鎧武者
男性が血まみれで倒れていた。
その周りには鎧を着た武者達が刀を構えて立っている。
間違いなく異形だろう。
ただ今までと違い、単体でしか現れなかった異形が、今回は五体いる。
数的に不利だ。
単体でも苦戦していたのに、今回は五体も……。
だが、迷っている時間はない、血を流して倒れている人がいる。
「助けないと」
破敵を握り、鎧武者に向かって駆け出す。
俺の存在に気付いた鎧武者が、こちらに振り向き、その顔が露になる。
思わず息を飲む。
骸骨だった。
「クソッ!」
五体の鎧武者が一斉に俺に襲いかかってきた。
俺は攻撃を避けながら、反撃する。
「こいつら……たいした事ないな」
身体能力が上がったのもあるのか、今までの異形に比べて、鎧武者の攻撃がぬるく感じられる。
鎧武者の攻撃を難なくかわし、カウンターをきめていく。
破敵で斬りつけるごとに、一体、二体と鎧武者はバラバラになっていき、あっという間に五体全てを倒した。
辺りには鎧武者の骨が、散らばっている。
俺はそれをかき分け、男性の元へ駆け寄る。
男性の顔を改めて見る。
若い男性だった。
俺と同じ年くらいに見える。
「大丈夫ですか!」
血まみれの男性に話しかける。
「……」
返事がない。
顔色は青白く、呼吸も浅い。
このままだと危ない、何とか血を止めないと。
「……うと……を」
止血する物がないか探していると、男性が言葉を発した。
「どうしました!」
何かを伝えようと男性が口を動かす。
「お……れは……だめ……うと……をた……の……む」
男性はそう告げて、動かなくなった。
「しっかり、しっかりして下さい!」
だが俺の呼びかけに、男性は応えることはなかった。
男性は死んだ。
「クソッ!」
思わず地面を殴りつける。
もっと速く駆けつけていれば……。
「きゃあああ!」
近くの家の中から、女の子の悲鳴が聞こえた。
その瞬間、あの男性の最後の言葉が甦る。
”お……れは……だめ……うと……をた……の……む”
あの言葉を理解する。
俺に守りたい人を託した言葉だったんだ。
「行かなきゃ」
俺は声の聞こえた家の中に飛び込んだ。
家の中に入ると、少女が五体の鎧武者に囲まれていた。
「うおおおお!」
俺は破敵を抜き、鎧武者の群れに突っ込む。
俺に気付いた鎧武者が、こちらに向かって攻撃してくる。
「フッ!」
鎧武者の攻撃を難なく交わし、カウンターをきめる。
「たいした事ないな」
強さ的にさっきの鎧武者と変わらなかったので、あっさりと片付けた。
散らばった鎧武者の骨を避けながら、少女の元に駆け寄る。
「大丈夫かい」
俺の声に少女は顔を上げる。
年齢は十四、五才くらいだろうか。
綺麗な黒髪をツインテールにしていて、クリッとした目が印象的なかわいい女の子だ。
「お兄ちゃんは?」
「え?」
「お兄ちゃんどこ!」
そう言って、少女は家の外に出て言った。
「まっ、待って」
俺は少女の後を慌てて追った。
外に出ると、少女が地面にへたりこんで呆然としていた。
見ると地面に血の跡だけ残して、男性の死体が消えている。
「な、どうして……」
家の中に入って数分しか経ってない。
その間に異形が死体を持っていったのか。
だとすると、近くに異形がいるかもしれない。
ここに居ては危険だ。
俺は少女の元に駆け寄り話しかける。
「異形が近くにいるかもしれない。どこかに隠れよう」
そう言って、少女の肩に手を触れようとした時、コキコキという奇妙な乾いた音に気付いた。
見ると、鎧武者の骨達が一ヵ所に集まっていく。
俺はそれを見て気付く。
(そうだ。倒したら霊力にならないのはおかしいじゃないか)
集まった骨は、一体の大きな骸骨の化物に姿を変えていた。
次話は8/16の予定です。




