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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百九話 ライトス銀と魔導書⑦

 シグナルの思想。

 それは普通に考えると、世界のためを思っているものだと言えるだろう。マクロな視点から考えればその通りだと言える。

 では、ミクロな視点にフォーカスを当ててみるとどうなるだろうか? 世界全体の科学技術を上げるため、とはいえそれが一極集中になることは好ましくないはずだ。特に、科学者を奪われてしまった国ならば、それは猶更だろう。


「……きっと、あんたはそれを理解して、聞いているのだろう。まあ、それはどうだっていい。もう過ぎてしまった話だ。もう終わってしまった話だ。それを理解して聞いてもらいたい。それがどうなろうと、俺にはもう関係のない……いや、それは言い訳だな。話を続けることにしようか」


 タンダはそう言ってコップに入っていた水を飲みほした。


「……シグナルは最初こそ、どんな研究をしているか解らなかった。それはハイダルクにもレガドールにも知られなかったと言われている。まさにブラックボックスだ。そしてそれを知りたくても、こちらから手紙を寄せても、機密事項に係ると言われて何も出来なかった。だから我が国のシノビをスノーフォグに潜入させて、シグナルが研究していると思われる施設に入った」

「そこでは……いったいどのような研究が?」


 タンダは頷いて、そうして、ゆっくりと話した。


「……人間を用いた研究、ということしか解らなかった。だが、人間の骨があまりにも多すぎた。人が死んだだけではあれだけの骨は出ない。きっと何らかのことが行われているはずだ……と。そしてそれは非人道的実験の賜物ではないか、という結論が出た」

「非人道的実験……」


 こくり、とタンダは頷く。


「そうして、結局……はっきり言って結局のところ、それ以上の情報を得ることは出来なかった。しかしながら調査団の結果を鑑みたハイダルクとレガドールは戦争を仕掛けた。正確には仕掛けようとした、が正しいのかもしれないがな」

「何が、あったんですか」


 メアリーの問いに、タンダは小さく頷いた。

 そして目の前にあった水を飲もうとして――しかし、それはもう空になっているからただ飲もうとした仕草だけだったけれど――彼の話は続く。


「……お前たちも教科書や授業で知っているだろう。『弾丸の雨』……だ」


 どういうことだ。

 弾丸の雨はリュージュが予言した、世界の災厄。その一つじゃなかったのか?


「弾丸の雨について疑問を浮かべることもあるだろう。そして、それは当然だ。この世界の隠されるべき真実、その一つ。弾丸の雨の始まりは、こういうことだった」

「……明かされていない事実を、未来明るい子供たちに伝えて、何が面白いのですか」


 気が付けば背後にルズナが立っていた。

 ルズナを見つけてばつの悪そうな表情を浮かべるタンダ。


「未来明るいかどうかは、彼らが自ら切り開いていくものだ。果報は寝て待てとはよく言う話ではあるが、実際には待った者に良い未来が訪れるわけではない。努力を重ね、やるべき行為をすべて行った人間にこそ与えられる言葉なのだから」

「……そうかもしれませんね。確かに、それに、私が言える立場では無いと思いますが……」


 ルズナはそう言いながらも、僕たちに近づいていく。

 いったい彼は何がしたいのだろうか。それについて質問しようかと思っていたのだが、


「……結局、ルズナ。お前はいったいどうしてここに来た。お前が来る用事は無かったはずだろう?」

「あなたにはありませんよ、タンダさん」


 ルズナはかけていた眼鏡の位置をずらして頷く。


「むしろ、私は君たちに話があるのですから」

「……僕たち、に?」


 ルズナは頷いて、一枚の手紙を差し出した。


「国王陛下からの伝言です。それは、鉱山の地図である、と。そして鉱山の奥地に、先程言った『何故か固くて掘り進めることの出来ない』場所があります。そこに向かって何があるかは解りませんが……」

「やっぱり国王陛下は、あの奥に進んでライトス銀を手に入れようとしているのか」


 憤慨した様子でタンダは言った。


「どうでしょうね。いずれにせよ、ライトス銀は様々なものに使われています。その一例が聖職者の生活用品です。あの場所はガラムド様が直々に名付けた聖山であることはあなたもご存じでしょう?」


 ライトス山。

 確か教科書の知識が正しいものであると仮定するならば、その由来はガラムドが実際にこの世界に居た時代まで遡ることになる。その頃はまだ名前が明確に付けられる前の話だったという。ガラムドがこの山に名前を付けた時、『聖なる光』という意味となったライトスという言葉をつけて、ライトス山と名付けた。その後、ライトス山には銀が豊富にとれるようになったため、ライトス銀と名付けられ、そのライトス銀は聖なる山からとれた金属として、聖職者が使う物品に主に使用されているのだという。……どれくらい使用しているのか解らないが、枯渇しないのだろうか?

 まあ、恐らく枯渇しないか、それを考えていないかのいずれかなのだろうけれど。


「……ライトス銀は、そりゃあ、貴重なものであることは知っているよ。だが、別に採掘しないともう不味くなるほど余っていないわけではないのだろう?」

「それがですね、予言の勇者様に作る『空飛ぶ船』。これを実用化したいと言ってきたのですよ、真教会が」


 真教会。

 ガラムドのことを唯一神と信じ、神の一族たる祈祷師を準神という地位に置きながらも、神に等しい地位には置いていない。この世界の宗教としては珍しい立ち位置に立っていると言っても過言ではない。まあ、世の中にはガラムドを信じていない宗教も居るくらいなので、この宗教は未だ異端には入らないのだろうけれど。


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