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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第一章 勇者の帰還編
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第百五十一話 新世界 -Alone prologue-①

第2部

 甲板から見える景色は、血のように真っ赤だった。

 ブロンズのポニーテールをした少女は血のように真っ赤な世界をただ眺めていた。


「……また、ここに居たのかい?」


 問いかけたのは、一人の男だった。


「ルーシー、」


 少女は男の名前を呼んで、頷いた。

 男は溜息を吐いて、少女の隣に立った。


「こら。ルーシーさん、だろ。いったい全体誰に似たのやら……」


 ルーシーは茶化して、話を続ける。


「それにしても、どうしてここに? 別にここにはなにもないとは言わないけど……、だからと言って来る意味も無いように思えるけれど?」

「……でも、私はここに居たいの」


 少女は言った。ルーシーは溜息を吐きつつも、彼女の隣から離れていく。


「……僕は君が心配だからそう言っているんだよ。君にとってはどうでもいいことなのかもしれないけれどね」


 そうしてルーシーは船室へと入っていった。

 少女は再び血のように真っ赤な世界を眺めるばかりだった。



 ◇◇◇



「アーティフィシャル・プロジェクト……ですか」

「そう。リバイバルプロジェクトは何千年も昔の老人が考えついたアイデア。つまり古いアイデアなのよ。それをずっと続けていくのも悪くは無いけれど……、どうも非効率なのよねえ」

「……ですが、それしかないのですよね? でしたら、それをするしか方法は無いのでは……」

「ええ。でも改良は必要だった。結局のところ、神は降臨しなかった。神が降臨しない限り、世界は浄化されることはない。いや、正確に言えば、私が私の目的を果たすことは出来ない、ということになる」

「……そう、なるんですかね?」

「そうなるのよ。……あなたの理解の遅さには正直頭を抱えるくらいだけれど、それについては伏せることとしましょう。結局のところ、私の目的を果たすためにはリバイバルプロジェクトでは失敗してしまうということだった。それについては解るかしら?」

「……それは、理解しております。重々、理解しております」

「よろしい。……しかしながら、リバイバルプロジェクトが失敗だと解っている以上、わざわざそれを実行する必要は無い。ならば改良した別の方法を取るべきだった。それがアーティフィシャル・プロジェクト。何も難しい形じゃない。やり方は非常にシンプルなのだから」

「シンプル、ですか……」

「そう。結局のところ、そうなってしまう。物語の可能性を突き詰めたところで何も変わらない。だからこそ、私は失望したのよ。世界に、そして、ガラムドに」



 ◇◇◇



 真っ赤な世界を見つめていた彼女だったが、はじめにその異変に気付いたのは彼女では無かった。


「……ディア! 急いでそこから離れるんだ!」


 大急ぎで船室を出たルーシーに慌てることなく、彼女は言った。


「ルーシー、始まったのね?」

「だからルーシーさん、と……。ああ、そうだよ。始まった。『(もど)りの刻』だ」


 遥か下に見える下界では、真っ赤な世界が広がっているだけだった。

 しかし、その真っ赤な世界から、ぽこっ、と一つ泡沫が生まれた。

 それは一回だけではない。何回も、何回も。その泡沫はゆっくりと形になっていく。弾ける泡沫もあった。壊れゆく泡沫もあった。しかし、壊れない泡沫はその泡沫同士でくっついていき、軈て一つの物体となった。


「……もう何年、毎日のようにこれを見たか解らないが、やっぱり気味が悪いことには変わらないよ。それに、何というか、あの世界がかつて僕たちが暮らしていた世界とは思えないくらい、変わってしまった」


 ルーシーはその光景をただじっと眺めていた。

 復りの刻。

 かつて世界が正常から破綻してしまった頃、そしてゆっくりと復興していくはずだった世界を拒んだのがその現象だった。

 真っ赤な世界とは、簡単に言ってしまえばそのままだ。世界の構造や外観は、かつての世界そのものだったが、色が全て赤で統一されてしまっている、ということだった。

 赤の原因は不明だ。人間の血ではないかという学者も居るが、説の立証が出来ない以上何とも言えないのが現実だった。

 復りの刻を迎えると、その血から人間が生まれる。正確に言えば、人間だけではない。動物全般が含まれることとなる。しかもそれはもともと生きていた人間がそのまま蘇ることを意味していた。

 だからこそ、『復りの刻』という言葉が使われているのだった。復りとは、もともと生きていた人間がその時間を経て復活することを意味していた。

 調査したところによると、復りの刻によって復活した人間はそのまま今まで通りの生活を送っているらしい。しかしながら、再現されるのは人形の部分のみになってしまい、細々とした部分は再現されないらしい。また声を発することが出来ないため、コミュニケーションを取ることがほぼ不可能だろうと推測されている。

 ならば、復りの刻で復活した人間と生活を送ることは出来るのか? という質問が当然浮かんでくるだろう。

 答えは残念ながら不可能だった。彼らは独自のコミュニティを築き上げ、それ以外の存在を淘汰していくことが明らかになったからだ。

 その存在に、かつての人間も含まれていた。

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