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白光世界 前

 白い。

 それがこの空間に入ってから感じた第一印象だ。

 前後左右、挙句の果てに上下まで染み一つも存在しない完全に純白の世界。

 風の一撫でにも砂の粒子が含まれる現実の世界ではありえない空間。

 余りにも透き通っていてそれ故に違和感しか持てない場所、というのが俺の抱いた感想だ。

 下を見る。

 眼下には白が広がっており、最早自分がしっかりと地面に立っているのかもしくは空に浮いているのかすらも良くわからなかった。

 この世界がどれくらい広いのか、何処なのか、それすらも俺の貧相な頭脳では理解が追い付いていなかった。



「やあ、気が付いたようだね」



 唐突に声が聞こえた。

 それはとても聞き覚えのある低い声で威厳のある声質だった。

 俺は音源の場所へと振り向く。



 ぷに。



 俺の頬に何が埋まる感触が広がる。



「うわっ!?」

「そして、そっちには気づかなかったようだな少年」



 俺は突然至近距離に目が合ったために驚いてその場から大きく後ろに跳ぶ。

 俺の目の前で頬を指でついていた威厳のある老骨な容姿の理事長―――波乃清彦はそのまま指を引く。

 理事長は狼狽している俺の様子を見て面白いものを見るかのような笑みを浮かべる。



「そこまで警戒せんでも良いと思うがな」

「この状況でなかったらそうかもしれないと思いますけど」



 真っ白な空間の中で平然といる理事長に対してどうにかして言葉を振り絞る。

 今の非現実的な空間で正常でいるのは紛れもなく彼がこの世界に関しての情報を少なからず持っているからだと俺は推測する。

 だからこそ、ここで話を続けて情報を得る必要があった。



「それもそうだ。失礼した」



 理事長はその場に腰を下ろして胡坐をかく。



「――――――?」

「少年、いや波河世記君。君は私と話がしたいのだろう?

であるならば、君も座りたまえ。立ったままでは疲れるだろうからな」

「……、ではお言葉に甘えて」



 理事長からの突然の申し出にポカンと口を開けてしまったが、彼の言葉に従うことにした。

 理事長の元まで歩いて近づき、そして腰を下ろして胡坐をかく。

 そのことに満足したのか理事長はうんうんと頷く。



「そうだ、私は素直な子は大好きだぞ。無論、我が儘なじゃじゃ馬も嫌いではないがな」

「はあ」



 正直、読めない。

 多分、何かの目的があって理事長は俺をこの世界へと、自分の都合の良い場所へと移動させたのだろう。

 だが、今の彼の様子からして、ただ孫と話したいだけのおじいちゃんのような感情しか彼には抱けない。

 恐怖というよりは安堵、だろうか。

 既知外の場所でこの感情を抱くことも可笑しいとは思うが、逆に精神が混乱してパニックになるよりはましだと思うことにする。



「―――さて、話をしようか、波河君。

 ここは何処なのか、どうしてここに私が呼んだのか、そのすべての情報を君に与える用意が私にはあるぞ。

 さあ、遠慮せずに質問するがいい。老人は子供とも会話が好きなのだ」

「……では、早速。

 ここは一体何処ですか?見た感じ、現実世界ではなさそうですが」

「まあ、その質問からだろうな。

 この世界が現実の世界かどうか、それは個人の考え方による」



 理事長は羽織っているスーツの内ポケットから緑色の棒を取り出した。

 未使用の鉛筆だ。



「鉛筆、ですか」

「そう、何処にでもある鉛筆だ。君、数学は得意か」

「まあ、一通りはこなせます」

「そうか、ならば問題ない。

 物事の分類には集合という物が存在している。私が握っている鉛筆は私と君との間で鉛筆という認識で一致している。

 だが、もしもここに緑の棒という新しい集合の概念を加えたらどうなるか」

「鉛筆という集合は緑の棒という全体集合の部分集合になりますね。それに―――、」

「そう、この全体集合には鉛筆以外の部分集合が含まれていく。

 ―――つまり、私が言いたいのはね。この世界も見方によっては現実世界だということだ。自分の知らない場所。だが、いまこうして確実に存在している世界。

 だからね、波河君。その質問はこの場において現実世界かどうかは論点ではない。単純に、この世界は何処ですか、とだけ言えばいいのだよ。無意味な付与は蛇足になるぞ。気を付けたまえ」

