第百四十四話 目覚めへのトリガー⑭
「そんなこと……、そんなこと許してたまるものか!」
「あなたに何ができるとでも? 今のあなたは囚われの身。これで何かできると思っているのならばお笑い種ね。まあ、笑えないことは確かなのだけれど。いずれにせよ、これ以上あなたは何もできない。オリジナルフォーズが復活した時点でチェックメイトなのよ」
確かにそうかもしれない。
倒すことが出来ない。でもそれは確定じゃない。まだ僅かでも可能性が残っているはずだ。その可能性を突き詰めることが出来れば、或いは――。
「何を考えているか知らないけれど、これ以上は無駄。それを認めなさい。まあ、きっとあなたの仲間も気付いている頃でしょう。オリジナルフォーズが復活しているという事実を、認めざるを得なくなるわ」
◇◇◇
メアリーたちは島の中心に向かうべく歩いていた。カーラは国王を守るべく船に残ったため、歩いているのはメアリー・ルーシー・レイナの三人になる。
深い霧の中をゆっくりと進んでいく。五里霧中、とはよく言ったものだった。
「それにしても……ほんとうに深い霧ね。霧を晴らすことの出来る魔法でも覚えていれば良かったのだけれど。そんな都合のいいものは見つからないし……」
「そうだね……。さっきから地響きもするし、もしかしたらオリジナルフォーズが復活しているのかも……」
彼らの疑問は専らそれで一杯となっていた。
オリジナルフォーズが復活しているのではないか、ということについて。疑問が浮かんでいた。
しかしながら、それは同時にフルが魔法を使ったということになる。力に屈してしまったのか、或いは操られているのか、或いは。
「彼自身の意志で魔法を使ったのか、……まあ、それは考えたくないけれど」
ルーシーがぽつりと呟く。
フルはずっとこの世界を救うために旅をしてきた。だからそれはあり得ない。それは彼ら全員の共通認識だった。
だからこそ、メアリーは理解できなかった。いや、どちらかといえば、リュージュの策略で無理矢理魔法を使ったと位置付けたかった。
「あ、霧が晴れてきた……」
進んでいくうちに、霧が晴れてきた。どうやら霧がかかっていた場所を何とか抜けることが出来たようだった。
そして、視界が開けていくうちにその光景を目の当たりにすることとなった。
そこに広がっていたのは、巨大な城だった。とはいえリーガル城やスノーフォグの城のようなものではなく、荘厳な雰囲気と堅牢な造りをしていた。どちらかというと城塞という言葉が近く、正しいものかもしれない。
「……これが、こんなものが、この島に……あったのか」
そしてその隣には、二本足で立つ巨大なメタモルフォーズ。その大きさは今まで彼らが戦ってきたそれとは桁が違うほど大きいものだった。
「まさか、あれがオリジナルフォーズ……!?」
「そうかもしれないわね。となると、やはりオリジナルフォーズが復活してしまったということは、信じざるを得なくなってきた、ということになる」
ルーシーとメアリーがそれぞれ会話をする。
そうしてルーシーたちは城塞を一瞥する。ぐるっと見渡すと、そこに入口のようなものが一つあるのが見えてきた。
「……誰も居ない。もしかして罠、か?」
「そうかもしれないわね。けれど……今の私たちにはここに入る以外の選択肢が残されていない。行くわよ、ルーシー、レイナ。フルを助けるために、そして、オリジナルフォーズを倒すために」
その言葉にルーシーとレイナは大きく頷いた。
そして彼らは――そのまま城塞の中へと入っていくのだった。
◇◇◇
「メアリー・ホープキンが侵入してきました」
しかしながら、メアリーたちが侵入してきたという情報はリュージュに瞬時に伝わっていた。
リュージュは笑みを浮かべて、情報を伝えてきた少女兵士を見つめる。
「ごくろうさま。それにしても、あっという間に到着してしまったわね。足止めはしなかった、とはいえ……あまりにも早過ぎるとは思わない?」
ジャラ、と鎖を地面に引き摺る音が聞こえる。
壁につけられた鎖を鬱陶しそうに見つめながら、痩せこけた男は笑みを浮かべる。
「当然だよ、彼らは私がかつて研究したあのコンパスを持っているのだから」
「『落とし物のコンパス』だったかしら……。はっきり言ってふざけた研究だとは思っていたけれど、まさかこんなことになるとはね。ねえ、タイソン・アルバ?」
リュージュの後ろにはタイソン・アルバが居た。その姿はかつてフルたちと出会ったときに比べて身体の肉が全体的にごっそりと減っているようにも見えた。やつれている、と一言でいえばそういうことになるのだろう。
リュージュの言葉を聞いて、タイソン・アルバは一笑に付す。
「そろそろ手詰まりだと考えたことはないのか、リュージュ」
「……何ですって?」
リュージュはタイソン・アルバの言葉を聞いて、首を傾げた。それは、タイソン・アルバに挑戦状を叩きつけているようにも見えた、高圧的な態度の現れとも言えた。
「そもそもこの世界を滅ぼすということが間違っていた。私が研究した人工的に知恵の木の実を作り出すことだってそうだった。その研究が世の中のために役立つのか? そしてリュージュ、お前がすることも世界に役立つことなのか?」
「……多元世界」
「……なんだと?」
今度は、タイソン・アルバが首を傾げる番だった。
リュージュは満足そうな笑みを浮かべて、話を続けていく。




