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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
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第百六話 ライトス銀と魔導書④

「しかし、いずれにせよ……船が必要になってきます」


 そう言ったのはキキョウだった。確かにその通りではあると思う。船が無い限り、僕たちはこれ以上先に進めない。別の大陸に繋がっている通路でもあるのならば、話はまた別になってくるとは思うけれど、そんな都合のいい話が出てくるわけがない。

 キキョウは口元を隠していた布を外すと、それをポケットに仕舞う。


「……ある場所に、あなたたちをご案内しましょう」

「ある場所?」


 唐突に話が動き出したので、僕はキキョウに訊ねる。

 対して、キキョウはもうその話を承諾しているような雰囲気で話を進めていく。


「レガドールの最高権力者、国王の住む居城です。私は国王から命じられて、予言の勇者を城へとお連れするよう言われました。しかしながら、先程も言った通り、この国は深層までリュージュの監視が広がっています。それは国王でさえ例外ではありません。国王の直下に居る大臣も数名、リュージュの腹心が紛れ込んでいると言われています」

「そこまで解っているなら、どうして排除することが出来ないのですか?」


 核心を突く質問をしたのは、メアリーだった。お前がそんな質問をすることは何となく予想は出来ていたけれど、とはいえ、今そこでそれを質問するか。

 キキョウは俯き、悲しそうな表情を浮かべると、軈て小さく頷いた。


「簡単です。それをすることによって、国民が不信を抱くと解っているのです。リュージュはそれを狙っているのでしょう。監視を続けて、もしそれを裏切るようであるならば、国そのものを崩壊させようと……」

「リュージュ……。そこまでして、いったい何をするつもりなのでしょう……!」

「解りません。ですが、国王はこうも言っていました。予言の勇者を気にしているということは、予言の勇者を利用するか、或いは恐れているのではないか、と」


 僕を利用するか、恐れている?

 しかしリュージュはそのような素振りは――少なくとも後者については見せなかった。それはつまり、リュージュが僕を利用する可能性があるということ。それはどうやって? でも、もし利用しようとしているならば、僕をここで足止めする意味があるのだろうか。

 キキョウは踵を返し、僕たちをどこかへ誘おうとする。


「……どこへ?」

「先程もお話ししたと思いますが、この国の城に向かいます。すでに許可は得ております。しかし遠いので、行くとするならばそちらの竜馬車を使うことになると思いますが……」

「それならば問題は無い。さっき船の中で随分休ませたばかりだからね。まあ、君を追いかけるために少し疲労は溜まっているかもしれないが、それでも何とかなるだろう」


 シュルツさんは即答して、云々と頷いた。


「ならば、大丈夫でしょう。それでは、向かいましょう。そしてご案内しましょう。我々の住む城へ」


 そう言って、キキョウは大きく頷いた。



 ◇◇◇



 レガドールの中心にある聖山ライトス山。

 この山の麓にあるのがレガドールの王城、ライトス城だった。

 巨大な城壁と、城の背後に聳えるライトス山。守りだけ見れば完璧と言えるだろう。

 城門を潜り抜け、中に入っていく。中はスノーフォグと同じように城下町が形成されていない様子となっていた。城門の中に城下町が形成されているのはどうやらハイダルクだけのようだった。

 そもそもの話。

 ライトス城の周りには町が無い。キキョウが言うには城下町はラムガスとなっているらしい。城下町とするにはその距離が遠いように見えるかもしれないが、ライトス山の周りはとても人が住む気候とはなっていないようで、城下町が出来るほど豊かな土地では無かったのだという。

 竜馬車を降り、城内に入る。竜馬車を興味津々に学者なり兵士なり見つめていたが、


「それは客人の大事なものです。決して疚しい思いを抱かないように」


 キキョウのその言葉で見るのを辞めた。

 どうやらこの城での彼女の立場は相当高いものにあるらしい。確かに、国王直属のシノビとなっているのだから、地位としてはそれなりに高いのかもしれないが。

 城内はキキョウが先頭になって進んでいた。それについては理由を訊ねるまでもなく、彼女がこの城の人間だからであり、それは当然のことだった。


「ここが、国王の部屋となります。……正確には謁見の間、になりますね。国王の部屋はまた別の部屋となりますから。しかしながら、基本ここに居る兵士や学者が国王と謁見する場所はこことなっておりますから……いつしかそう呼ばれるようになりました。通称みたいなものですね」


 扉がある場所で立ち止まり、キキョウはそう言った。

 扉には紋章のようなレリーフが描かれていた。そのレリーフは本をモチーフとしたようなものだった。


「本……魔導書?」

「では、扉を開けます。どうか、粗相のないようによろしくお願いします」


 僕の言葉がキキョウの耳に届くことは無かったようだった。

 キキョウはその扉を開けていく。

 そして僕たちは国王の部屋――正確には謁見の間へと入っていくのだった。


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