、それはそれで面倒なはなしだった。いったいどうすればいいのだろうか……。


「あら、目を覚ましたの」


 前からやってきたのは、ルチアだった。


「つい先ほどね。どうだい、君も何か話すことは?」

「無いわよ。そんなこと。別に義理も無ければ温情も無い。ただこの世界を救う救世主、なのでしょう? だから助けただけ。正義なんてどうだっていい」

「君はそういう人間だったね」


 バルト・イルファは肩を竦め、フランクに手を振った。

 対してルチアは不愛想な様子を見せて、そのまま立ち去って行った。


「彼女はいつもああだからね。敵にああいう態度を示すならまだしも、味方にもあの態度だから。彼女を敵視する人間は多かっただろうねえ。いや、人間だけじゃない。別の存在だって……」


 そこまで言ったところで、再び歩き始める。


「おっと、時間の無駄だ。このまま話しているといつまでも語ってしまいそうだ。そんなことをしたらきっと『彼女』に怒られてしまうだろうからね」


 そう言って、バルト・イルファは再び前を向いた。

 それを見た僕は――僕を呼んだ相手が誰なのか考えながら、バルト・イルファの後についていくのだった。

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