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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百十四話 知恵の木①

 知恵の木。

 それはすべてが黄金に輝く伝説上でまことしやかに語られる存在だった。

 レイナと初めて出会ったとき、そして仲間になりたいと進言したとき、彼女ははっきりとこう言った。



 ――私は『知恵の木』を一度でいいから見てみたい。それが私の夢だった。



 そして、レイナ――正確には僕たち全員という形にはなるけれど――知恵の木を目の当たりにしていた。あの声の導かれるままに魔導書があった場所を抜け出すと、僕たちに立ち塞がるように存在していた石は無くなっていた。それはそれで問題ないといえば無いのだけれど、問題はその先にあるものだった。

 その先にあったのは、広い空間だった。とはいえ外に出たわけではなく、頭上にある穴から光が差し込める空間となっていた。

 そしてその空間に、すべてが黄金に輝く木が生えていた。

 枝も、幹も、葉も、実も。何もかも黄金に輝いていたそれは、非現実的なものではないか――今僕たちは集団的に同じ夢を見ているのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 だけれど、その木は確かに僕たちの目の前に存在していた。


『この木に触れた人間は能力を得ることが出来ます。正確に言えば能力を開放することが出来る、と言えばいいでしょうか……。まあ、表現としては間違った話ではないことは事実ですね』

「能力を開放することが出来る……だとすれば、やる人間は一人しか居ないのでは無いか?」


 その言葉を言ったのはシュルツさんだった。


「私とレイナは、はっきり言って成り行きでここまで来てしまったようなもの。ともなれば、ずっと旅を続けてきた君たちにその能力を開放してもらったほうがいいだろう。で、確かこの前言っていたよね。フルは魔法の加護、そしてルーシーは守護霊の加護を受けている。あと受けていない人間と言えば……」

「……わたし?」


 メアリーは自身を指さして、首を傾げた。

 こくり、と僕は頷いた。

 シュルツさんの言葉はもっともだった。僕たちを基本として、それぞれ二人は目的があり、その目的を達成した後は彼女たちの自由だ。メンバーを離れてしまっても構わないし、逆についてきてもらってもいい。はっきり言ってしまえば、ついてきてもらったほうが僕たちとしては戦力が増強されるから構わないのだけれど、そうもいかないのが事実。やっぱり、僕たち三人で何とかしないといけないのだろう。


『では、決まりましたか』


 声は僕たちに問いかける。

 僕は頷き、メアリーが一歩前に出た。


「……私が、するわ」

『では、木に触れてください』


 その声の通り、メアリーは木に触れて――目を瞑った。



 ◇◇◇



 メアリーが木に触れたとたん、その手を通してエネルギーが流れ込んできた。そのエネルギーはまさにこの星の記憶。記憶をエネルギーとして莫大な量を保管している。そしてそれを凝縮して木の実としている知恵の木の実があるわけだが、その木の実ですらエネルギーは有限だ。

 しかし知恵の木はその根源にあるわけだから――エネルギーはほぼ無限と言ってもいい。正確に言えば星の記憶をエネルギー変換することで莫大なエネルギーを無限として扱っているだけであり、莫大ではあっても無限ではないということだ。

 彼女は目を瞑る。そのエネルギーの逆流は、痛みを伴う。静脈、動脈。あらゆる血の流れを押しのけるようにエネルギーが半ば強引な形で体内にめぐっていく。


「う……くっ……!」


 耐えきれなくなって、思わずメアリーは声を出した。


『我慢してください。まだ、エネルギーの循環は続いています……』


 声は聞こえる。だからメアリーは耐えるしかなかった。

 フルとルーシーが加護を得ていることに劣等感を覚えていた、と言われれば嘘ではない。彼女も彼女なりにプライドがあり、それが傷つけられていた。もちろん、それは本人が知ってか知らずかのうちに、ではあったが。本人は別に傷ついたと思っていなくても、無意識のうちに傷つけられたと認識してしまうこともある。それが無意識にストレスとして蓄積してしまう。

 強くなりたい。

 フルとルーシーに守られるのではなく、フルとルーシーを守るような、強い力が欲しい!

 そうしてメアリーの意識は――知恵の木の中へと取り込まれていった。




 メアリーが次に目を覚ました時、そこは白い空間だった。


「……ここは?」


 メアリーには見覚えのない空間だったため、辺りを捜索することから始めた。

 どうして自分はここに来たのだろうか? ということまで考えることは無かったが、自然と彼女の口から、


「……もしかして、力を開放するための……試練?」


 そんな言葉が零れ落ちた。

 同時に、彼女の視界が描かれていく。まるで今までの白い空間がキャンパスだったかのように、ものすごい勢いでレイヤーに描かれていく。

 そしてその空間が、漸く真の姿を見せた。

 そこは、とある部屋だった。豪華な部屋ではあったが、人の気配は見られない。小さいベッドに子供が遊ぶような玩具がたくさん並べられている。

 けれどメアリーとしては、その空間はどこか見覚えがあった。

 でも思い出すことは出来なかった。頭の奥底にはこの部屋の記憶があったはずなのに、何故だか思い出すことが出来ない。それが今の彼女にとって、不思議で仕方なかった。

 その部屋に誰かが入ってきたのは、ちょうどその時だった。

 急いで部屋の隅に隠れて、彼女はその入ってくる人物の様子を窺った。


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