変容する世界
本日より、投稿を開始します。
よろしくお願いします。
それは硝子の割れる音だった。
ぱりんと罅が入ってそのまま崩壊する高い音色。
確かに、俺にはその音が聞き取れた。
いや、もしかしたらそれは硝子の割れた音ではなかったのかもしれない。
近くを見渡しても硝子が割れているような痕跡はなかった。
だが、俺にはそんなことは些細な問題だった。
―――俺の感覚の中で何かが崩壊した。
今はただ、その事実を深く噛みしめてこの身に宿った力に喜びを見出したかった。
そう、この力はきっと俺を満たすためにあるのだろうから。
▼ ▼ ▼
そこは、広大な草原だった。
見渡す限りに森や山に川は近くに存在せずにひたすらに草が生い茂っていた。
蝶が舞い、飛蝗が跳び、花の揺れる穏やかな不変の日常がそこにはあった。
だが、今は違った。
日常は変化し草原には多くの鎧をまとった人間が跋扈している。
男たちは規則正しい隊列で一致して目の前の標的を見据える。
「――――――」
そこには一人の男がいた。
漆黒の外套を纏い、虹色の片目を持つ男は大人というには幼げが残り、ただ子供と呼ぶには余りにもその在り方が確立している。
男は青年であった。
「これは一体どういうことだ」
青年は相対する鎧の軍勢を睨み付ける。
「我が国から下された命令だ。―――貴様を粛清しろ、とな」
軍勢から一際豪勢な作りの鎧を身に纏う指揮官が一歩手前に出る。
指揮官は巨漢だった。
そして、猛者だった。
鎧越しでも伝わる気迫が空間に浸透している。
だが、青年はそのようなことは理解していた。
二人はそれなりに顔見知りであったから、互いの素性をよく知っている。
「国、か」
「そうだ。お前とは知らぬ仲ではないが、それ以前に俺は国の騎士団長だ。国が殺せと望むのであれば国家のためにその任務を遂行して見せよう」
「――――――、ははは」
青年は笑った。
そのことに指揮官は不機嫌になる。
「何が可笑しい」
「いや、なあ。お前は非常に大きな思い違いをしている」
「何?」
―――ゴウッ。
瞬間、青年を中心に莫大な魔力の奔流が引き起る。
魔力は見るも美しい銀色に輝き、周囲を鈍く照らしている。
「これは……!?」
指揮官をはじめとした軍隊は魔力による威圧感で後ろ足気味になる。
「俺を殺す? 馬鹿言っちゃいけない。お前ら程度を蹂躙するなど簡単なことだ。
お前らは子供に本気で殴るか? いや、殴らないだろう。それは本気で行為をすれば簡単に壊れてしまうからだ。
そう、俺が抱いている感覚のなかではまさしく貴様らは子供、いや、赤子なのだ」
「なっ、貴様は今まで本気を出していなかったということなのか!?」
「当然、俺が本気を出してしまえばこの世界など一瞬で紅蓮の業火に包んでしまいかねない。
喜べ、貴様らは俺の力の一端を知ることになるのだからな」
青年は刻印の刻まれた右腕を高らかに掲げる。
「世界を支配し見守る神威の片割れたる月詠の女神よ。
その偉大なる神域の力の雫を我に授けたまえ」
青年は口角を吊り上げる。
刻印がひときわ強く主張するように輝きを高めていき―――、
「―――ヘブンズ・メイデン」
世界が銀に包まれた。
▼ ▼ ▼
「うおおおおおっ! やっぱり、このアニメは最高だなあっ!」
朝の陽ざしが部屋に差し込む中、俺―――波河世記は録画していたアニメを見ながら朝食を摂っていた。
高校生ながらに下宿している俺は当然自炊をしており、朝食として準備された食パンやスクランブルエッグは勿論自分で作ったものだ。
下宿歴一年ちょっと過ぎの俺にとってはこれくらいのことはまさに朝飯前である。
「絶望的な状況からの慢心捨てなんて男の心を燻る以外にないだろっ!」
俺が熱狂しながら見ているアニメは世間体では深夜アニメに分類されるものだ。
