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「……まあ、いろいろと遠回りをしたような気もするが」


 現在、支部長室。目の前にいるレスティオールが、感慨深げに言う。その両脇で、ディルアートとアシュレイが心から同意だと言わんばかりにうんうんと頷いている。アシュレイの隣にいるライディアスと、ディルアートの隣にいるザルディオグは、二人そろってどこか楽しそうに笑っていた。


「今日から正式に、おまえたちも『次元管理委員会』西方支部の仲間だ」


 そう言われて、俺は隣にいるフェンリルを見た。フェンリルはちらりと俺を見て、ぷいと顔を逸らした。生意気な。


「仲良くしろよ? 配属は同じ部署だからな」

「何で俺がこいつと一緒なんだ」


 むすっとした顔で、フェンリルがレスティオールを睨む。ああ、ちなみにフェンリルは今、人の姿をしている。相変わらず俺と同じ顔だ。


「それはそうだろう。そいつが自分から『フェンリルの世話は俺がする』と言ったんだ」


 少しだけ呆れたようにアシュレイが言うと、じろり、フェンリルが俺を睨む。


「……てめえ」

「俺と同じ顔で睨むなよ、俺なのに怖いじゃねえか」

「……はあ」


 心から呆れたようなため息をつかれた。ひどいぜ、フェンリル。


「それにしても、あれじゃのう。こうして見ちょると兄弟みたいじゃ」


 けらけらと笑いながらライディアスが言うと、フェンリルはまたむっとする。


「ふざけんな。誰が好き好んでこんなやつの兄貴になんかなるか」

「いや、どちらかと言えば君のほうが弟っぽいよね」

「ああ!?」

「落ち着けって、フェンリル」


 ザルディオグの言葉に立ち上がりかけたフェンリルを、ソファに戻す。その様子を見ていたレスティオールが、楽しそうに笑った。


「そうだな、どっちかと言うとフェンリルのほうが弟だな」

「……俺のほうが長生きしてんだけど」


 フェンリルが腑に落ちないという顔をする。それが弟っぽく見えるということを、フェンリルはわかっているのだろうか。いや、わかっていないだろうな。


「まあ、とにかくだ」


 仕切りなおすように咳払いをして、レスティオールが俺を見た。


「これから、仲間としてよろしくな?」


 そう言って、いつものように楽しそうに笑って。



「リヴァイアス」



 レスティオールは、『俺の名前』を呼ぶ。

 新しい名前。俺が生まれた世界から俺を切り離して、この森に繋げるための、名前。

 俺が、自分の生まれた世界を捨てた証。この森で生きると決めた、俺の覚悟の証。


「……おう!」


 笑って答えて見せると、レスティオールは満足気に頷いた。



 さて、支部長室を出てしばらく。


「納得できねえ」

「まあいいじゃねえか」


 未だぶつくさと文句を言っているフェンリルに、俺は笑って言った。


「おまえのほうが長生きしてるって言っても、精神的には俺のほうが大人なんだ」

「俺はそうは思わないがな」

「そう言うなよ。いいじゃん、兄弟。俺、フェンリルみたいな弟がほしかった」

「俺はおまえみたいな兄貴なんていらない」


 ぷい、とそっぽを向くフェンリル。やっぱり、生意気な弟って感じだ。


「でもさ」

「あ?」

「おまえ、何だかんだ俺と一緒にいてくれるんだな」


 笑ってそう言ったら、フェンリルは一瞬固まって、それから。


「別に、おまえがサビシイだろうからって一緒にいるわけじゃねえんだからな! 一緒にいたほうが不意打ちで殺せるかなーとか思ってるだけだからな!」


 そう言って、狼の姿に戻って、全力疾走で立ち去った。


「……何、今の。ツンデレ?」


 答えてくれる人は、いなかった。



「よう、おめでとう!」

「ありがとう、レイシャル」


 辿り着いた客室では、レイシャルが笑顔で迎えてくれた。


「手伝ってやるから、荷物をまとめろよ。これからおまえの新しい部屋に案内してやる」

「ありがとう」


 そう。この事務所で働くということになったので、俺はもう客ではないのだ。だから新しく、従業員用の部屋を割り当てられることになった。


「それにしても、まさかおまえが俺の上司になるとはなあ」

「それについては俺も同意だよ」


 しみじみと言うレイシャルに俺も苦笑を返した。

 結局、俺はレスティオールが言っていたように、総務部長という位置に収まった。レイシャルたち客室担当や、厨房担当、それからフェンリルが来たことで新しくできた外交担当という様々な方々をまとめる役割、らしいが。


「……俺に務まるかな」

「大丈夫だろ。おまえなら!」


 何の根拠もなく断言するレイシャル。でも、何となく嬉しい。


「ありがとな」

「おう」


 いつもと変わらないやり取りをしながら、俺はすぐに荷物をまとめ終えた。荷物、意外と少なかったな。



「ここか」

「おう」


 レイシャルの案内で辿り着いたのは、寮みたいになっているところの一室。ドアのそばにあるネームプレートのようなものを確認すると、どうやら同室が二人。


「なあ、レイシャル。すごく見覚えのある名前があるんだけど」

「気のせいじゃねえぞ」

「やっぱり」


 小さくため息をついてから、ノックを三回。それから扉を開けたら、いた。


「よお、リヴァイアス!」

「やあ、リヴァイアス」


 まだ少し呼ばれ慣れない名前で、二人は言う。楽しそうな笑顔で。


「よろしく、ライディアス、ザルディオグ」

「よろしく頼むぜ」

「こちらこそよろしくね」


 にかっと笑うライディアスと、にこりと笑うザルディオグ。この二人、同じ部屋に住んでいたのか。ちょっと意外だ。


「二人が同室だとは思わなかった」

「部長同士だからね。ああ、ライディアスは寝言がうるさいかもしれないから、寝るときは耳栓があったほうがいいよ」

「こらザルディオグ、何をふざけたこと抜かしとるんじゃ」

「あ、ははは」


 うん、何だか楽しそうな部屋でよかった。



 その夜のこと。


「ん~……アルペジオ」

「うわ、マジでライディアスの寝言うるせえ」

「だから言ったでしょ。使ってない耳栓、ひとつあげようか?」

「ありがとう」


 ザルディオグからもらった耳栓のおかげで、安眠できた。夢には、父さんと母さんが出てきた。二人そろって、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてくれた。俺たちはいつだっておまえの味方だと、二人は言ってくれた。

 朝、寝癖がひどかったのは……偶然だと思いたい。



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