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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
参 ここは生き物を差別しない
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「巡回部調査課外部調査班からの報告を伝達しに来た」

「おう。……何て?」


 支部長室にて、アシュレイと並んでレスティオールの前に立っている現在。そしてレスティオールの脇には、短髪で頭のよさそうな印象の男が立っている。


「……巡回部調査課仲良し三人組の報告を」


 呆れたように溜め息をつき、アシュレイが言い直す。すると、レスティオールが納得したように手を叩いた。


「ああ、あいつらか! 主に森を調査する三人組だな!」

「いい加減に正式名称を覚えろ」


 レスティオールの脇に立っていた男が、呆れたように言い放った。


「ひどいな、ディルアート。俺だって頑張ってんだぜ?」

「どうだかな。おまえが頑張っている様など、ここへ来てから一度も見たことがない」

「辛辣!」


 男の冷たい言葉に、レスティオールが泣き真似をする。


「アシュレイ、あの人はどういう人だ?」


 小声でアシュレイに尋ねると、ああ、と言って説明をくれた。


「副支部長のディルアートだ。レスティオールの補佐役だが、実質ディルアートのほうが上司として信頼できる」

「おい、アシュレイ。その説明はひどくないか?」


 アシュレイの説明に対して、レスティオールがむっとする。


「今はどうでもいいだろう、レスティオール。さっさと報告を聞くぞ」

「おう、そうだった」


 ディルアートの呆れたツッコミに、レスティオールがようやく本来の話を思い出す。


「それで、どういう報告だ?」

「森で少々、問題が起きた」


 そう言って、アシュレイは報告書らしき書類をレスティオールに差し出した。


「……読むの面倒くさいな」


 面倒くさそうに目を細め、書類をそのままディルアートにパスする。ディルアートは呆れながら書類に目を通し、口を開いた。


「簡潔に、明瞭に、述べるとすれば」


 ディルアートはそう言って、書類をレスティオールの前に置く。



「どこかの世界から、何かしらの巨大生物が出てきて、森で暴れまわっているそうだ。結果、何本かの樹が傷つけられて枯れかけているらしい」



 曖昧だ。曖昧ではあるが、非常事態であることはなんとなく伝わってくる。


「なるほど、な」


 レスティオールの声に視線を移すと、彼は至極楽しそうな顔で俺を見た。


「リショウ、これから起きることをよく見ておけ。この森を知る上で、一番の指針となることだ」

 そう言うと彼はおもむろに立ち上がり、ディルアートのほうを向いた。

「ディルアート。ザルディオグを呼べ」

「御意」

「アシュレイ。巡回部は森の被害状況を調査するように。可能ならば、同時進行で侵出者を確保しろ」

「了解した」


 トントン、調子よく二人が動き出す。レスティオールは窓から森を見下ろしつつ、口を開いた。


「そういえば、リショウはまだこの組織の名前を知らないよな」

「ああ……確かに、知らない」


 昨日、アシュレイが『これから少しずつ知っていくべきところ』と言っていたけど。


「この組織は、世界樹の森『次元管理委員会』。ここはその西方支部」


 そう言って、レスティオールは体ごと俺のほうへ振り返る。


「この組織の主な仕事は、森の秩序を守ること、だ」

「森の、秩序?」


 聞き返すと、レスティオールは頷き、話を続ける。


「例えば、世界同士が過剰な干渉をしないように。例えば、森へ出てきてしまった生き物が他の世界へ渡ることがないように。森を管理し、秩序を守る。それが俺たちの仕事」


 レスティオールはそう言うと、楽しそうに笑った。



「つまり俺たちは、外側から世界を守るんだ」



「守る? おこがましいね。僕たちは外にいるのに」


 レスティオールに応えるように、放たれた言葉。振り返ると、白衣を着た男が支部長室に入ってきた。


「ザルディオグ」

「僕たちはただ、樹が枯れないようにするだけだよ」


 白衣を着た男はそう言うと、レスティオールの目の前まで歩いて来た。


「それで? 何の用かな」

「何本か、樹が傷つけられて枯れそうになっているらしい。処置を頼めるか?」

「お安い御用。どこの樹?」

「今、巡回部が被害状況を調査中だ」

「そう、じゃあ巡回部にお邪魔して聞いてくる」

「おう」


 滞在時間も短めに、ザルディオグという人は支部長室を去っていく。


「今の人は、どういう?」

「ザルディオグ。研究部のトップだ。いわゆる科学者というやつかな」


 そう言いながら、レスティオールは窓のほうを見る。


「……レスティオール。俺はどうすればいい?」

「リショウは……そうだな、ここから様子を見ていればいい」


 そう言って、レスティオールが手招きをする。呼ばれるままに隣へ行くと、窓の下から上へ、巨大な何かが通り過ぎた。


「今日の侵出者は割とデカイなあ」

「えっと……今のは、一体……?」


 レスティオールに尋ねようとしたら、再び窓の下から上へ通り過ぎる影。レスティオールは窓を開けると、大きく息を吸った。


「アシュレイ! そいつは使えそうだ! 重傷厳禁!」

「だそうだぞ。おとなしく捕まれ!」

「嫌だっ!」


 窓の外から聞こえたアシュレイの声と、もうひとつ別の声。一度目をこすって、窓の外を見る。視界に入ってきたのは、巨大なドラゴンが一匹。あんなもの、アニメかゲームでしか見たことない。……それからもうひとつ。


「アシュレイに、翼が生えてる」


 悪魔っぽいというか、ドラゴンとそう変わらない形の翼が、アシュレイの背中から生えている。説明を求めてレスティオールのほうを向くと、彼はふっと笑って見せた。


「あいつが元々いた世界だと、あの翼を持つ者は忌み嫌われる存在だったらしい。あの顔の傷は、その頃に差別を受けてつけられたものだと聞いている。ま、俺はそんなことに興味なんかないけどな」


 レスティオールはそう言うと、至極楽しそうに、にかっと、笑った。


「あいつの飛行能力は『使える』。だからここへ呼んだんだ」


 その言葉に、アシュレイの言ったことが、解った気がした。


『この森は、この組織は、生き物を差別しないからな』


 彼女が元々いた世界で差別されていたからこそ、気付いた長所。

 ……そう言えば、この森ではリスも喋るし、ドラゴンもさっき喋っていた気がする。そういう点も含めて『この森は生き物を差別しない』なのかな、と俺は思った。


「リショウ」


 ふと、レスティオールが俺の名前を呼ぶ。


「アシュレイがあいつを捕まえたら、おまえと同期だ。仲良くしろよ」

「……同期?」

「ごめんなさいっ!」


 首を傾げると同時に、窓の外から聞こえたドラゴンの声。そして、レスティオールがにんまりと笑った。



「俺が呼んだやつじゃなくても、この森に出てきた時点で『就職希望者』だからな!」



 ……これも『生き物を差別しない』ってこと、なのか?



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