内容は異世界で圧倒的な力を持つ主人公の青年が数々の問題を解決していくものだ。
ここまでは非常にありふれた内容のものであるのだが、俺がこの作品に魅了されたのは一つの要素だった。
―――すなわち、極限と言ってもいいほどの中二要素に溢れていることだ。
「―――やっぱり、中二はいいよなあ」
俺は中二病が好きだ。
普通では考えられないような奇抜な恰好や能ある鷹は爪を隠すような振る舞いも全てが愛おしく思う。
魔法、呪術、神話、伝説、概念、それらすべての要素がこのアニメはあった。
時折見せる科学的な観点や、人間の認識を超える範囲での超常戦闘にたいして俺は一種の進行のような思いを馳せている。
「―――ヘブンズ・メイデン」
手を掲げてアニメで唱えられた魔法を口にする。
だが、当然何も起こらずに外の鳥の囀りとアニメの音声しか聞こえなかった。
「まあ、分かってはいるけどさ。でも、一度でもいいから使ってみたいじゃないか。魔法とか」
異世界。
一概にそう言ってもエイリアンの住む世界や人間のいない世界もあるかもしれないがそれはとりあえず置いておく。
俺は良く自分の行ってみたい異世界を妄想する。
きっとこのことを他の人が聞いたら妄想癖のある危険な人間であるとか俺は思われるのかもしれないが。
典型的なRPGの世界のような魔物も王国も亜人もドラゴンも存在している世界。
そして、そこには魔法があって冒険者とかもいて、そして勇者や魔王もいたりして。
そんな世界を俺は趣向としている。
「―――だが、勇者は嫌だな。後、魔王も」
勇者に魔王。
ファンタジーの中では最も有名とも言っていい二者。
決まって強大な力を所持しており、使命を終えるまで贅沢な人生を送ることのできる存在だ。
だが、俺はその贅沢というレールに乗った決められた道を行くトロッコのような人生は絶対に送りたくない。
「俺は、この世界が嫌いなんだ。
ここは、そう。生きるには余りにも窮屈すぎる」
俺は今のこの日本という国の制限された人生が嫌いだ。
確かに、一定の義務を果たして決められたどおりの生き方をすれば幸福な人生を歩めるのかもしれない。
だが、俺はその生き方が嫌いだ。
せっかくの人生だ。
管理世界のような作られた道を進む歩行者ではなく、新しく道を作る開拓者に俺はなりたい。
人は俺を社会不適合者というだろうが、俺からしてみれば社会に適合している奴の方がどうかしていると思っている。
「だから、中二病が好きなんだろうな、俺」
ピピピッ。
時計のアラームが部屋中に響き渡る。
「―――、と。そろそろ時間か」
俺はさらに残っている朝食を急いで口の中に入れてから皿やグラスを食洗器の中に入れてスタートボタンを押す。
正常に作動したことを確認してからハンガーにかけておいた学ランに手を伸ばしてそのまま袖に腕を通す。
『――月下に自分を抱いて歩く求道者たちよ―――、』
プツン。
制服の前もしっかりと全て締めてからリモコンでテレビを消す。
そして、そのまま愛用のリュックを背負って部屋の扉の鍵を開ける。
「……こうしてみると、俺も決められた道ってやつを歩いてんのかね」
ガチャ。
扉を開けて外へと出る。
妄想に縋る時間は終わりを告げて、仕様もない現実へと一歩歩き出す。
非常に不快ではあるが、そうしなければならない。
―――それがこの世界の意志なのだから。
▼ ▼ ▼
私立波乃高校。
そこは、特に学力に秀でた進学校であるとか部活動に力を入れている名門校であるとかそのような特別な学校ではなく、偏差値も中堅校と難関校の間くらいのまずまずの学校だ。
だが、この学校には一つの特徴がある。
それは――――――、
―――いってらっしゃいませ、お嬢様。
―――副社長、今日の株価のことなのだが……。
―――ハロー、エブリワン!
