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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百十九話 知恵の木⑥

「そうだった。フィールズ。あなたに一つ教えておきましょうか。あなたと私の認識のズレを少しは解消しておかないとね。きっとこれが最後の会話になるでしょうから」

「いったい何を……!」

「メアリーを外に出したことは、私の計画の範囲内です。これを言っても?」

「何だと……。それは、負け惜しみに過ぎないはずだ」


 それを聞いたリュージュは高らかに笑った。


「……メアリーはそろそろ外に出しておかないとね。『スペア』の役割を担っていることだし。まあ、それはあなたもよく知っていることでしょうから、細かく今から話すことも無いでしょう。だって面倒だもの」


 スペア?

 それを聞いてメアリーはもっとリュージュの話を聞きたいと思っていた。自らにどのような役割があったのか、それが気になったからだ。

 だが、リュージュはこれ以上話すことなかった。そして、それはフィールズも同じだった。


「スペア……。そうだったな。しかし、そうでも納得できない。まるでそのスペアを使う機会が無いから、追放したという風にもとれるが?」

「逆よ。スペアを使う機会があったから外に出したのよ。私の寿命は人よりも何倍も、いや、何十倍も長い。それはあなただって知っているでしょう? 祈祷師の寿命は何百年。人によっては千年単位も生きることだってあるけれど、そんなことはごくわずか。そのためにも、メアリーというスペアを用意した。私の力を直接引き継ぐためのスペアをね」

「……まるで君がすぐに死んでしまうようなことを言っているようだね?」

「私はいつ死ぬかなんてわからない。そんなことは『視』えないわけだから」


 リュージュはそう言って、右手を差し出す。


「さて……、私のところへ戻ってきてありがとう。フィールズ。最後に何か言い残した言葉は無いかしら?」


 炎を作り出し、それが徐々に大きくなっていく。

 フィールズは何もせず、笑みを浮かべた。

 何か策があるのか――リュージュはそう思ったが、まったく策なんて考え付いていなかった。ブラフをするつもりも無かった。

 ただ単純に、笑っていただけだった。


「……まさか最後に君からそんなことを言われるなんてね。温情、ってやつかな。僕としてはただ一つだけ。これだけ言わせてくれよ」


 そして、フィールズは眼鏡を上げて、


「――愛しているよ、リュージュ」

「そう。私もよ、フィールズ」


 刹那、彼女の放った炎がフィールズに命中した。



 ◇◇◇



 メアリーは知恵の木に触れたまま、その身体を硬直させていた。

 いったい何が起きたのか僕たちには全然解らなかったが、自然と僕たちは待機していた。

 いつメアリーが意識を取り戻してもいいように、待機していた。


「メアリー……、大丈夫かな。いったい、どのような試練を受けているのだろう……」


 頭の中に響いた声から、僕たちは試練のことだけを聞いていた。

 けれど、僕たちはその試練がどのような内容なのか――というところまでは聞き及んでいない。


「うん。どうなのだろうか……。とはいっても、あのまま動かしちゃいけないとも言われているし……。ただ僕たちはその試練をクリアするかどうか、見守るしか無いのかもしれない」


 動かしちゃいけないということ。それも頭に響く声から聴いたアドバイスのようなものだった。今から彼女は試練を受ける。けれど試練を受けている間はその身体を動かしてはいけない、ということ。正確に言えば知恵の木からその手を離してはいけない、ということらしい。理屈やシステムはよく解らないけれど、よく解らないなりに話を聞いて、従っているという感じだった。

 メアリーの身体がゆっくりと反応を示したのは、ちょうどその時だった。


「メアリー!?」


 僕たちはメアリーの反応を見て、急いで彼女のもとへと向かった。

 メアリーは目を瞑っていたけれど、ゆっくりと目を開けて、僕とルーシーの顔を交互に見つめた。


「ふ、フル……それにルーシー……。あれからどれくらい経過したの?」

「たぶん、三十分も経過していないと思う。……メアリー、無事に戻ってきた、ということは……試練は成功したのかい?」

『ええ、その通りです』


 再び、脳内に聞こえる声。

 メアリーはその声を聴いて大きく頷いた。


「試練は終わった。……確かに、力を感じる。今なら、前よりももっと強い錬金術を使うことが出来る……と思う」


 しかし、メアリーの表情は暗い。どうしてだろう? 無事に試練も乗り越えたはずなのに、どうしてメアリーの表情はまだ暗いままだったのか。

 それを訊ねようとした、ちょうどそのタイミングだった。

 メアリーが僕とルーシーの顔を再び交互に見て、大きく頷くと、


「フル、ルーシー。私、あなたたちに言いたいことがあるの。どうしても、今、伝えないといけないことなのだけれど……」


 そう話を切り出して、一息。

 言い澱んでいたけれど、ゆっくりと、メアリーは告げた。


「今回の敵、リュージュは……私の母親、よ」


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