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神隠し  作者: 四苦八苦
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波山

 街灯を頼りに先を進む。

 さっきのように、いきなり異形とエンカウントするかもしれない。

 周りに注意を払いながら歩き続ける。


 異形と呼ばれし者。

 人間の敵であると同時に、この世界を造りし者を倒す為の鍵でもある。

 異形を倒すことで得られる霊力で、体力回復や身体能力強化を行う。


 ただ、さっきの顔なしの場合は、治癒のほうに霊力をかなり割かれたのか、牛頭の時のような変化があまり感じられなかった。


「……まずいな」


 さっきのように勝利しても、得られる霊力が少ないとじり貧になる。

 それに、これはゲームではない。

 こちらのレベルに合わせて、異形が出てくるとは限らない。

 運悪く、強い異形と出くわしたら終わりだ。

 奴等はどこまでも、追いかけてくる。

 牛頭は、本当にしつこかった。


 今の俺は普通の人から、スポーツが得意な人になったくらいの変化だ。

 何とか異形と渡り合えるのも、手帳の人が残してくれた刀【破敵】のおかげだ。

 破敵はかなり強力な武器だが、当たらなければ意味がない。

 ある程度、自分自身の身体能力を向上させておかないと苦労するだろう


「どっかに牛頭いないかな」


 牛頭は良かった。

 しつこくてパワーは凄かったが、攻撃パターンは単純で戦いやすい。

 奴を倒して、身体能力をある程度上げたいところなんだが。


「そううまくいかない……?!」


 背後に気配を感じ、勢いよく後ろを振り向く。

 しかし背後には何もおらず、霞がかった暗闇が広がっているだけだった。


「気のせいか」


 慣れぬ異形との戦いのせいで、気が張っているだけだと思い、前を向く。



 ――目の前に、鶏の姿によく似た異形がいた。

 血のように赤々とした、鶏冠を持つその異形は、俺よりもデカかった。


「何だ……こいつ? いつの間に現れた?」


 異形は俺の言葉には答えず、口を開けた。

 その口に光が灯る。


「まずい!」


 危険を察知し、身を屈める。

 俺の顔があった場所に、炎が疾る。

 俺は後ろに転がりながら、異形と距離をとる。


「クソ!」


 俺は立ち上がり、刀を構える。


 すると異形は、バサバサという羽音を残し、飛んで行った。


「クッ、逃げたか」


 いや、そんな事はない。

 奴等はどこまでも追ってくる。


「また来るな」


 だがどうする。

 音もなく現れ、炎を吐く異形が相手だ。

 常に周りに注意を払わなければならない。


「いっそ、建物の中で迎え討つか」


 建物の中に居れば、奴が来た時すぐ気付けるし、空も飛べない。


「それでいくか……そうだ」


 俺はあることを思い出し、もと来た道を走って戻った。




「ここでいいか」


 俺は必要な物を手にいれ、異形を迎え討つ家を見つけた。

 屋敷と呼んでも差し支えない、大きな家だ。

 なるべく広い部屋がある家を探していた。

 戦う時、ある程度動ける場所が必要なので。

 ただ、ここは都会と違い、家が点在している為、思ったより時間が掛かってしまった。

 目当ての家を探すのに体力を使ったのも誤算だった。

 今回はなるべく無傷で勝たないと。

 俺はバッグから懐中電灯を出して、屋敷の中に入って行った。




「広いな、ここならいけそうだ」


 屋敷に入ってすぐに、ちょうどいい大広間を見つけた。

 七十畳くらいはあるだろうか、ここなら戦うこともできるだろう。

 襖を開ければ廊下があり、その先には庭がある。

 もしもの時は外に逃げ出せる。

 しかも廊下はうぐいす張りで、歩けば音がなる。

 あの異形に通じるかは分からないが。


「後は、いつ来るかだな」


 そう呟いて刀を構える。

 静寂の中、俺は異形が現れるのを待った。