「あ、はい。すみませんでした」



 理事長の在り難い言葉に俺は頭を下げる。

 というか、どうして質問をしていたのに説教を喰らっているのだろうか。

 よくわからないが、とりあえず相手の方が立場も博も上だろうからここでは反論などをするよりも大人しく聞いていた方がいいだろうと考えることにする。



「では、ここは何処かという話だったな。

 最初に言っておこう。ここは地球ではない。とはいってももうわかりきっているようだから余計な説明は省くとしよう。時は金だからな」



 理事長は鉛筆を内ポケットに入れながら話を続ける。



「ここは敢えて名前を付けるとするのならば〈世界の狭間〉というべきだろうな」

「狭間……ですか」

「そうだ。世界、とはいってもこの概念は酷く膨大な大きさの単位だ。

 私たちが生きている解明しきれていないこの宇宙の全多元並行の行き先と法則を内包した概念が世界だ。つまり、世界ごとに法則が異なるということでもある。

 私と君が今いるのはそのような世界と世界の間に存在している何も存在していない場所に私の手で生み出した結界のようなものだ。

 まあ、単純に言えばここも一つの世界であると言えなくもないか」



 ……。

 今の話を総合すると、俺がいるこの場所は人間の知能では理解しがたいほどに大きな概念の世界の狭間に理事長によって作られた一つの世界らしい。

 自分でも何を言っているのかうまく理解できないが、おそらく無数の世界の内の一つにいると考えればよいのだろう。

 それにしても、そんな世界を作り出すことのできる理事長は一体何者であるのだろうか。



「まあ、ここは何処かという質問に対する答えはここまでだ。他にはあるか?」

「では、理事長の正体を知りたいです」

「そうか。ならば答えよう。

 私はこの世におけるkmyに値するkkdkの存在だ」

「……?」



 今、この人は何を言ったのか。

 確かに理事長が話していたのはわかっていた。

 だが、どうしてだろうか。

 肝心の部分に俺の脳みそが反応しない。まるでその単語のような何かが発せられるときだけ俺の理解しようとする脳の回転が零になる。

 まるで、この身がその言葉を理解することを拒絶するかのような、そんな違和感だった。



「ああ、済まない。この単語は人のkkdkでは聞けなかったな。言葉を選ぶように努めよう。

 では、改めて言いなおそうか。私は、この世の神話における神のような存在だ。特定の権能は持っているし、それに恥じない人間には想像もできないような力も持っている。

 まあ、世界を作れたのはその力によるところだ」

「神、ですか」



 どうやら、うちの理事長は神様だったようだ。

 今までに知らなかった情報が一度に頭に入ってきて、うまく実感がわかない。

 おそらく、驚愕に目を見開くほどのことなのだろうけど。



「まあ、唯一神のような考えではなく多く存在する一柱のような多芯的な考えであるのだが。まあ、そんなことは些細なことだ。

 とりあえず、私が人間という存在よりも上位の位階の存在ということを理解してくれればよい」

「位階とは一体なんですか。先程からよくわからないのですけど」

「位階とは、生物における絶対的な力のステージ。食物連鎖の確定された強さの格といってもいいだろうな。

 生物には絶対に勝てない天敵や強大な存在がいる。

 虫ならば鳥。鳥ならば猛獣。猛獣ならば人間。そして、人間ならば―――神と言ったところかね。そういった、最早生物的に勝つことが不可能とされる存在の区分。それが位階だ。

 君がもしも蟻だとして、どうやって獅子に勝とうとするかね。

 ―――いや、そんなことは不可能だ。そのための根本的な力が不足しているのだからな」

「つまりは宿命的に決定づけられた力の差をステージごとに分けた物、というわけですね」

「そうだ。物分かりの良い人間も好きだぞ、私は」

「ありがとうございます」



 目の前で呑気に胡坐をかいている理事長に対しての感情が恐怖に変わった。

 生物は自分よりも格上と分かる存在に対して後ろ足になるという。それは、今までに感じていなかった相手の一挙一動に敏感に反応して、その行動が自分を害するのではないかという潜在的生物本能によって引き起こされるのではないかという考察がある。

