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(旧作)ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
零 黒い髪の君と私
1/39

 それは、少しだけ昔のこと。

 ある世界、ある国の、ある小さな村で起きた、大きな事件。


 その村に住むある夫婦の間に、黒い髪の女の子が生まれました。

 夫婦はたいへん喜び、女の子に『エルド』という名前をつけました。

 ところが、村を治める占い師のおばあさんが、その女の子を見て言いました。


『黒い髪は呪いの証だよ。その子は生かしておいちゃあいけない』


 夫婦はその言葉を聞き、女の子を連れて森の奥へ向かいました。

 やがて村へ戻ってきた夫婦は、もう女の子を連れてはいませんでした。

 村人たちは、呪われた子はもういないと考え、ほっと胸を撫で下ろしました。


 その後、夫婦は毎日森の奥へ向かい、すぐに帰ってきました。

 村人たちは、女の子の弔いをしているのだろうと考えていました。


 十年ほどが経ったある日、村人の一人が森の中で黒い髪の女の子を見つけました。

 その女の子は十歳ほどで、いつも森の奥へ向かう夫婦に少し似ていました。

 村人はすぐに、その女の子がその夫婦の娘だと分かりました。

 夫婦は森の奥で、こっそりと女の子を育てていたのです。


『ばあさま、大変だ。森の奥に、黒い髪の子供がいる。呪われた子供がいる』


 それを聞いたおばあさんは、すぐにその女の子を殺すよう村人たちに命じました。

 夫婦は急いで森の奥へ向かい、女の子を森の奥の洞窟に隠しました。


『私たちが来るまで出てきてはだめよ。いいわね』


 母親の言葉を聞き、女の子は小さく頷きました。

 それを見た夫婦はそれぞれ武器を持ち、洞窟を出て行きました。


 それから、太陽が一度沈んで、また昇って、それからまた沈んで。

 それだけの時間が経っても、夫婦は戻ってきませんでした。


 やがてまた太陽が昇ったので、女の子は言いつけを破り、洞窟の外へ出てきました。

 森の中を歩き回り、やがて女の子は別の洞窟の前にいる夫婦を見つけました。


『父さん、母さん?』


 女の子は駆け寄って、夫婦を揺り起こそうとしました。

 しかし、その時すでに、夫婦は冷たく、動かなくなってしまっていました。


 女の子は、父親の持っていた剣と、母親の持っていた短剣を持って歩き出しました。

 がりがり、がりがり、地面を削りながら歩き、女の子はようやく村に辿り着きました。


『いたぞ! 黒い髪の子供だ! 呪われた子だ!』


 女の子に気付いた村人たちが、武器を持って女の子に襲い掛かりました。

 女の子は村人たちを睨みつけ、右手で剣を、左手で短剣を、握り締めました。


『誰が『呪われた子』だ! 私の名前は、『エルド』だ!』


 翌日、街で配られた新聞には、こんな記事がありました。


『―――村、壊滅。

 犯人は『エルド』という名の、剣と短剣を携えた黒い髪の子供とのこと。

 軍は、その子供を見つけ次第、軍本部に連絡するよう求めている』


 そしてその日、軍の本部に、国境を守っていた兵士から連絡がありました。

 昨日、剣と短剣を携えた黒い髪の子供が国を出て行くのを見た、というものでした。


 それ以来、黒い髪の子供を見たという情報は、ひとつとして得られませんでした。

 隣の国でも、他の国でも、黒い髪の子供は一人も見つかりませんでした。



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