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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第百二話 守護霊使いの村⑦


 フィアノの町では大宴会が開かれていた。

 その主役は僕たち。何でもフィアノの人たちを救ってくれたお礼がしたい、ということで酒や肉やの大盛り上がりとなっていた。当然ながら、僕は未成年なのでお酒は飲まない。早いうちにソフトドリンク(という概念がこの世界にあるのかは定かではないが)を確保して、適当に飯を食べて、という形を済ませていた。

 そうして、いま僕は海を眺めていた。ワイワイ騒いでいる様子は、はっきり言って苦手だ。そう思ったから。


「フルう? どうしてこんなところにいるの?」


 声が聞こえて、僕は振り返る。その声はメアリーだったからだ。

 メアリーの顔は真っ赤に染まっていた。そして片手には透明な水のような液体が入っているグラス。

 その状況を見て、僕は直ぐにメアリーが酩酊状態にあることを理解した。


「メアリー、酔っているんじゃない? 何というか、辞めたほうがいいと思うな。身体に悪いよ、飲みすぎると」

「えぇ? 私が酔っている、ですって? ヒック……、そんなことあるわけないじゃない!」

「いやいや……。どう見ても酔っているよ。まあ、あまり言わないほうがいいのかな……。うん、取り敢えず、水を飲んだほうがいいと思うけれど」


 酒を飲んだことがないから解らないが、水を飲むと良いというのは聞いたことがある。

 しかし、メアリーはそれを素知らぬ顔で無視して、


「そんなことより……フル、助けてくれて……ありがと」

「なに、そんなことはないよ。仲間として当然のことだから、さ」

「仲間……か」


 風が吹き付ける。

 その風はとても冷たくて、目を瞑ってしまうほどだった。

 メアリーは僕のほうを向いて、言った。


「ねえ、フル」

「うん?」


 僕が彼女のほうを向いた――ちょうどその時だった。

 メアリーが、僕の唇にそっと口づけた。

 一瞬の時間に思えたことだけれど、その時は永遠にも思えた。

 メアリーの顔が少しずつ離れていく。

 メアリーは、いつもの位置に戻ると、笑みを浮かべた。


「私……あなたのことが、好き」


 メアリーは、僕に向かって――そう言った。

 ずっと旅をしてきて、はじめてこの世界にやってきてであったメアリーという少女に、告白された。

 僕は、それを聞いて、直ぐに答えることが出来なかった。


「僕は……」

「フル。あなたは私のことが好き? それとも嫌い……?」

「それは……」


 僕はどう返せばいい?

 彼女の言葉に、どう返すのがベターなんだろうか?

 そんなことを思っていた、のだが……。


「フル、メアリー! 町の人たちが最後に挨拶して欲しい、って!」


 走ってこちらに向かってきたルーシーがそんなことを言ったので、僕とメアリーはそちらを向いた。ルーシーもいつも以上に笑みを浮かべていて、いつも以上に顔が赤く染まっていたので、見るからに酔っているということが解った。

 そうして、僕たちはそれに従って再び宴会の中心地へと向かった。



 ◇◇◇



 次の日。

 結局僕はメアリーに答えを言えないまま、フィアノの町を出ることとなった。

 ルーシーとメアリー、それにシュルツさんは体調が悪いように見えた。恐らく二日酔いなのだろう。一切酒を飲まなかった僕にとってはどうでもいいことだけれど。因みに、それはレイナも同じだった。盗賊として過ごしていた彼女だったが、酒を飲むのは苦手のようだった。


「これで資材は全部ですね……。大量にあるかもしれませんが、私たちはこれでも足りないくらいです」


 船にはフィアノの人たちがくれた大量の物資。別れを惜しむフィアノの人たちがせめてこれくらいは、という思いで戴いたものだがはっきり言って量が多過ぎる。まあ、有り余る程の物資があれば何とかなるかもしれないけれど。

 そして、僕たちは船の碇を上げた。

 フィアノからゆっくりと離れていく船。

 僕たちの次の目的地――それは、南国レガドールだった。



 ◇◇◇



 数日後。

 レガドールの研究所にて、リュージュはとある研究員と話をしていた。


「……アイツをうまく扱えるようにはどれくらいかかる?」

「調整のことを考えると、一か月程かと……」

「一週間に短縮しろ。もう時間はない」

「ですが、それは……」

「私に発言を繰り返させるつもりか? もう時間はない、と言っている。予言の勇者はこれからレガドールへ向かう。チャール島からレガドールまでは最低でも一週間かかる。ということは少なくともそれまでには、動かせるようにしないといけないのだ」

「しかし、それでは調整が上手くいくかどうか……」

「ごだごだ言うな、もう時間がないのだ!」


 そうして、会話は一方的に打ち切られ、リュージュは踵を返し、姿を消した。



 ◇◇◇



「もうすぐ着くよ!」


 フィアノを出発して十日。

 マストに登っていたルーシーが、甲板に居る僕たちにそう声をかけた。

 そうして、僕たちの船は港へと入っていく。

 港には大きな木の看板があり、こう書かれていた。



 ――南国レガドール一の港町、ラムガスへようこそ!



スノーフォグ編 完

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