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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百八話 ライトス銀と魔導書⑥

 ライトス城、武具開発室。

 その場所には、一人の男が紙に線を描いていた。それは直線だけではない。曲線も、円も、様々な道具を使ってはいるものの全て一人で描いていた。

 それを見ていた僕は、一瞬でその集中力を削いではいけないと察し、何も言わずにただ踵を返した。

 ただ、それだけだった。


「……別に俺に何か用があるのならば、言えばいい。どうせいつ完成するかも解らない夢物語な代物の設計図なんだからよお……」


 背後から声が聞こえた。

 低く、渋い声だった。

 その声を聞いて、ゆっくりとまた元の位置に向き直した。

 先程僕たちに背中を見せていたはずの男が、しっかりと僕たちを見つめていた。

 長い顎髭、仏頂面、ぼさぼさの白髪。作務衣のような恰好に身を包んでいた彼は、その見た目から職人たるものだった。


「……それにしても、こんなガキどもが何の用だ? 俺は今忙しいんだよ、あのクソガキが言ってきた、空飛ぶ船とやらの開発でよ」

「え……。空飛ぶ船は、資材がなかったはずじゃ……?」


 それを聞いた老人は首を傾げると、その発言をしたメアリーを睨みつける。


「おう、そうだ。……だが、なぜそれを知っている? それを知っているのはあのルズナって言うクソガキと、国王陛下だけだったはずだが……」


 あの科学者、そんな呼ばれ方されてるのか。

 ちょいと可哀想な気がするけれど、そんなことを思っていては話がまったく進まない。だから、僕は話を続けた。


「知っている理由については、今は省かせてください。まあ、別に省く必要も無い程度の話ではありますが」

「ふん。どうせあいつが何か言いだしたのだろう? あるいは国王陛下がか……。まさか、お前たち実はそれなりに偉いとか、そういうことになるのか?」

「彼らは予言の勇者様ですよ、タンダさん」


 そう言って僕たちの隣に姿を見せたのは、ルズナだった。


「……ルズナか。いったい何の用だ。ここに来た、ということは漸く見つかったか? あの岩盤をぶち壊すやり方が」


 それを聞いたルズナは首を横に振り、


「いえ、残念なことではありますが、まだはっきりとしていません。寧ろ、それ以上の方法が見つかった、ということですよ」

「……まさか、予言の勇者に頼む、なんてことは言わないだろうなあ? 博識のお前が、他人を頼らないはずのお前が」

「……そんなことは言われたくありませんよ。それに、それは、昔のことでしょう。違いますか?」

「昔のことだから罪に問われないと思ったら大間違いだぞ、ルズナ。お前が何をしたのか知っている。お前がやったこと全て、たとえ国王陛下が容認されたとしても、その功績が認められ、国での一切の懲罰を受けないとしても!」

「やめなさい!」


 ルズナが、聞いたこと無いような大きな声を上げた。

 はじめ、彼自身は自分がなにをしているのか一切解らなかった。

 だが、少し遅れてルズナは踵を返すと、大急ぎで来た方向に走って行った。

 それを見たタンダは溜息を吐いて、


「……悪いな。変なところを見せてしまったな。お詫びと言ってはなんだが、何か飲んでいくか?」


 その言葉を聞いて、僕たちは小さく頷いた。



 ◇◇◇



 タンダの居た部屋の奥には畳が敷かれていた。簡単に言えば和室そのものがあったわけだが、それについて訊ねようとしたところで、タンダから話が始まった。


「……それにしても、空飛ぶ船なんて、本当に出来るんでしょうか?」


 メアリーが単刀直入にタンダに訊ねた。質問したい気持ちは解るけれど、メアリー、直球過ぎやしないか。

 ……なんてことを思っていたのだけれど、肝心のタンダはなにも言わなかった。それについてはちょっとホッとしたところだったけれど。


「……まあ、お嬢ちゃんがそう思うのも仕方ない話ではあるな。かつてこの国もスノーフォグと同じように科学力では負けることは無かった。あくまでも『過言では無い』レベルであって、実際にそうだったわけではないがな。スノーフォグには負けていたものの、それなりの科学力があったわけだ。あの組織が成立するまでは……」

「組織?」

「……魔法科学組織『シグナル』」


 タンダはぽつりとそう呟いた。


「その名前を知らない人間は、もはや殆どとなってしまったことだろう。それについては致し方無いことだとは思う。だが、そのシグナルという組織は、この国から科学者を根刮ぎ奪っていった。その先には何も残りはしなかった。それについて、勿論批判はしたがね。誰も聞く耳など持たなかったよ。そりゃそうだ、その時は、その組織は『世界の科学技術を一段階以上シフトさせる』という大義名分があった。それに逆らうことは間違っている、と違を唱える人間が殆どだったわけだからな」


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