第百話 守護霊使いの村⑤
「……、」
何だか一番目とか二番目とか面倒な話になってきた。ナンバリングがどうこう、という話でも無さそうだし、実際問題、今死闘を始めようとしている二人は、二人とも紛れもない兄妹であるということもまた事実だった。
でも、そうであっても。
二番目と三番目の間には、いつ戦いの火蓋が切られてもおかしくない……そんな緊張感が張り詰めていた。
「……ストップ、クラリス。はっきり言わせてもらうけれど、今日はそんなことをするためにここに来たわけじゃないだろう?」
「ああ、そうだったっけ。ごめんなさい、バルト・イルファ。ちょっと知り合いと出会うとどうも忘れてしまうのよね。リュージュには言わないでもらえる?」
「別に言う必要もないよ。だって、君はあくまでも僕のように直轄で居るわけではないのだから」
「あら、そう。リュージュも優しいのね」
「優しい、というか外様にはあまり言わないだけだよ。はっきり言って、対処をするのが面倒なのではないかな?」
ふうん、と言ってルチアは僕を一瞥する。
「……あんたが、予言の勇者? まあ、なんというかよわっちいね。私が普通に倒すことが出来そうだけれど。ねえ、バルト・イルファ。彼はほんとうに予言の勇者なのかしら?」
疑うのは結構だが、本人の目の前で言わないでほしい。
「うん。彼は紛れもない予言の勇者だ。リュージュ様の予言にも合っている」
「予言、ですか。まあ、別にいいのですけれど。その予言はどこまで的中するかも解らない。にもかかわらず、そう言うのもどうかと思いますけれど」
「それは君も一緒だぞ、クラリス。……おっと、話が長くなってしまったな。予言の勇者、君たちは組織のことを知りすぎた。知らなくていいことまで知りすぎてしまった。君は予言の勇者として世界を救う存在へと成長する。そのためには、早めに芽を摘んでおく必要がある。……ここまで言えば、僕が今から何をするのか解るだろう?」
一瞬のことだった。
バルト・イルファが右手から炎を生み出し、それを僕たちへ投げつけた。
「危ない!」
僕たちは何もできなかった。あまりにも早すぎて、反応が出来なかった――そう言ってもいい。
僕もどうにかしてその炎を避けようと思った。
だけれど、何も出来なかった。
「やられる……!」
そう思った、その時だった。
僕の手が、まるで何かに操られるように腰に差していたシルフェの剣に向かっていた。
そして剣を構えると、それを僕たちの前で一振りする。
すると僕たちの前に緑色の薄膜が生まれて、それがシールドとなり、炎を遮った。
しかし、それを見てバルト・イルファは笑みを浮かべていた。
「くくく……。さすがは予言の勇者! そうですよ、そうでないと! こんな簡単な攻撃に殺されてしまうようならば、予言の勇者としては名が折れるというものでしょう! ああ、楽しくなってきましたねえ!!」
そして、バルト・イルファは指をパチンと弾く。
すると、背後の扉が大きく音を立てて崩れ去り、そこから一頭のメタモルフォーズが入ってきた。
メタモルフォーズ――とは言ったが、実際には少年のように見えた。全身を白で覆いつくしたような少年はポケットに両手を突っ込み、ただ笑みを浮かべていた。ただ、人間が持っているような特有の生気が見られない。そこから、僕はメタモルフォーズであると判別しただけにすぎない。
「余所見をしている場合かああ!!??」
バルト・イルファは攻撃を開始する。さきほどと同じように、炎を生み出した。
しかし攻撃に対する処理が解っていればこちらのものだ。あのメタモルフォーズが攻撃してこないのが気になるが、そんなことはどうだっていい。今は目の前の攻撃に集中せねばならない。
そう思って、僕は先程と同じようにシルフェの剣を一振りした。
しかし、生み出されるはずの薄膜は生まれなかった。
「な、何で……! 何で、バリアが生まれないんだ!」
すんでのところで当たるか当たらないかのギリギリのところに炎は命中した。
もし、少しでもずれていたら僕の身体に火球が命中していたことだろう。そのとき、僕の身体はどうなっていたかは……出来ることならあまり考えたくない。
バルト・イルファはやっぱり、という感じで笑みを浮かべていた。
「……君は魔術について無知なところが多すぎるようだ。少し考えてみればこのメタモルフォーズが何を司るメタモルフォーズであるかどうか、解るというのに」
「……空気、かしら?」
即答したのはメアリーだった。
それを聞いたバルト・イルファは眉を顰める。
「原理は解らないけれど……、恐らくバルト・イルファと私たちの間に完成されるはずのバリアが完成されなかった。それは、魔術の原理である四大元素の法則を満たしていないから。そしてバリアを作るには空気の元素の加護を得る必要がある。たとえ、シルフェの剣であったとしても、その元素の加護無しではバリアを作ることは出来ない。……推測だけれど、そういうことかしら、バルト・イルファ」
「素晴らしい、素晴らしいよ。ご名答。まさにその通りだ」
バルト・イルファは拍手をしてメアリーを称えた。
「けれどね」
右手を掲げて、バルト・イルファは呟く。
「……そんなことが解ったとしても、その原理が解ったとしても、僕には勝てないよ!」
そして右手に火球を作り出し、それを僕たち目掛けて投げ出した。
「急いで、避けるわよ!!」
メアリーの言葉通り、僕たちは火球を避けることにした。シルフェの剣の加護が無い以上、こちらで守る術は一つしか無い。……避けるだけだ。避けるしか術が無いのならば、その方法をフル活用するしか、今の僕たちにはなかった。




