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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
壱 ここは、世界の外側だ
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「止まれ、アルト」


 凛とした、声。俺に襲い掛からんとしていた虎が、動きを止める。


「じゃれるのは後にしろ」


 虎がおとなしく俺から離れていく。その動きを追って視線をめぐらせると、木の陰から人影が現れた。


「うちの部下が悪かったな。怪我はないか、少年」


 ようやく全体像が見えたその人影は、黒尽くめの服に大きな剣を担いだ女。目深にかぶった黒い帽子からは、真っ白な髪が覗いている。が、顔つきからすると俺とそんなに変わらない歳だろう。


「怪我はない、です。大丈夫です」


 立ち上がりながらそう言うと、その女はふっと息をついた。


「しかしながら、もう少しうまい方法はないのか」

「うまい方法?」

「ああいや、こっちの話だ」


 そう言って、女は少し面倒くさそうに辺りを見回す。


「少しここで待っていてくれるか? 少し人を探してくる」

「人?」


 聞き返すと、女はふっと笑って頷き、虎の背中を撫でた。


「アルト、そいつを頼む」

「にゃあ」

「ん?」


 さっきブロック塀にいた黒猫と、同じ声。歩いていく女の背中を見送ってから、虎が俺のほうを向いた。


「……まさかとは思うが、さっきの黒猫って、おまえ……?」


 虎に言葉は通じまい、とは思いながら、恐る恐る聞いてみる。


「にゃあ!」

「肯定したのか? 今の鳴き声は肯定なのか? なあ、おい!」

「にゃあ、にゃ~!」

「どっち!」


 とりあえず、人間一人で置いていかれて寂しかったので、虎と話してみることにした。

 突然わけのわからないところへ来た不安を紛らわせるとか、そういう心理があったのかもしれない。


「まさかおまえが俺をこの森に連れてきやがったのか?」

「に~」

「はぐらかした! おまえ今、絶対はぐらかしただろ!」

「うるさいぞ、少年」


 いつの間にか戻ってきていたさっきの女の人に、怒られました。


「にゃあ」


 随分と懐いているらしく、虎はすぐに女のほうへ寄っていく。女は虎の背中を撫でて、小さくため息をついた。


「ったく、あいつらは自由すぎる」


 女はそう言うと、諦めたようにため息をついて、本当に面倒くさそうにポケットを探り始めた。


「少しそこにいろ、少年」

「え、はい」


 何やらトランシーバーのようなものを取り出し、女は俺に背中を向ける。


「こちらアシュレイ」

『おう、こちらレスティオール。用件どうぞ』

「これから連れて行くぞ」

『マジで! わかった、用意して待っとく! なあ、確かコーヒー牛乳ってまだ』


 ぶつん。かすかに漏れ聞こえた会話が、こんな感じ。……え、コーヒー牛乳?


「そういうわけだから、少年」


 女がそう言った直後、先程の虎が俺を持ち上げて背中に乗せた。


「一緒に来てもらおうか」

「来てもらうって……どこに?」

「我々の事務所だ」


 トランシーバーをしまいながら、女が歩き出す。その後に続いて、俺を乗せた虎も歩き出す。


「いや、ちょっと待ってくれ、ひとつだけ聞かせてくれ」

「何だ、少年」


 振り返った女に、俺はこの森へ来た最初から抱いていた疑問を、投げかけた。


「ここは、一体どこなんだ?」

「……難しいことを聞くな、少年」


 女は腕を組み、考えるようなそぶりを見せた。


「とりあえず、単純明快に、至極解りやすく説明するならば」


 そう言って、女は俺を見た。



「ここは、世界の外側だ」



 ぐらり、頭が揺れるような感覚がした。



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