 俺は今この瞬間、その論が正しいことに気づいた。

 今までの家庭の団欒のような安堵から、まるで動物園の檻に武器も持たずに熊と同居させられるようになったかのような警戒に溢れた恐怖へと感情が変わったのだから。



「ははは、そんなに怯えるな。私は別に君を取って食ったりはしないさ。大事な客人は丁重に持て成さなければ神の名が泣く。

 まあ、この話はここまでにしよう。他に質問はないか」

「―――ふう」



 一度目を閉じて、深く深呼吸をして精神を安定させる。

 そして、すぐに眼を開き視界を前後上下左右に揺さぶる。

 先程はいきなりこの空間に転移されて目の前のことしか見れていなかったために特に気にしていなかったが、この空間には俺と理事長以外に誰も存在していない。

 俺はこの空間に入る前のことを思い返す。

 確かに、俺以外にも夏帆と波良さんがいたはずだ。それに、他の呼び出された人たちもいなくてはおかしい。

 理事長を視界にとらえる。



「ところで、俺以外の人たちは一体何処にいるのですか?他二名と一緒に来ていたはずなのですが、どうしてかここにいないので」

「他の生徒たちはそれぞれ他のものが作った世界の中にいる。

 別に神は私だけではない。この学園の教師のほとんどはそういう力を持っている。君の担任教師もそうだぞ。これからはしっかりと尊敬したまえ。彼、生徒間の問題で頭を悩ませているようだからな」

「は、はあ。……では、安全という認識で大丈夫ですか」

「そう捉えてもらって構わない。何せ、先程も言ったが大事な客人だからな。大切にするさ」



 理事長だけではなく、教師陣も神様だったようです。

 ……なんだ、このファンタジーな学校は。

 まるで、今までの自分の知識のなさが恥ずかしく思えてくるような場違いな感覚を抱く。



「そう頭を悩ませるな、波河君。確かに、自分の近くの人間が神様だったなそいきなり言われた困惑するのも無理ではない。

 ―――とは言っても、君のはそこまで困惑をしていない方だが」

「そうなのですか」

「ああ。先程話を終えた学校長の伝達によれば、彼の担当していた生徒はそれはもうすごい取り乱しようだったそうだ。まあ、元々賢い生徒だったからすぐに正気に戻ったらしいが」



 他の教師と生徒の会話が非常に気になる。

 おそらくだが、俺は元々ファンタジーを崇拝するかのような妄想を繰り返していたからこのような状況でも精神が安定しているのだと思う。

 俺の妄想の中では神だとか魔法使いとか出てくるのが当たり前だったから。

 まあ、身近な人間が神様ということには驚いたが。



「まあ、この話もこれ以上はいいだろう。別に今生の別れというわけではないことだしな。

 ―――、と。時間的に最後の質問となってしまいそうだ。では、残っている質問の中で最も聞きたいことを問いかけてくれ」

「では、これだけは教えてほしいです。

 ―――どうして俺たちは呼び出されたのですか」

「そうだ、その質問が一番大事なことだ。そこが分からなくては呼び出す意味もこれから行ってもらう意味もないからな」



 どうやら、理事長たちは俺達に何かをさせようとしているらしい。

 だが、ここにいる以上彼らの掌の上にいることには変わりないので大人しく話を聞く。



「君たちを呼び出したのは他でもない。緊急を要する事態が起こったためだ」

「緊急……?」



 理事長は朗らかな様子から一転して、真剣な顔つきで俺を見据える。



「このままでは、―――我々の定住しているこの世界が破綻するのだ」

「……は?」

「まあ、普通はその反応をするだろうな。

 ―――この世界、まあ敢えて地球界と称しようか。地球界だけではなく世界という物は互いに非常に緻密なバランスで成り立っている。トランプのピラミッドを思い出してほしい。あれは力の向きなどを考えてトランプを丁寧に積み上げなければそもそも成立しない。

 それは世界においても同じだ。科学的な要素やオカルト要素、それに空想観念の要素が全て複合されて世界は構成されていく」



 「そうだな」と理事長はそのまま話を続けていく。



「私たちの生きているこの世界は科学要素に特化した世界だ。あらゆる法則が解明され、全てが規則通りに動いていく単純で論理が絶対の場所。そこには魔法などのオカルト要素は存在せずに変化のない生き方をする人間が溢れている。

