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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
陸 あいつに会ったんだろう
24/39

「気分は……あんまりよくなさそうだな、リショウ」

「……レイシャル」


 何だか、久し振りに声を聞いたような気さえする。きっと気のせいなのだろうけど。


「何か食いたいものはあるか?」

「今は、食欲がないな」

「じゃあ、せめて飲み物でも」

「喉もあんまり渇いてない」

「……そうか」


 レイシャルはそう言うと、俺の顔のすぐそばに座り込んだ。


「なんかさ」

「おう」

「いろんな話を聞きすぎて、いろんな体験をしすぎて、ちょっとキャパオーバーみたいな状態に陥ってんだけどさ」

「だろうな」

「……その割に、心のどこかで妙に冷静な自分がいてさ。これが現実なんだろって、これこそ俺の正しい形なんだろって、なぜか納得してる部分もあるんだ」

「……そうか」

「でも、やっぱりどこかで認めたくなくて、子供みたいに、これは全部夢だろって騒いでる自分もいたりして」

「うん」

「……父さんと、母さんに……会いたいなって」

「……うん」


 支離滅裂、要領を得ない俺の話を、それでも聞いてくれるレイシャルがいて、それがやけに嬉しくて。やっぱりレイシャルはいい奴だと思った。


「ごめん、レイシャル」

「いいってことよ」


 前足で、ぽんぽんと俺の頬に触れるレイシャル。小さく笑って見せれば、レイシャルも嬉しそうに笑って見せた。

 そこから後の記憶は、ない。



 来ない夜が来て、明けない夜が明けて、ならない朝になった。

 要するに、翌日。


「おはよう、リショウ。朝の時間だ」

「ああ……おはよう、レイシャル」


 起き上がって、欠伸を一つ。


「朝飯は何がいい?」

「和食が食べたい。御飯とみそ汁と焼き魚と漬物」

「わかった」


 キッチンへ駆けていくレイシャルの後姿を見送ってから、溜め息をつく。

 一晩寝て、頭の中はずいぶん落ち着いてきたような気がする。両親の過去とか、フェンリルの過去とか、憎まれる理由とか。……落ち着いたら何か、イラついてきたけど。


「……つうか、フェンリルの俺に対する恨みって、完全にとばっちりじゃねえか」


 突き詰めれば、自分をほったらかしにした母さんに対する恨みじゃねえか。俺の魂のニオイが母さんと似ているから消したいだけじゃねえか。


「あー、イラつく!」


 ベッドから飛び出して、風呂に向かった。頭を冷やそう、今の状態じゃ思考がうまく働かない。



「いただきます」


 風呂に入ったおかげで、少し落ち着いた。そして風呂の中でいろいろ考えて、一つの結論に至った。


「なあ、レイシャル」

「何だ、リショウ」

「俺さ、決めたよ」

「何を?」

「今後について」


 俺はフェンリルに対してどういう態度でいるべきなのか。あいつに対して、何をすべきか。どうすべきか。そんなことを、いろいろ考えた。

 そして見出した結論。



「俺、あいつの憎しみを、真っ向から受け止めてやる」



 俺が憎いなら、正面からかかってこい。俺はそれを全力で受け止めよう。



 レイシャルのほうを向くと、彼はじっと俺を見ていた。それからどこか困ったように笑って、言った。


「いいんじゃないか? それでおまえがスッキリするなら」


 その言葉に、俺も笑った。それから、焼き魚を一口。レイシャルの作る飯は、やっぱりうまい。


「朝飯が終わったら、レスティオールのところへ行きたいんだけど」

「おまえから行かなくても、アシュレイかライディアスが来るだろ。連れて行ってもらえばいい」

「そうだな」


 アシュレイだったらいいな、なんて思いながら、白飯をかき込んだ。



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