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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
弐 ようこそ、新たな同志
7/39

 速すぎる展開に頭が追いつけないまま、どうやら目的地に辿り着いたらしい。


「おい少年、寝ている場合じゃないぞ」

「寝てない……というか寝られる状況じゃない」


 黒い虎の背中に乗せられて、森中いたるところから姿を表す白い生き物たちにいちいち驚きつつ、一時間。ようやく人工物が現れてほっとしたところだ。


「ここが事務所?」


 目の前にあったのは真っ白な建物。形状としては『塔』に近いものだ。


「ああ。詳しいことは、中で支部長から説明があるはずだ」


 そう言って、女が扉を開く。そして、一瞬で閉めた。


「……少年、少し、ここで待っていてくれないか」

「え、はい」


 俺の返事を聞くと、女は一瞬で扉の向こうに消えた。


「てめえら何ふざけたことしてやがんだ! 誰の指示だ、レスティオールか!」

「わああアシュレイ部長落ち着いてくれ!」

「誕生日じゃねえんだぞ、ざけんなよ!」

「部長それ支部長が頑張って作ったやつ!」

「知るかァァア!」


 扉の向こうが急激に騒がしくなる。何だ、いわゆる乱闘でもやっているような。


「あの人は、いつもあんな感じなのか?」


 虎の背中から降りつつ、虎に聞いてみる。


「にゃ~」

「わからない! その返事が意味するところが俺にはわからない!」


 やっぱり虎に聞いても駄目だった。そりゃそうか、当たり前だ。


「それにしても、この森は何なんだ?」


 辺りを見回しながら、考えてみる。


『ここは、世界の外側だ』


 さっき聞いた言葉が、頭の中で回る。世界の外側。

 ……世界って、世界の果てって、どこにあるんだっけ。



『世界の果て?』


 洗濯物をたたみながら、首を傾げる母さんの姿を思い出した。


『うん。世界の果てって、どうなってんの?』

『吏生は我が息子ながら難しいことを聞くなあ』


 そう言って、悩み始める母さん。その様子を見ながら、当時小学生だった俺は洗濯物をたたむ手伝いをしていた。


『つまりは、宇宙の果てってことだよね?』

『うん、そう。どうなってんの?』

『そうだな……母さんが個人的に気に入ってる説は、宇宙の果てには壁があって、ここまでって書いてある、みたいな』

『うっそだあ』


 二人で洗濯物をたたみながら、そんな風に話し合う。


『うん、それは確かに嘘だと思う。でもおもしろいから母さんは好き』

『で? 本当は?』

『本当のところは誰にも分からないんじゃないかな。宇宙の果てに辿り着いた、なんて実績はないわけだから』


 母さんはたたみ終えた父さんのズボンを俺に渡す。俺はそれを受け取って、父さんのシャツやら靴下やらがまとめてある場所に置いた。


『でも母さん、ひとつだけ知ってるの』

『何を?』

『世界の果ての、その向こう側のこと』

『えー、何それ! どんなこと?』

『すごく単純に、明快に、わかりやすく言うとすれば』


 母さんはそう言うと、楽しそうに笑って見せた。



『世界には外側があって、そこから見たらこの世界だってちっぽけなんだよ』



 その言葉は、当時の俺には難しくて、首を傾げてしまった記憶がある。


『吏生にも、きっといつかわかるよ』


 母さんは楽しそうに笑ったまま、俺の頭をがしがしと撫でてくれた。



「悪かったな、少年。入っていいぞ」


 女の声で、昔の出来事にトリップしていた思考がやっと現実に戻ってきた。一瞬、記憶の中の母さんの顔と、目の前にいた女の顔がかぶって見えたのは内緒だ。


「アルトは次の指示まで待機だ」

「にゃ」


 従順に返事をする虎。振り返ってみると、虎は近くにあった犬小屋的なところへ向かっていた。


「ほら、少年。行くぞ」

「あ、はい、お邪魔します……」


 扉をくぐると、先程の喧騒はなんだったのかと思うほど静かだった。まず、真っ白だ。外観も真っ白だったが、内観も真っ白だ。


「……ん?」


 ふと、隅のほうに何かカラフルなものが小さくまとまって転がっていた。よくよく見てみれば、誕生日とかによく飾る、輪飾り的なあれだ。

 ……ああ、だから『誕生日じゃねえんだぞ』だったのか。


「とりあえず、支部長室に向かうぞ。向こうにリフトがあるから、それで行く」

「はい」


 案内されるままリフトに乗って、一気に最上階へ向かうことに。



「支部長は……まあ、立場上はこの事務所のトップだが」

「トップ!」


 いきなりトップに会いに行くのか。思わずその思いが顔に出たらしい。女は俺の顔を見ると、ふっと笑った。


「安心していい、気兼ねするような相手じゃない」

「いや、トップなら少しくらい気兼ねしたほうがいい気もするが」

「トップと言うから駄目なんだな。飾り頭だよ。ほら、船の頭の人魚とかみたいな」

「飾りなのか」


 どんだけ部下に敬われてないんだ、そのトップ。そう思ったが、何とか顔に出さないように努力した。……その努力は、無駄だったようだが。


「敬うような相手じゃないんだ。年の近い兄貴みたいな、そういうやつ」

「……へえ」


 兄貴、兄貴か。そういえば近所に幼馴染の兄ちゃんがいたけど、そういうイメージか。


「この事務所にいるほとんどのやつが、あいつを兄貴のように思っている。私も然り」

「それは……トップとしてどうなんだ」

「会ってみればわかるさ」


 そいつはそう言うと、俺に向かって微笑んで見せた。



 途中、結構な数の人間を見たが、みんな髪が真っ白だった。


「ここの人間は、みんな髪が白いんだな」

「森の影響らしい。詳しいことはよくわからないんだが」

「へえ……」


 質問に対してちゃんと応えてもらえたことに感謝しつつ、再び観察。服は特に統一性があるわけでもないらしく、黒い服の人もいれば、白い服の人、オレンジ色のつなぎ姿の人など、いろいろいた。


「そろそろ着くぞ」


 リフトが少しずつ減速し、やがてゆっくりと止まる。女に続いてリフトを降りると、目の前に大きな扉がひとつ。プレートには、少々マヌケな字体で『支部長室』と書かれている。あれはなんていう字体だ……使ってるやつ見たことないぞ、あんな字体。


「レスティオール、アシュレイだ。客人を連れて来た」

「おう、入れ!」

「失礼する」


 扉が重々しく開く。開け放たれた扉の向こう、真っ先に目に入った人物が、俺を見て笑って見せた。


「ようこそ、新たな同志」



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