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神隠し  作者: 四苦八苦
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化け者

「誰だ!」


 女は俺の問いかけには答えず、吸い込まれそうな黒い瞳で、ただ俺を見つめていた。


 俺は破敵を構える。

 見た目に騙されては駄目だ。

 この時間にこの場所にいるのは、どうみても怪しい。


「異形か」


 女は何も答えない。

 ただ次の瞬間、口を開け糸を吐き出した。


「クソ!」


 やっぱり、異形かよ。

 とにかく外に出ないと、狭い場所で糸を飛ばされたら逃げ場がない。


 襖を突き破り、外に飛び出す。

 俺の後を追って、異形も外に出る。


「やはり来たか」


 破敵を構える。

 すると、異形が俺に向かって糸を吐き出した。


「クッ!」


 破敵を振るい、糸を斬り裂く。


「ちくしょう! 糸が見にくい」


 外は明るくなり初めたとはいえ、霧が出ていて糸が見え辛い。

 それでもなんとか糸を斬り裂いていると、突然俺の周りに糸を撒き散らしだした。


 (逃げ場を無くす気か)


「させるか!」


 俺は糸を避けながら、数歩で異形に近付く。


「おらあああ!」


 上段から破敵を降り下ろし、異形の頭を真っ二つにする。

 顔なしの件があるので、異形から飛び退き距離をとり様子を伺う。


「やったか」


 しかし、異形は光の粒子にならない。

 頭が真っ二つに裂けて、体がゆらゆらと揺れているだけだった。


「まだなのか」


 破敵を構えなおす。


 次の瞬間、女の体が激しく震えだし縦に真っ二つに裂けた。

 そして中から巨大な蜘蛛が姿を現す。


「な、なんだ……」


 頭が鬼、足が蜘蛛で体が虎。

 体長は二メートルは越えていて、明らかに女の体より大きい。


「どうやって女の体の中に、こんなばかでかいものが……」


 蜘蛛は俺の疑問に答えることなく、不気味に牙をキチキチと鳴らしている。


「クソ!」


 待っていても仕方ない、俺は思いきって蜘蛛に突っ込む。


「おりやあああ!」


 蜘蛛の頭めがけ、上段から破敵を降り下ろす。

 しかし、破敵が頭を斬り裂く前に、蜘蛛は素早く俺の横に回り込む。


「なに?!」


 蜘蛛の予想外の速さに驚き、一瞬、対応が遅れる。

 蜘蛛は俺の左側に回り込み、俺の左足に糸を絡ませる。


「しまっ……」


 糸を引っ張られ、バランスを崩し倒れる。

 倒れた拍子に、破敵を放してしまった。


「クソッ」


 ものすごい力で引っ張られ、蜘蛛に引き寄せられる。


「チッ、破敵をなんとかしないと」


 だが、抗おうにも蜘蛛の力が強く、引き寄せられていく。


「このままじゃやばい。な、何かないか」


 そう思い、辺りを見回す。

 俺の周りには蜘蛛の吐いた糸が落ちていた。

 俺はとっさに蜘蛛の糸を掴み、破敵に向かって投げる。


「頼む!」


 俺の願いが通じたのか、うまいこと糸が破敵に付いてくれた。

 素早く糸を引いて、破敵を手繰り寄せる。


 (あと二メートル)


 破敵も俺に近付いているが、俺も蜘蛛に近付いていた。

 キチキチという、不気味な牙を鳴らす音が聞こえる。


「間に合え!」


 必死に破敵を手繰り寄せる。


 (あと三十センチ)


 牙を鳴らす不気味な音が近付いている。


 (あと十センチ)


 手が破敵に触れる、とその時、左足に激痛がはしった。


「ぐわあああ!」


 見ると、蜘蛛が俺の左足に噛みついていた。


「くそおおお!」


 蜘蛛の頭めがけて、破敵を振り下ろす。


「チッ!」


 蜘蛛は俺の足から素早く離れ、距離をとる。


「やりづらい奴だ」


 俺は破敵を杖代わりに立ち上がる。


 左足が痛ぇ、油断すると気を失いそうだ。

 それに、痛みで集中力が散漫になっている。


 この状態で蜘蛛の攻撃を捌ききれるか?

 おまけにこの左足じゃ、自由に動けない。


「詰んでないか、これ」


 絶望的な状況に、心が折れそうになる。

 その隙をついて蜘蛛が、俺の胴体に糸を巻き付けた。


「あ……」


 蜘蛛は思いきり糸を引っ張り、俺を手繰り寄せる。

 俺はそれに抗うことなく……むしろその力を利用して、蜘蛛に突っ込む。

 俺の意図を察知したのか、蜘蛛が距離をとろうとする。


「逃がすか!」


 俺は蜘蛛の左前足を一本斬り落とす。


「グアアアア!」


 蜘蛛は足を失い、バランスを崩す。


 俺はその隙を逃すことなく、さらに追う。

 破敵を棒高跳びの棒のように使い、蜘蛛の背中に乗る。


「やっと捕まえたぞ」


 蜘蛛の頭に何度も破敵を突き刺す。

 気が付くと蜘蛛は光の粒子になり、俺の体に取り込まれた。


「か、勝った」


 霊力のおかげで、左足の怪我も治っている。

 急に力が抜け、俺はその場に寝っ転がる。


「危なかったな」


 ポツリ呟く。

 紙一重だった。

 あのまま攻めあぐねていたら、間違いなく死んでいただろう。

 今のままじゃ、この世界を造りし者を倒せない。 もっと力が必要だ。



 ――こだ。



 不意に遠くから、かすかに人の声が聞こえた。


「まさか……人がいるのか」


 俺は素早く立ち上がり、声の聞こえた場所を目指して走り出した。

≪妖怪解説≫


【土蜘蛛】つちぐも


 頭は鬼、足は蜘蛛、体が虎。

 人を糸に絡めとり喰らう。

 源頼光に退治された妖怪。

 僧に化けたり、美女に化けたと言われる。



次話は8/9の予定です。

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