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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百十話 ライトス銀と魔導書⑧

「……真教会、か。あいつら、自分たちが唯一の正義と謳っているから言いたい放題だな。まあ、それを国の宗教としている以上、逆らうことはなかなかに難しいことなのだろうが。それにしても、烏滸がましい話とは思わないのか? 確か真教会の言い分だと、ガラムドは天界に居るはずだ。そのガラムドと同じ地位に立ちかねないものを進んで開発させるとは、はっきり言って信じ難いが」

「それは私に言われても困りますね」


 ルズナは眼鏡の位置をずらすと、不敵な笑みを浮かべて、靴を脱ぎ、畳の上に入ってきた。

 それを見たタンダは怪訝そうな表情を浮かべていたのだが、それを僕たちが居る場では言えないのだろう。というか、もう結構な回数僕たちの前で言っていることだし、別に隠す必要は無いと思うけれど。

 それはそれとして。

 タンダの言葉が無いことをいいことにルズナはずいずいと入ってきて、僕の隣に、正確には僕とメアリーの間にあった僅かなスペースに入り込んできた。


「ちょいと、失礼させてもらうよ。立ち話をするのも疲れるんだ。研究ばかりしているからだろ、と言われてしまうかもしれないがね……。まあ、実際にはそれ以外のこともしているわけだけれど」

「だからと言って、そこに入っていいと許可していないぞ」

「そうですか? ここにいる彼らはあまり気にしていないようですが。あなたの考え過ぎではありませんか。……とは言いたいところですが、私だっていろいろとひどい事をしてきましたからね。そう言われる気持ちも致し方ありません」


 案外素直にルズナは謝罪した。

 そうなってしまった彼を咎めることもできないタンダはいろいろと何か考えた挙句、頭を掻いて直ぐそばにあったコップを取り出し、水を注いだ。


「……、」


 ルズナは何も言えず、ただ出された水を見てぽかんとしていた。

 タンダは我慢できなくなったのか、お代わりした水を再度飲み干すと、


「なにぼうっとしてやがる。それはお前のために汲んだ水だ。それ以上の何物でもねえ。飲まねえ、って言うならすぐにまた俺が飲み干すぞ」

「いや、別に、そんなことは思っていませんよ。……いやあ、嬉しいなあ。ちょうど喉が渇いていたんですよ」


 少しわざとらしいオーバーな反応をしてルズナはその水を一口飲む。


「……んで、話が進まないが、要はこいつらにライトス銀を採掘しにいかせる、ってことか?」

「正確にはライトス銀採掘の支障となっているものの調査、ですかね。ライトス銀は採掘するのにそれなりに高い技術を要します。それはこの国で長年培われてきた独特なものですから」


 つまり、門外不出ということか。

 それならば採掘させない理由も納得出来る。


「……さて、話がずれてしまいましたが、本題に戻りましょうか。国王陛下は言っていました。これはあくまでも『お願い』であると。だから断ることだって出来ます。そしてその場合はあなたたちに移動手段を持たせるための策を講じるとも言っておりました。ですから、これはあなたたち次第。あなたたちが出来ると言うのならば、ライトス山までご案内しましょう」

「そんなこと……」


 はっきり言って、聞かれるまでも無かった。

 そしてルーシーとメアリーもまた、同じ気持ちでいた。

 だから、僕は、それについて大きく頷いた。

 ライトス銀の採掘を阻害している謎の物体を除去する。ほんとうに自分たちに出来るかどうか解らないけれど。

 それでも僕たちは、前に進むしか無かった。



 ◇◇◇



 ライトス山は銀山と呼ばれている。だから登山道とかルートとかしっかりしていなくて、結構面倒な道程になることを覚悟していた。

 しかしいざライトス山に到着してみると、銀の採掘現場付近は流石に関係者以外立ち入り禁止にはなっていたものの、それ以外は普通に一般人も出入りが出来るようになっているらしい。


「……というか、これってただの観光地よね……」


 メアリーの独り言にも僕はおもわず頷いた。何故なら僕もまた同じ考えを抱いていたからだった。正直言ってしまえば、もう少し質素なイメージがあったからだ。だが、いざライトス山に到着してみると登山ルートの説明があったりお土産屋があったりコテージまである。人も疎らとは決して言い難い程の人数が居り、場所を間違えてしまったかと思ってしまった程だった。


「仕方がないでしょう。あなたたちも見た通り、この国にはあまり観光資源がありません。本来ならこのような銀山は危険性を鑑みて立ち入り禁止にしてしまうのが筋ですが、有用な観光資源が出てこない以上ここを観光地とするほかないのですよ。それに、ほら」


 一緒に案内役としてついてきていたルズナは非常に面倒くさそうな素振りで上を指差す。

 その方向を見ると、山の上の方に建物があるのが解った。


「あれは真教会の修道院です。それと同時に本部も兼ねています。ここにはガラムドの魂が眠っているとも言われていますからね……。彼女が遺した痕跡も多いことから、彼女を崇拝する人間は年に最低一回この地を訪れて祈りを捧げていますよ」

「……それも立派な収入源になっている、ってことですか」

「まあ、そういうことになりますかね。その代りに国は真教会を正式な宗教として認め、活動の合理性をも認めていますから。ウィンウィンな関係なんじゃないですか。僕はそこまで詳しく知りませんが……おっと、そろそろ着きますよ」


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