第百三十四話 目覚めへのトリガー④
「ハイダルク王はこのことについてご存知でしたか?」
メアリーの質問を聞いてすぐに首を横に振るハイダルク王。
「まさか。そんなわけがないだろう。リュージュについての疑惑はところどころで見てはいたが……まさかこんなことになろうとはな」
ハイダルク王は深い溜息を吐いたのち、悲しそうな表情をした。
彼の居城――リーガル城があのような姿になったことについて、驚きを隠せないのかもしれない。
「……カーラさんはどうしてここに?」
ここで会話をハイダルク王からカーラに移したメアリー。理由として、ハイダルク王はすっかり憔悴しきってしまっていて話をするならばまだカーラとするほうがいいだろうという結論からだった。
カーラもまた若干憔悴しきってはいたが、話をすることは出来るようで、頷いたのち、
「私は村長についてきただけよ。エルファスの再生計画について、プランを国王陛下とお話しするために、ね。私はただの秘書的役割としてここに来ていただけだったのだけれど……、まさかこのようなことに巻き込まれてしまうとはね」
そう言って深い溜息を吐く。
カーラもまた、このような事態に巻き込まれることを想定外の事態だと認識しているようだった。
「……つまり、このようなことが起きるとは想定していなかった、と?」
「ああ、その通りだよ。まあ、そういっても無駄かもしれないがね……。すでにあのリュージュは世界の全権を掌握していたに等しい。私もそうだが、世界のトップに根回しをしているはずだったからな。……まあ、それでもほんとうに全員がそうであるかというのははっきりと言いづらいが」
「ハイダルク王。それはすなわち……」
「ああ」
ハイダルク王は深く頷いたのち、ゆっくりと話し始めた。
「……我々はリュージュがどうしていくのか、知っていた。知っていてなお、それを止めることはできなかった。正確には、行動すべてがリュージュに監視されていた、とでもいえばいいだろうか……。リュージュはあちらから積極的に発言していくことは皆無だった。しかしながら、こちらがリュージュの行動に干渉するようなことがあれば、それは直ぐに排除される。それが、リュージュのやり方だった」
「リュージュはすべてを把握していた。そして、掌握していた……。つまり、私たちの足取りも……!」
「はっきりと、解っていただろう。けれど、それについて私たちは何の関与もしていない。……なんてことを言っても無駄だろうな。君たちに嘘を吐いてしまったことはほんとうに申し訳ないと思っている。嘘ではない。信じてくれ」
「……もうこれ以上話をしている時間はないと思います」
言ったのはメアリーだった。
そして、彼女の話は続けられた。
「今から私たちは予言の勇者……フルを助けに行かないといけません。ですから、急いで向かう必要があります」
「……どこへ向かうというのかね」
「目的地ははっきりとしているのでしょう」
言ったのは、ルーシーでもメアリーでもレイナでもなく、カーラだった。
「かつてオリジナルフォーズが神ガラムドの手によって封印された、絶海の孤島。名前はついていませんが、その島からすべてが始まった……。そうでしょう?」
「なぜ、そのことを……」
「リュージュがオリジナルフォーズを復活させようとしているならば、向かうところはそこになるでしょう。予言の勇者を欲する理由は解りませんが……、もしかしたら、オリジナルフォーズを目覚めるには予言の勇者の力が必要なのかも……」
メアリーたちを乗せた船は、決戦の地へと向かっていく。
その場所に何が待ち受けているのか――今の彼女たちは知る由もなかった。
◇◇◇
僕は監獄に入れられていた。
その場所には唯一窓がつけられていたが、その窓も鉄格子がつけられているため脱出することはほぼ不可能だった。
はっきり言ってしまえば道を覚えていないわけではないから扉を開けさえすれば逃げることは可能だ。この場所が絶海の孤島であることを除けば、の話になるけれど。
リュージュがこの島まで連れてきたのち、僕たちはイルファ兄妹に連れていかれる形でこの監獄に投獄された。
扉を破壊することは簡単だと思う。頭の中にあるガラムドの書、この魔法を使えばいいのだから。そして扉を破壊するための出力を出すことのできる魔法は脳内に幾つかラインナップされている。
問題はイルファ兄妹、リュージュ、その他の兵力に見つかった場合――のことだった。