 それ故に、この世界では一定の幸福を得る存在が非常に多い。なぜならば、社会法則に従っていれば最低限度の生き方を約束されるからだ。

 ―――だがな、地球界で幸福な人間が多いということは、当然不幸な生き方をせざるを得ない存在が多い世界もあるわけだ。全世界は常に中央値を維持しようと働く。全てが幸福になるなどという夢物語は少年漫画ぐらいにしかないのだ」



 理事長の話を聞いて世界の真理とやらに触れた気がするが、俺には彼が何を言わんとしているかが見えない。

 世界には幸福な人と不幸な人がいるのは当たり前のことであるからそのことを世界規模で言われてもたいして目新しいことでもない。むしろ、理事長の言うような少年漫画的思考を俺は持っていないからそのことに対して関心を抱けない。

 俺が関心を持つのはどうしてこの世界が破綻してしまうのかということだ。



「世界のあらゆる事柄を中央値に維持することが私たち神々の使命である。そのために世界を創造し管理する力を与えられているわけだ

 ―――だが、そのシステムに欠陥生じてしまったのだ。」

「欠陥とは一体どのようなものなのですか」

「地球界の人間が余りにも負の感情を押し殺し過ぎたのだ。先程も言ったが世界はあらゆる事柄を明確に定まれた中央値にする。それが絶対的な意志であるからだ。

 私たちはその使徒であり、世界を中央にする存在であることは先程も言ったが、どうにも私たちの手の負えない事態が起こっているのだ。

 地球界の人間や生物の押し殺している負の因子が我々の対策では追いつかない程に膨張している。押し殺した結果に表出する幸の感情が地球界に溢れ、その分押し殺された負の感情は他の世界へと流れ出す。生物はそこまで丈夫に出来ていない。負の感情はその世界の存在をさらに虐げて最終的には幸福という感情を抱かせられないように死を与える。つまりは、バランスの崩壊だ。

 このままでは世界同士の均衡は崩れ、世界が存在を維持できなくなり消滅する恐れもある。

 ―――いや、その前に地球界が目も当てられない程の悲劇に襲われることになる」

「―――。つまり、全世界の均衡が中央値に定まらなくなっているということですか。

 でも、話を聞いた限り世界の意志が強制的に中央値に維持しようとするのでしょう? でしたら世界は崩壊しないのでは?」

「その考えはある意味正しい。だが、間違いでもある。

 世界の使徒である私たちの裁量ではどうしようもない力を持つ全世界の意志が世界の均衡を守ろうとすることは現在の世界の状態の原因を破壊することなのだ。

 つまり、この地球界を破壊し再構築することと同意だ。

 この場合の世界の意志の強制力を神々の中では〈意志(バグ)〉と呼んでいる。私たちはこのバグからこの世界をどうにかして死守したいのだ。だが、世界の意志は強力すぎる。そして、世界の使徒である私たちは世界に対して直接的関与は許されていない。

 ―――だから、バグから世界を守るための尖兵を作ろうとしているのだよ、波河君」



 理事長は気難しい顔で俺を見つめる。

 おそらく、この状況からして彼の言う尖兵とは俺たちのことだろう。

 それは果たしてまだ子供の生徒を戦場に送り出すことに対しての後ろめたさなのか。はたまた、自分たちが直接手を出せないことの不甲斐無さなのか。

 俺は理事長ではないから分からないが、その表情から尖兵とすることに対して申し訳なく思っていることは確かだった。

 が。

 だからといって、早々に妥協する気は毛頭ない。



「―――で、俺たちは何をすればよいのですか。そのような話を聞かされたあとでは断ろうにもその方法を聞かざるを得ません」

「こちらとしても少々姑息な手段を使ったと思われても仕方がないと思う。

 だが、現実の問題を考えるとそのような些細なことなど考えてもいられないのだ。君は鉛筆を握るときに常に同じ場所を持つように意識するかね。精神的に余裕があればそのようなことは可能だろうが、生憎そんな余力はないのだ」