 どのくらいの時間が経っただろうか。

 屋敷の大広間にて、異形を迎え討つべく待っているが、まだ現れない。


「まだか……」


 先程から、今まで感じなかった喉の渇きや睡魔が襲ってきている。

 早く霊力を補充しなければ、体力が尽きてしまう。

 除々に焦りが広がっていく。


「落ち着け」


 心を落ち着かせるようにそう呟き、深呼吸をする。

 冷静さを失えば、異形の思う壷だ。

 俺はこんな所で死ぬつもりはない。

 絶対に生きて帰ってみせる。

 そう心に誓い、刀を握る手に力を籠める。


 と、その時、突然庭側の襖が燃え上がった。


「来た!」


 俺は燃えてない襖を突き破り、庭に飛び出す。

 庭に出ると、十メートルくらい離れた所に奴はいた。

 屋敷を燃やす炎に映しだされた、鶏に似た異形がそこに居た。


「クエー!」


 異形は羽根をばたつかせ、また飛び立とうとしていた。


「逃がすか!」


 俺はさっき拾っておいた、顔なしが持っていた鎌を投げつける。


「グエエエッ――!」


 鎌は回転しながら飛んでいき、異形の羽根に突き刺さった。

 羽根が傷ついた異形は、飛び立つこともできず苦しがっていた。


「今だ!」


 刀を手に、間合いを詰める。

 すると異形がこちらを向き、口を開く。


「クッ、炎か!」


 俺はとっさに地面に伏せる。

 異形の口から炎が吐き出され、俺の上を通過する。

 数秒その場に伏せていると、炎が消えた。

 俺は素早く立ち上がり、異形との間合いを詰める。


 (次の炎を出す前に倒さないと)


 数歩で異形の前に到達する。

 その時、異形が口を開き、光が灯る。


 (間に合え!)


 俺は異形の首に刀を突き刺し、バックステップで距離をとる。


「グガアァァ――!」


 口から炎が吐かれることなく、異形は光の粒子になった。


「か、勝った……」


 今回はほぼ無傷で勝てたおかげか、かなりの霊力を得ることができたらしい。

 先程感じていた喉の渇きや、睡魔も消えていた。


「これで当分、大丈夫だろう」


 異形を倒し、体力も回復したのでこの場を去る。

 家が燃え続けていて、異形が寄ってくるかもしれない。

 なるべくここから遠い場所に移動する。




「フウッー、何とか生き残れたか」


 鶏の異形を倒した場所から離れた空き家に、腰を落ち着ける。

 あいかわらず霧は晴れないが、段々と外が明るくなっていた。

 俺はバッグに入れておいた手帳を取り出し、ページをめくる。

 そこには、異形のことだけではなく、手帳の人がこの村に来てからのことが、日記のように綴られていた。

 日記を簡潔にまとめるとこんな感じだ。


 ――この村に来たのは、彼を含めて六人。

 その六人が異形に襲われ、一人、また一人と数を減らしていく。

 そしてとうとう、生き残るっているのは彼一人になった。

 仲間は失ったが、彼はかなりの異形を倒していたので、人外級の力を手に入れていた。

 その力を使い、必ずみんなの仇をとる。

 そう日記は締められていた。


 手帳を閉じる。

 俺は三体の異形を倒した。

 そのおかげで、世界トップクラスの身体能力を手に入れた。

 だが、人外級の力を手に入れた彼をもってしても、この世界を造りし者は倒せなかった。


「まだ足りない」


 今のままでは倒せない。

 もっと異形を倒さなければ。


 そう考えをまとめて、ふと顔を上げると人がいた。

 透き通るような白い肌、それとは対照的な黒い瞳と黒い髪。

 息を飲むような美女がこちらを見ていた。

 ≪妖怪解説≫


【波山】ばさん


 愛媛県に伝わる巨大怪鳥の妖怪

 音も無く近づき、突然大きな羽音をたてて人間を驚かすのが大好き。

 炎を吐くが、物を燃やすことはない。


 本作では、普通の炎を吐く設定になっております。



次話は(8/2)の予定です。

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