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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
無 白くなっていく君と私
21/39

 ある時、ニオイを追って女の人に会いに来た狼は、驚きました。

 女の人が、知らない男の人を背負って歩いていたのです。


『エルド、そいつ、どうしたの』

『死にそうだったから、連れて来たの』

『でも、それはあの白いところでは禁止されてるって、エルド言ったじゃん』

『うん、わかってる……わかってるんだけど、この人は、救いたいんだ』


 女の人はそう言って、狼に向かって微笑みました。


『この人は、私とよく似ているから』


 その言葉の意味が、狼にはよくわかりませんでした。

 背負われているのは男の人なのに、女の人は『自分と似ている』と言う。

 何だか納得ができなくてむっとしていると、女の人はくすくすと笑いました。


『見た目じゃないんだよ。内面』

『ふうん』


 狼は、途中まで女の人と一緒に歩きました。

 やがて白い建物が見えてきたので、狼は歩くのをやめ、女の人を見送りました。


『じゃあ、またな、エルド』

『うん、またね、フェンリル』


 そうして別れてから、女の人と男の人に何があったのか、狼は知りません。


 その次の日。

 白い建物から出てきた女の人と男の人は、たくさんの人に囲まれていました。


『エルド、どこ行くんだよ』


 狼が声をあげると、女の人が狼のほうを見ました。

 女の人は周りにいた人に何かを言って、一人で狼のほうへ近づいて来ました。


『フェンリル、ごめんね。これからしばらく、会えなくなるんだ』

『何で』

『しばらくこの森を離れることになったから』


 困ったように笑いながら、女の人は狼を両手で抱きしめました。

 その手首に、ひどく重そうな手錠がかかっています。


『いつかまた会いに来るから、それまで生きるんだよ、フェンリル』

『……本当に、来るんだろうな? 来なかったら、許さないからな』

『うん、約束するよ』


 約束を交わして、狼は女の人の後姿を見送りました。

 狼にとって、それが女の人と交わした最後の会話となりました。


 それから、狼はまた独りぼっちになってしまいました。

 森の誰よりも強い狼は、やはり森の生き物たちから恐れられていました。

 いつもは隣にいた女の人も、今はいません。


『……ああ、エルドに会いたいな。独りはイヤだな』


 生まれて初めて『サビシイ』の涙を流しました。

 生まれて初めて『サビシイ』という感情を知りました。

 ずっと独りぼっちだったなら、知ることもなかったはずのことでした。


『だから俺は、あいつが大好きで、大嫌いなんだ』


 それは、独りぼっちだった女の子と、独りぼっちだった狼の、出会いでした。

 そして、大切なものを守った女の人と、大切なものを失くした狼の、別れでした。


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