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3 反乱

 反乱が起こった。その反乱が成功に終わったら、それは革命と呼ばれていたはずだ。遅々として進まない政治体制の改革。議会を設立しようとしていた貴族派と王は、ついに合意に達し、議会の設立を王は承認したが、議会は当初の構想とは大きく違ったものとなった。王は、議会の決議に対して拒否権を発動できる。形骸化した議会であった。しかし、議会派の貴族たちは議会の設立を大いなる前進として喜んだ。一定の妥協点、落としどころだったのだろう。


 しかし、納得をしない人々がいた。平民達であった。貴族しか議員には慣れないということに失望をした。所詮は議会など、貴族が自らの特権を守るためのものでしかないのだと、平民は絶望をした。そしてそれ以上に平民たちに急速に広がった思想があった。『人は生まれながらに平等である。王も貴族もそして平民も無い。この思想に基づき、平民たちは、平等を求めて立ち上がった。そして、思想犯が捕えられていた牢獄を平民たちが襲撃したのだ。

 

 前世の知識から言えば、これは市民革命とか、歴史の流れの中から理解できる。思想犯が捕えられている牢獄を平民が襲ったあたり、バスティーユ牢獄の襲撃と重なり、フランス革命を思わせるものだ。


 しかし、前世の歴史とは違った結果となった。王の権限を制限しようという貴族派も、主権は国王にあるという前提を覆そうとは考えていなかった。人間の平等、国王の主権の否定と国民主権の思想。貴族たちは、自らの地位をこの平民の反乱は脅かすものだと気づいた。反目していた王派の貴族も、議会派の貴族も、平民の反乱鎮圧という点では一致した。


 反乱は、あっけなく鎮圧された。首謀者達は捕えられ、断頭台に送られることになる。


 

 問題は、首謀者の名前の一つに、シドニー・ダーネイの名前があったことだ。ダーネイは捕えられ、牢屋で断頭台を待っている。

 ダーネイが熱心に啓蒙思想の本を読んでいるのは知っていたが、まさか反乱の首謀者にまで名を連ねているとは思わなかった。俺は、ダーネイの身を案じて牢獄に面会に行ったが、会えなかった。そして次に心配をしたのが、ルーシーのことだった。


 俺は、マネット伯爵の屋敷を訪ねた。ルーシーも、そのダーネイのことを知らされていたのだろう。目を赤く腫らして泣いていた。ルーシーはくしゃくしゃになっていた。抱きしめてやりたかった。だが、ここでルーシーに優しくするのは反則だ、と思い留まった。

 シドニー侯爵は、一族の恥さらし者がだとダーネイのことを怒っていた。しかし俺は、怒る気にはなれなかった。前世の記憶から言えば、絶対王政の打倒は歴史の必然のようにすら思える。

 だが、目の前で泣いているルーシーを見て、俺はダーネイに怒りを覚えた。ダーネイは何をやっているのだと。ルーシーを泣かせたら、いや、そんなたらればの話ではない。もう深く泣かせたのだから、ルーシーは俺が貰う。

 ダーネイ、お前はルーシーよりも自らの信念を選んだ。逆に言えば、ルーシーを選ばなかったんだ。お前は、自分の信念を選び、ルーシーを置いて死ぬ。ルーシーの事を考えれば、思いとどまることもできたはずだ。もはや、ダーネイ、お前には、ルーシーが自分の恋人だと主張することは許されない。責任と、そしてルーシーとの未来を放棄したんだ。ルーシーは俺が貰う。

 そんなことを考えた。


 しかし、俺はルーシーのことを百パーセント愛していると言えるだろうか? 昨日も、前世の彼女と炬燵こたつを囲んで、2人で鍋をしている夢を見た。ルーシーの手を取るか、取らないか。踏ん切りがつかないのは、前世の彼女のことを忘れていないからだろう。


「私、ダーネイのこと、愛さなければよかった。」


 そのルーシーの言葉に俺はハッとさせられた。


 よかったな、ダーネイ。ルーシーはまだ、お前のことを愛している。俺は、そう思った。

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