がしゃどくろ
「な、なんだこれは!」
見上げるほどの、巨大な骸骨の異形がいた。
五メートルはあるだろうか。
その巨大な骸骨の異形が、がしゃがしゃと音をたてて、こちらに向きを変えた。
へたりこんでいる少女に指示を出す。
「祠の所まで下がって!」
二十メートルくらい後方に祠がある。
そこまで行けば、とりあえず安全だろう。
俺の指示に、少女が素直に従う。
少女が祠まで下がるのを確認して、異形に向き直る。
「クソッ、どうする」
相手がでか過ぎる。
攻撃の取っ掛かりが掴めない。
こちらが攻めあぐねていると、異形が大きな右手で俺を掴もうとしてきた。
「チッ!」
破敵を振るい、異形の右手を斬り落とす。
こちらが攻撃する間も無く、すぐに時間差で左手が襲ってきたので、後ろに飛んで距離をとる。
「奴は右手を失っている。そこを突破口に……な!?」
斬り落とした腕が、もぞもぞと動き異形の元に戻っていく。
異形の右手は何事もなかったようにくっついていた。
「嘘だろ……」
斬りつけても再生するんじゃ、どうやって倒せばいいんだ。
異形は、がしゃがしゃという音を立てながらこちらに近付いてくる。
「まずい」
後ろには少女がいる。
これ以上、異形を近付けるわけにはいかない。
破敵を握り、異形に突っ込む。
俺の動きに対し、異形は両手で挟みこもうとする。
「うおおお!」
異形の手に挟まれる寸前に加速する。
背中に風圧を感じる。
ぎりぎりで攻撃をかわすと、目の前に無防備な異形の顔があった。
「うらあっ!」
異形の顔を、縦に真っ二つに斬る。
「クッ」
俺を掴もうと、異形の腕が迫ってきた。
急いで異形から離れる。
十分な間合いを確保し異形を見ると、やはり先程と同じように、斬ったはずの顔が再生していた。
「やはり駄目か」
どうする、このままだと埒があかない。
どこかに弱点がないのか。
俺が攻め手を欠いていると、異形が再び右手を伸ばしてくる。
「クソッ」
破敵で右手を斬り落とす。
するとまた、時間差で左手が迫ってきた。
「チッ!」
異形の手を逃れるため、大きく後ろに跳ぶ。
すると異形は左手を地面につき、その反動を利用して、こちらとの間合いを一気に詰める。
口を開けた巨大な骸骨の顔が迫ってきた。
「噛み殺すつもりか」
とっさに左に跳ぶ。
直後にガチっという音が聞こえた。
紙一重で異形の攻撃を避ける。
「危なかった……あ!」
顔を上げると、二メートル先に少女がいた。
このままだと戦いに巻き込んでしまう。
急いで祠の所にいる少女の元に向かう。
「ここは危ない。建物の所に逃げよう」
そう言って少女の手を取る。
とその時、今までとは違い、異形がその巨体に似合わない素早い動きでこちらに向かってきた。
「くそおおお!」
少女を抱き締め、思い切り横に跳んで、異形の突進をなんとか避ける。
「立って!」
寝転んだ状態から素早く立ち上がり、少女の手を引いて立たせる。
とりあえず建物まで移動しないと。
「あの建物まで走って」
少女は俺の言葉に従い、素直についてくる。
なんとか建物に辿り着き、異形の様子を窺う。
異形は祠の前に立ったままだった。
「追ってこないのか。助かった」
思わず独り言がこぼれる。
だがどうする、斬ってもすぐに再生する相手に。
このままではきりがない。
「何者なんだ、あの異形」
「……がしゃどくろ」
「え?」
俺の独り言に対して、少女が何か言ったので聞き直す。
「あれは、がしゃどくろ。死者の怨念と骸骨が集まった者」
がしゃどくろ……死者の怨念と骸骨が集まった者か、待てよ、怨念が集まった者なら、何か核になる物があるんじゃないか。
何かそれらしい物がないか、がしゃどくろを見てみる。
あいにくと核っぽい物は見当たらない。
「どこなんだ。それとも俺の考えが間違っているのか」
祠の前から動かない、がしゃどくろを見ながら呟く。
「いや、待てよ」
ある考えが頭をよぎる。
もし俺の考えが間違っていたら、終わるかもしれない。
でもやるしかない。
「ここにいて」
俺は少女にそう告げて、がしゃどくろの前に立つ。
がしゃどくろがこちらを見る。
もちろん骸骨なので瞳はない。
暗いくぼんだ二つの双眸で、こちらを見ていた。
俺は破敵を握り、がしゃどくろに突っ込む。
がしゃどくろは手を伸ばし、俺を握り潰そうとする。
破敵を振るい、腕を斬る。
そして素早く、間合いの外に出る。
斬った箇所は当たり前のように元に戻る。
だが俺は斬っては下がり、斬っては下がりを繰り返す。
徐々に、がしゃどくろが祠から離れる。
「今だ!」
がしゃどくろに突っ込み右腕を斬り、左手の攻撃をかわしながら首を落とす。
そして後ろの祠まで、一気に走る。
祠の中を見ると、血に濡れた髑髏があった。
「これか」
髑髏に対し、破敵を構える。
再生を終えた、がしゃどくろがこちらに迫ってくる。
「終わりだ!」
破敵を突き刺さすと、髑髏は砕け散った。
砕けた髑髏から、無数の火の玉が天に向かって飛んでいく。
それと同時に、がしゃどくろは光の粒子に変わり、俺に取り込まれた。
「か、勝った。そうだ女の子は」
急いで少女の元に行く。
「いた、無事で良かった」
少女は建物のそばに座りこんでいた。
「……お兄ちゃん」
少女は虚ろな眼で呟いていた。
俺は掛ける言葉が見つからず、ただ隣に、突っ立っていることしか出来なかった。
≪妖怪解説≫
【がしゃどくろ】
戦死者や野垂れ死にした者の怨念や骸骨が集まって、巨大な骸骨の姿になった。
がしゃがしゃと音を鳴らして動き、人を見つけたら捕まえて握り潰す。
次話は8/23の予定です。