 「さて」と理事長は自身の左側、俺から見て右側に手を翳す。

 そして、何かを呟いたかと思うと手の先にモニターに似た画面が映し出される。

 そこには、草原や森林、海に氷山、火山に樹海などの風景が何度も切り替わって映し出されていた。それは俺が今までに見たことのない場所の風景で、まるでファンタジーのような自然溢れる世界だった。



「―――、と」



 俺は画面に映る生物を見る。

 それは俺達の世界には繁殖していない生物で、だが俺たちの世界でも幅広く知れ渡っている存在ばかりだった。

 スライム、ゴブリン、ミノタウロス、怪鳥、そしてドラゴン。

 そのどれもが俺の妄想の中に常に生きていた魔物たちだった。



「魔物……?」

「そう、お主の考えている通りの魔物だ。

 私が今映し出しているのは、地球界と最も密接にかかわっている、いわばコインの裏のような世界だ。そこでは科学技術などの世界法則を前提とした世界観は存在せずに、魔法などのオカルト要素が世界を支配している自由な世界。

 我々はここを魔法界と呼んでいる」

「魔法、ですか。なんて非現実的な……」



 トクン。

 心臓の鼓動が加速していく。

 今までの冷え切って滞っていた心の葛藤がここに再び活動を開始する。それはまるで塞き止められていたダムの水が一度に放出されるかのような激しさで。

 理事長の言うことが正しいのであれば、その世界はきっと俺の望んだ妄想通りの世界のはずだから。興奮を抑えずにはいられなかった。



「―――だが、悪くはないだろう。君にとっては、な」

「どういうことですか」

「その言葉通りだよ、波河君。

 私たちがどうやって尖兵を選出したと思っている。論文だよ。あの善行で行った論文の内容と筆跡、思念。そのすべてを加味して私たちは考えられる限りの人間を選んだ。当然、君の本質も理解しているよ。

理想に焦がれる自由人。それが君だ。違わないだろう?」



 ――――――っ。

 どうやら、俺の妄想は既に見透かされているようだ。

 顔に熱を感じる。それは興奮しているからか、それとも自分の本性を知られてしまったことに対しての恥ずかしさか。おそらく後者だろう。正直、今にも頭を抱えて蠢きまわりたいほどだ。唯一の救いが、それを知っているのが教師陣だけということだろうか。もしも、生徒全体が知っていたら俺の青春は儚く散ってしまうことになっていただろうから。



「そんなに照れるな。確かに君の渇望は常軌を逸しているが、こんな感情は全ての生命が抱いていることだ。

 鳥になって空に飛び立ちたい。魚になって深海まで泳ぎたい。馬になって陸を疾走したい。それらの渇望をこの世界で実現したのが飛行機であり、潜水艇であり、車だ。

 故、君の渇望は決して恥ずることではないと神である私は確信している。君の願いはそれらの手段をオカルト要素で実現することだろうからな。至ろうとする方法が違うだけで何の問題もない」

「そ、そうですか」



 理事長の言葉に精神を安定させる。

 神と言うオカルトの塊のような人に言われると自分の妄想の脆弱さを思う。

 というか、神から見て関心を抱くほどの妄想力って。俺は自分の想像力の強さに恥辱を越えてどこか誇らしさを感じてしまいそうだ。



「話を戻そう。単刀直入に、私は君にこの世界に行ってもらいたいのだよ。

 魔法界は正しく地球界の裏側。地球界の溢れ出る負の意識に対抗しているのは受け皿であるこの世界だ。地球界の負の因子は魔法界に流れだし、対抗力が追い付かなくなっている。世界の中央値はその凶悪なほどの負の感情によって既に崩れ出しており、異世界には負の結晶である魔物が急激に存在を増やして人に危害を加えている。このままでは、崩壊は時間の問題だ。そしてバグの強襲も、だ。

 だから、大量発生し凶悪になっている魔物を退治し、尚且つ来るべきバグと戦うことのできる存在が必要となった。それが君たちだ」

「―――残念ながら、俺たちは一般市民です。そのような強大な敵と戦うことなんてできませんよ」



 当然だ。

 どれほど妄想の中で戦えていても実戦では空想の中の強さは反映されることは決してない。少しは現実を考えてほしい。

 だが、理事長はなにか策があるかのように笑みを浮かべる。



「それが―――、あるのだよ。たった一つだけな」


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