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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
唯 黒い髪の俺とおまえ
38/39

 それから二人は、ある世界に住むことになりました。

 その世界は、それまで二人が生きてきた世界とは異なる、平和な世界でした。

 そしてその世界で、白かった女の人の髪は、黒に変わっていました。


 二人はそれぞれ、白い髪の男の人から新しい名前をもらっていました。

 二人を森から切り離し、新しい世界に繋ぐための、新しい名前です。


 黒い髪の男の人は、白崎一生という名になりました。

 黒い髪の女の人は、白崎唯吏という名になりました。

 二人は新しい世界で、夫婦として生活を始めました。


 黒い髪の男の人は、幸せでした。

 この世界は、自由で、穏やかで、何より『ひとり』ではありませんでした。

 黒い髪の女の人は、幸せでした。

 髪の色を理由に虐げられることはないし、何より『家族』がそばにいました。


 そして何年かが経って、二人が新しい世界での生活に慣れてしまった頃のことです。

 二人の間に、男の子が生まれました。

 二人によく似た、黒い髪の男の子でした。


 一生。

 唯吏。


 二人は自分たちの名前から一文字ずつとって、

 自分たちにとって『唯一』のものであるという思いを込めて、

 その男の子に名前をつけました。


 吏生。


 黒い髪の男の人は、男の子に武術を叩き込みました。

 その男の子に、強くてたくましい男になってほしいと思いました。


 黒い髪の女の人は、男の子に世界の外側のことを教えました。

 その男の子に、優しくて頼れる男になってほしいと思いました。


『死んでもいいとは、絶対に思うな。どんな風になっても、生きることを考えろ』

『世界には外側があって、そこから見たらこの世界だってちっぽけなんだよ』


 男の子はそんな教えを聞きながら、すくすくと育ちました。

 所々抜けている両親のおかげで、男の子は少ししっかりした子に育ちました。

 それでも、所々抜けている両親に似て、時々所々抜けている子に育ちました。


 そしてある日。

 男の子は、忽然と姿を消してしまいました。

 まるで、神隠しにでも遭ってしまったかのように。


 黒い髪の男の人も、黒い髪の女の人も、寂しく思いました。

 きっと、男の子は世界の外側に行ってしまったのだと思ったからです。

 きっと、男の子は世界の外側で働くことになるだろうと思ったからです。


『吏生は無事かな』

『大丈夫でしょう、私の子だもの』

『そうだな、俺の子だしな!』

『……そこは心配だな』

『あれ!? 俺ってそんなに頼りないの!?』


 そんなやりとりをして、寂しいのを誤魔化すように笑い合いました。

 男の子のいなくなった家は、ぽっかりと穴が開いたように寂しく感じました。


『元気でいるといいな』

『楽しく過ごせているといいね』


 二人はそう言い合って、男の子の幸せを願いました。

 まさか、こんなにも早く巣立ってしまうとは思わなかったけれど。

 男の子が立派に生きていてくれたらいいと、思いました。


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