―――あーー、原稿が間に合わねえ……。
とまあ、学校の理事長の方針なのか少々色物が集まっている。
大企業の令嬢や現役学生社長、エセ日本語の留学生に小説家などキャンパスの上に無駄に多くの色を塗って華やかにしたかのような個性が溢れすぎている目がチカチカする学校。
それが、波乃高校である。
「まあ、話してみると普通のいい奴らなんだがな」
この学校の二年生である俺は彼らのような特別推薦枠ではなく一般入試で入学した多くの生徒の一人だ。
奇抜な人間が溢れるこの学校の中でかなり地味な立ち位置にいるのは紛れもない事実で、絵の具でいうとダークグリーンのような特に目立たない色の人間だ。
個人的にそれで妥協しているところはだいぶあるのだが。
「もしかしたら、俺の妄想もここでは地味に分類される程度の個性なのかもしれないけど」
ぐぐぐっと教室内の自分の席の椅子の背もたれに寄りかかりながら思いきり伸びをする。
さすがに自炊するとなると早起きが基本となるから普段から夜更かしをしている俺の身体には疲れが溜まりやすい。
その原因は自分にも責があるから文句は言えないが。
「おーい、何してるんのよ。この野郎」
俺は体を気持ちよくしているときに聞こえてきた聞きなれた男勝りの声の場所を見る。
―――そこには、黒髪ショートのスレンダーな少女がいた。
「……何だ、夏帆か」
「何よ、そのまたお前かみたいな表情と声は。せっかく人が話しかけてきたんだからもっと好意的に接するべきよ」
朝から無駄に元気な彼女の高い声は俺の疲弊しきった脳内に騒音のように縦横無尽に暴れまわる。
正直言って、疲れが溜まっていくから朝から相手をするのは勘弁したいところだ。
「俺は別に話しかけてくれと頼んだ覚えはないんだが」
「話しかけるなとも言ってないわよね」
……。
これだ。
登校日の朝にいつもやってきては俺の声を自分の都合のよい様に解釈して俺の休息を邪魔する悪魔のような女だ。
「―――わかったよ」
「分かればよろしい。全く、世記は小さいときからつまらなそうな仏頂面ばかりしているんだから」
この少女、飯島夏帆とは小さいころから一緒の学校に通っている所謂幼馴染なのだが、中学生の頃ぐらいになってからかどうにも必要以上に絡んでくることが多くなった。
そのせいで青春時代という幻想を見事に木端微塵にされて我が世に春は訪れることは今になっても一度もない。
彼女に対して呪詛を言ってもいいのならば小一時間ほど休憩なしに言い続けられると俺は確信している。
だが、どうにも俺には彼女を強引に引き離そうという暴力的な行動を起こす気にはなれない。
面倒くさい。
確かにその気持ちはあるがそれ以上に厄介な問題があり、それが俺の反逆の意志を留まらせている。
それは――――――、
「そういえば、お前柔道部の朝練はいいのか? 時間的にはまだ練習中のはずだが」
「ああ。先週末に大会があってね。今日は明けの月曜日だから休息もかねて部活は全休なの」
そう、彼女は柔道部に所属している格闘少女なのだ。
しかも、ただの柔道部員ではなく一年生の時に個人部門で全国大会にもいった正真正銘の怪物だ。
今年の全国大会で夏帆はその美貌から注目の選手としてマスコミから時折取材を受けている。
そんな彼女であるからこの学校の中でも名の知れている有名人の一人で、学校内で非常に地味な立場にある俺とは天と地ほどにかけ離れた存在だ。
美しい容姿とネームバリューから当然男子生徒から陶然人気も高い―――わけではないのだ。
それは、彼女のかなり攻撃的な性格が起因しておりそのせいで男からの人気はなく、むしろ男よりも漢らしいからか女子に人気があり、お姉さまとか呼ばれているようだ。
まあ、確かにあの平たい胸だったら男だと思われても違和感はないだろうし。
「―――なにか失礼なことを考えなかった、世記?」
「いや、何のことかな。俺はお前のことしか考えてないぞ」
「……ふーん。まあ、そういうことにしておくわ」
相変わらずのしかめ面で少し視線を逸らす夏帆。
少し言葉が拙かっただろうか。
いや、彼女を怒らせるような言葉は言っていないはずだと俺は自分の発言を正当化させていく。
