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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
零 黒い髪の君と私
3/39

 これは少し前、男の人がまだ樹に寄りかかっていた時の出来事。


 命の終わりを悟っていたはずの男の人は、不意に、すぐ側に人の気配を感じました。

 霞む目を開けてみると、白い髪の女の人が、男の人の顔を覗き込んでいます。


『やあ、青年。元気かい?』

『元気に見えたら、あんたの目は節穴だ』

『ははは、違いないね』


 女の人はそう言って楽しそうに笑い、男の人の向かいに腰を下ろしました。


『あんたは……死神、か?』

『死神か、言い得て妙。だが違うよ、私は神なんて大それたものじゃない』


 男の人の言葉に、女の人は楽しそうに返しました。


『迎えに来たんだよ、君を』

『どこから? ……地獄とか言ったら、追い返す』

『まさか。私は世界の外から来たんだ』


 女の人はにこりと笑うと、空を指差して見せた。


『世界の外は、他のいろんな世界と繋がってる。君の生きられる世界もあるよ』

『例えば?』

『黒い髪の人間ばっかりの世界とか』

『そりゃあ、いいな』


 男の人は、また少しずつ目が霞んでいくのを感じました。


『でも、もう、無理だろ。俺はもう、どこにも行けないよ』


 男の人がそう言うと、女の人は小さく首を振りました。


『そうでもない』


 女の人はそう言って、男の人の目を見ました。


『私も君と同じように、黒い髪を理由に殺されそうになったことがある』

『……あんたの髪は、白いぞ』

『これは、今住んでいる場所の影響だよ。元は君と同じくらい、黒い髪だった』


 女の人は、少しだけ懐かしそうに目を細めました。


『それでも私は、こうして生きてる。真っ白な髪になって、まだちゃんと生きてる。

 それは、髪が黒かった私でも、生きていける場所がそこにあったからだ』


 そして女の人は、男の人に向かってふっと微笑んで見せました。


『君の生きられる世界もあるよ』


 もう一度、さっきと同じ言葉を繰り返して、女の人は立ち上がりました。

 それから女の人は、男の人のほうへそっと手を差し伸べました。


『一緒に行こう』


 その手を見ながら、男の人は思いました。


 ――本当に、自分の生きられる世界があるなら、行きたい。

    誰よりも自由に、どこまでも穏やかに。そんな風に生きられる世界へ。


 男の人が、女の人の手を掴みました。

 女の人はその手を握り返して、嬉しそうに微笑みました。


 それは、黒い髪を理由に虐げられた二人の、奇跡とも呼べる出会いでした。


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