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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
無 白くなっていく君と私
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 それから少しが経った、ある時のこと。

 女の人は何日かに一度、狼に会いに来てくれていました。


『フェンリル、フェンリル』

『何だよ』

『このキノコは食べられるの?』

『見るからに毒だよ、捨てちまえ!』


 あるときはこんな風に、狼が女の人に森のことを教えました。


『ねえねえ、フェンリル。あの白い建物の中もさ、案外楽しいよ』

『ふうん』

『一番面白いのはあそこの責任者が無責任なところかな』

『そいつは何に対して責任を取ってくれるんだ』


 あるときはそんな風に、女の人が狼に建物の中の話をしました。


『ねえ、フェンリル』

『何だよ、エルド』

『ずっと一緒だよ、なんて言えないけど……ずっと『友達』だよ』

『……『トモダチ』って、何だ?』

『そうだな、難しいな……例えば』


 女の人はそう言うと、狼の頭をくしゃくしゃと撫でました。


『一緒にいて楽しいとか、離れるのがなんとなく寂しいとか。そういうやつかな』

『……よくわからない』

『うん、私も、説明しようとすると難しいと思った』


 そう言って笑う女の人に、狼も思わずぷっと笑いました。

 訳もなく笑い合って、一緒にいるのが楽しくて。


『そろそろ帰らなきゃ。またね、フェンリル』

『……うん』


 離れるのが少し、寂しくて。

 こういう関係が『トモダチ』なのかと、狼は思いました。


 そんな風に、いつでも一緒に笑い合って、騒いで、駆け回って。

 いつの間にか狼にとって、隣に女の人がいるのが自然なことになっていきました。

 いつの間にか女の人にとって、隣に狼がいることが当たり前になっていきました。


『エルドは、どうしていつも俺に会いに来るんだ?』

『会いたいからだよ。何、君は私に会いたくないの?』

『そんなわけない』

『ならよかった』


 女の子はにこりと笑うと、狼をそっと抱きしめました。


『私は、君が『大切』。だから会いに来る。だから一緒にいる』

『……『タイセツ』って、何だ』

『そうだね。守りたい、傍にいたい、みたいな感じかな』

『ふーん……』


 狼は、何だかくすぐったいような気がしました。

 けれど不思議と、『イヤだ』とは思いませんでした。


『俺も、エルドがタイセツ』

『嬉しいね』


 どれだけ経っても『エルド』は『エルド』のままで、

 どれだけ経っても『フェンリル』は『フェンリル』のままでした。


 こんな日々が、ずっと続くと思っていました。

 この『シアワセ』が、ずっとそこにあると、信じていました。


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