そう思わないと、これからの始まる授業で常に彼女に敵意を向けられていると思いながら授業を受けないとならない。
それは、修羅の道だ。
当然、断固拒否する。
「ところで世記。今日の宿題ってやった?」
「総合の論文だろ。勿論やったけどそれがどうした。
―――もしかして夏帆、やってないのか?」
「そんなわけないわよ。勿論ちゃんとやって持って来たわ。大会の後で疲れている中頑張ったのよ。少しは労ってほしいものだわ」
夏帆はドヤ顔で平たい胸を逸らしながら俺のことを見る。
「いや、当たり前だからな。学生は学業が第一だから」
「全く、可愛げのない幼馴染ね。そんなんだから彼女の一人も出来ないんじゃない」
「うっせえ」
お前のせいだろ―――、と言いたいところだがその言葉を呑みこむ。
お前もそんな性格だから彼氏も出来ないんだろうが―――、とも言い返そうとも思ったがその後に待ち受けていることを考えてその意志を押しとどめる。
「で、宿題がどうしたんだ。特別難しかったわけでもないだろ」
「確かにそうだったけど。何か、変な課題だったから印象に残ってね」
「実際、仮想異世界に突然転移したときの生き方なんて論文は普通学校ではやらないな。
まあ、この学校はそもそも普通じゃないし、今回は理事長が直々に考えた課題らしいわよ。本当に何を考えて教育しているのだろうかね」
「そんなこと考えても仕方がないでしょ。私たちはここの生徒で教育者ではないんだから」
確かに教育としては可笑しいのかもしれないが、この学校は私学だから多少の自由は効いてしまうのだろうと考えておく。
だが、そう考えてもこの学校の教育には少々常識からは離れていることを信条としている縁がある。
―――常を疑とし、異を正と考えよ。
入学式のときにここの理事長が語った式辞だ。
まるで世界から反逆することを良しとするような反抗思想だが、俺はその演説のような話を気に入っている。
まあ、俺の妄想に通じるところがあるからなのだが。
「世記はどんな内容を書いたの?」
「俺は、現実世界の束縛世界と自分の仮定した自由世界での正しい生き方の違いを書いたな。科学法則とか複雑なことは分からないから思ったことを書いた感じだ」
「へえ、意外だな。私はてっきり、異世界でも楽が出来る方法とか書いているのかと思ったわ。面倒くさがり屋のあんただからさ」
「失敬な。人をナマケモノのように言うな。
ところで、夏帆はなんて書いたんだ?」
「それは―――、」
コーン。
夏帆の言葉を遮るようにホームルームの予鈴が鳴る。
現在の時刻は八時二十分。
あと五分でホームルームが始まる。
「―――、と時間のようね。話はまた昼休みにでもするわ」
じゃあね、と夏帆は自分の教室へと戻って行く。
「……勝手にやってきて、勝手に帰りやがる。本当に嵐のような奴だな、ったく」
机に立て掛けていたリュックのチャックを開ける。
そこから、今日のホームルームに提出する件の論文を取り出す。
「仮想世界転移、か。そんな夢みたいなことがあるんだったら、きっと楽しい人生を歩めるんだろうな」
中の論文の内容を見て俺は感想を零す。
この中に書けていない自分の溢れ出さんとしているファンタジーへの欲求は一体どうすればよいのだろうか。
ここはリアルでシビアな世界だから発散しようにもどうしようもないのだが。
コーン。
再びチャイムが鳴る。
今度はホームルーム開始の音だ。
ガラガラ。
教室の前扉が開く。
そこから、スーツをびしっと決めた温和な性格が溢れている中年程の男教師が入ってきて教壇に昇る。
「では委員長。号令を」
「起立―――」
教室内にいる生徒は学級委員長の眼鏡の少女の号令に従ってその場に立ち上がった。
▼ ▼ ▼
―――昼休み。
学校中の生徒たちが授業の疲れを食事と会話という形で癒す時間だ。
ある人は教室で机を囲んで弁当を食べ、またある人は食堂に向かい学食を買いに行く。
無論、俺は弁当を作るなどという面倒なことはしたくないから普段は学食でことを済ませている。
ここの学食はなかなかに質が良く、品ぞろえも豊富で味も確か、しかも安いから多くの生徒が敢えて弁当ではなく学食を選択している。
