表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第四章 封印されし魔導書編
106/335

第百五話 ライトス銀と魔導書③

 

「ロマ・イルファ……、貴様、どうしてここに!」


 はじめにそれを口にしたのは、キキョウだった。

 ロマ・イルファはそれを聞いてつまらなそうに溜息を吐くと、


「別に何でもないわよ。ただ、一応伝えておかないといけないのかな、と思っただけ」

「伝える?」

「そう。リュージュ様の言葉を、私は伝えに来た。リュージュ様は、もうこの国に居ないということ。そして、リュージュ様の計画は最終段階に突入した。あなたたちを足止めするために、私たち兄妹はここにいるのよ」

「兄妹……ということは、バルト・イルファも居るのか!」

「ええ、お兄様もね。だけれど、今はここには居ないわよ。お兄様はお兄様で別の活動をされているから。……ほら、ここからも見えるわよ、炎がよく見えるわね、高台になっているからかもしれないけれど」


 それを聞いて、僕たちは踵を返した。

 確かに、ロマ・イルファの言う通り高台になっているためか街を一望することが出来る。

 そして、その街の向こう、港には一つの大きな炎が燃え上がっていた。


「まさか……あれは‼︎」

「そう簡単に私たちもここから出したくない、ということなのよね。まあ、リュージュ様の命令、ということもあるけれど。そういう最初から勝ち組なのが気に入らない、というか? そんな感じかしら。あななたたちに解る? 最初から何もかも与えられた人間には、きっと解らないでしょうねえ‼︎」


 ロマ・イルファは何故だか知らないが、怒っていた。それがどういう理由によるものかは定かではない。

 ただ、これだけは言える。


「あなたねえ……どういう理由でそこまでフルを恨んでいるのかは知らないけれど。もしかしたら、フルがほんとうに悪いことをしたかもしれない」

 ずっと何も言わなかったメアリーが口を開いた。てっきりフォローをしてくれるのかと思ったら、ロマ・イルファの発言を擁護するようなものだった。ちょっと待ってくれ、メアリー。君はどっちの立場で話しているんだ?

 そして、メアリーの話は続く。


「……けれど、それと今回のことは別。あれはきっと……私たちが乗ってきた船よね。話は聞いたわ。あれはリュージュが私たちにくれたもの。だから、あなたが壊してもリュージュは別に気にしないかもしれない。けれど、けれど、船を作った人は? あの火事を消化するために繰り出された人たちは? その人たちの苦労を、あなたは少しでも考えたことがあるのかしら?」

「……リュージュ様から面倒な性格、とは聞いていたけれどまさかこれ程までだったとは。流石に想定外ね」


 ロマ・イルファはまたも溜息を吐く。

 それにしても、なぜリュージュはそこまでメアリーの情報を知っているのだろうか。ずっと僕たちを監視していたから、で簡単に解決してしまうのかもしれないけれど、それでもどこか気になってしまう。


「まあ、いいわ。私たちは目的を達成した。あなたたちをこの国に足止めする、という目的を……ね。それさえ達成出来れば今はどうだっていい。とにかく、あなたたちを足止めさえすれば、リュージュ様の計画は無事達成出来るはずだから……」


 そして、ロマ・イルファはその場から瞬間的に姿を消した。



 ◇◇◇



 僕たちはラムガスの街へと戻ってきた。既に炎は消火されていて、そこには何も残っていなかった。桟橋も一部燃えて崩れ落ちてしまっていることも、その炎の勢いを感じさせる。


「それにしても、こんなひどい火事をいったい誰が何の目的でやりやがったんだ?」


 市場を歩いていると、井戸に居た夫婦と思われる片割れがそんなことを言った。

 対して、井戸の水を汲んでいる女性は、


「なんか聞いた話によると、赤い恰好の目立つ男が居たんだと。そいつがやったんじゃないか、って噂もあるよ。そんな目立つ人間、このラムガスには居ないからね」

「赤い恰好、ねえ……。炎の妖精か何かだったのかね?」

「馬鹿おっしゃい。妖精は元来私たち人間を助ける存在だろう? 私たちの生活に古くから根付いていて、私たちの生活を助けてくれるときもあれば、逆に私たちが助けるときもある。ま、持ちつ持たれつな関係じゃないか。私たちが妖精の怒りを買ったとは、到底思えないしねえ……」

「妖精の怒りを買った……とは言ったって、そんなこと、人間には解らないだろ? それこそ、どういう理由で怒りを買ったかなんて、人間には到底解りゃしないことばかりだと思うぜ。だって、人間と妖精じゃ頭の仕組みが全く違ってしまうわけだからな」


 ……どうやらその会話を聞いているようだと、僕たちの船を燃やしたのはバルト・イルファで間違いないようだった。


「それにしても罠なんて……。くそう、リュージュのやつ、絶対に許さないんだから! ぎったんぎったんにしてあげるわ‼︎」


 ぎったんぎったんなんて今日日聞かないなあ、なんてことを思いながら、僕は考えていた。

 僕たちは転移魔術を誰も使えない。近距離、という制約を考えないならばレイナが使えないことはないが、それでも地繋ぎの場所だけ。しかも知っている場所というかなり厳しい制約付きだ。

 とどのつまり、僕たちがリュージュの本拠地へと向かうためには、いずれにせよ船を手に入れなければならない……ということになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