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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
零 黒い髪の君と私
2/39

 それから少し後のこと、それでも少しだけ昔のこと。

 また別の、ある世界、ある国の、ある街での、小さな事件。


 黒い髪の男の人が、その街を訪れました。

 街を歩いていた男の人に、きらびやかな服装の小さな男の子がぶつかりました。

 男の子が尻餅をついたので、男の人はその男の子を助け起こしてあげました。


『大丈夫か?』

『うん! お兄ちゃん、ありがとう!』


 男の子は男の人にお礼を述べ、駆けて行きました。

 するとその直後、男の人は兵士たちに取り囲まれてしまいました。


『何だよ、俺に何か用か』


 何が何だかわからない男の人に、兵士たちが淡々と言いました。


『貴様は、旅の者か。運がなかったな』

『黒い髪の人間が貴族に触れることは、死罪だ』

『どんな理由があろうと、どんな事情があろうと』


 がしゃん、という音と共に、男の人の左腕が急に重くなりました。

 見ると、ひどく頑丈そうな、重い手錠がかかっています。


『ふざけんなよ!』


 男の人は兵士の手を振り払い、駆け出しました。

 途中、いくつか鉄砲の音が聞こえましたが、それでも夢中で走りました。


 やがて、男の人は森に辿り着きました。

 追っ手が来ていないことを確認すると、男の人はほっとしたように座り込みました。


『ひどい目に遭った』


 ぽつりと呟くと、急におなかの辺りが痛くなってきました。

 見てみると、おなかの辺りが真っ赤に染まっています。

 どうやら、夢中で逃げている途中で撃たれてしまったようでした。


 男の人は、自分の命の終わりを悟り、そっと目を閉じました。


 ――思い返してみれば、ひどい人生だった。

    物心着いた頃には誰も側にいなくて、いつも『ひとり』で。

    自分の生まれた意味を知りたくて、自分の生きる理由を知りたくて、

    誰よりも自由になりたくて、誰よりも穏やかに生きたくて、旅に出たんだ。

    ……その割に、今は、ひどく不自由だな。


 そんなことを考えて、男の人は自分を嘲るように一度、笑いました。


 ――死んだら、あの世にいるだろう両親をぶん殴ってやろう。

    あれ、でも俺、両親の顔、知らないな。

    まあいいか、別に、殴らなくても。


 何だかやけに穏やかな気持ちで、男の人は意識が遠のくのを感じました。


 その後、男の人を追って兵士たちも森に入っていきました。

 森の中で見つかったのは、ある樹の前で止まった血の跡と、黒い髪の毛が数本。

 それらを見つけた兵士は、不思議そうに首を傾げました。


『何だろうな、まるで神隠しにでも遭ったみたいだ』


 それからも捜査は続けられましたが、それ以上の手がかりは一向に出てきません。

 とうとう、兵士たちは男の人を見つけることができませんでした。

 兵士たちは唯一の証拠である黒い髪の毛を持ち帰り、貴族に謝罪しました。


 男の人がどこに消えたのかは、結局誰にもわからなくなってしまいました。


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