今日も学食を食べに教室を抜け出すはずだったのだが―――、
「なんで、呼び出しなんかあるんだよ……」
「仕方ないでしょ。理事長からの直々の要件なんだから」
「…………」
どういうわけか今日の俺は巡り合わせが悪いようだった。
隣には相変わらずの様子でコンビニパンを頬張っている夏帆がおり、俺たち二人の後ろには居心地が悪そうに俺のクラスの学級委員長の眼鏡の少女―――波良悠華がついて来ている。
こんなことになったのも勿論理由がある。
それは、四時限目の終わりを告げるチャイムの後の放送のことだった。
『―――こんにちは。理事長の波乃清彦だ。
唐突だが、今から呼ぶ10人の生徒は理事長室まで至急来て欲しい。
では――――――、」
というわけで、見事に呼ばれてしまった俺たち三人は学校の最上階に在る理事長室まで赴くことになったわけなのだが――――――、
「何だか呼ばれた面子の中で俺だけ地味じゃね?」
「まあ、確かにそうよね。
―――生徒会の会長と副会長に大企業のご令嬢みたいに特別な人間とか、それに私や後ろにいる波良さんみたいな全国的に名の通る有名人ばかりだしね。世記を覗いてね」
そう、呼び出された人間はこの学校の中でも際立って個性が強い人間ばかりだ。
その中に、地味な学校生活を送っている俺が混じるのは些か気後れする。
というか場違いだ。完璧に。
「そうなんだよな。ったく、どんな要因で呼ばれたのか。
―――波良さんはどう思う?」
「えっ!?」
後ろを振り返って波良さんを見ると顔を真っ赤にしていた。
果たして俺は彼女に何か怒らせるようなことをしただろうか。
「波良さん……?」
「あっ、いえっ、何でもありませんっ、大丈夫ですっ!!」
果たして何が大丈夫なのだろうか。
俺は彼女の様子に非常に心配を抱く。
だが、きっと真面目な彼女が大丈夫と言ったからには大丈夫なのだろうと納得しておく。
「で、どう思う。どうして俺が呼び出されたか、波良さんの意見を聞きたいんだけど」
「え、えっと……。多分、波河君には元々素質があってそれに理事長さんが気づいたのでは……?」
「素質、か……」
俺は先程の放送で委員長に呼ばれた人間のことを思い返す。
生徒会の縛り王子。
科学部のマッドサイエンティスト。
図書館の貴婦人。
……。
「俺には素質があるのか……」
「え、えっ!?私、何か波河さんを傷つけることを言ってしまいましたかっ!?」
「いや、波良さんは悪くないから。これは俺の問題だから責任とか負い目とか感じなくていいよ、うん……」
まさか俺の妄想は彼の者たちの異常な個性と同レベルものなのだろうか。
いや、そんなことはない。あってはならないのだっ!!!
「あ、あの……」
「波良さん、先に行こう?今のあいつを抑えることは不可能よ」
「で、でも。あんなに頭を抱えて……もしかしたら頭痛なのかもしれないし」
「大丈夫、よくあることだし。それに……大体すぐに復活するから」
「え?」
俺の眼が二人の顔見知りの同級生を捉える。
はて。
一体、俺はどうして頭を抱えてあんなにも悩んでいたのだろうか。というか、何に悩んでいたのだろうか。
まあ、今となってはどうでもいいことだ。
ぐう、とお腹が小さく鳴る。
今は早く理事長室へと赴いて用事を済ませてから、さっさと食堂へと向かうべきではないだろうか。
うん、そうだ。それが絶対に正しい判断のはずだ。
「さっさと行こう。俺の学食のために」
「は、はい。……学食?」
「ほらね、波良さんもさっさと行くわよ」
「わ、わかりました……」
俺は少々早歩き気味に、もうすでに目と鼻の先に在る理事長室の妙に豪華な作りの扉まで足を運ぶ。
そして、連れの二人が追い付いたことを確認してから扉を押し開く。
「――――――――――――――――――――――――――――、ぇ」
瞬間、視界が黒く染まった。
私立波乃高校
国内でも有数の大きな高校であり、多くの海外留学生やお金持ちが所属している。在籍している人間の中では将来を熱望されている、もしくは現在社会で活躍している人間も少なくない。
波乃市
とある県にある市。波乃財閥が多くの土地を買い取って、様々な建物を建てている。実質、波乃財閥の権力下にある町。




