道を外れし者
「ちくしょう、アイツどこへ連れて行く気だ」
すぐに異形が飛んでいった方角を追う。
霧が薄いとはいえ、夜の暗闇のせいですぐに異形の姿を見失う。
たが、飛んでいった方角から、どこに向かっていったかは予想は出来た。
どうやら村の外れにあるという神社に向かっているのだろう。
あの手帳の持ち主も神社を目指していた。
そしてあの異形はカラス天狗。
神隠しは天狗の仕業と言われている。
ならば、奴がこの世界を造りし者だろうか。
「どちらにせよ、神社での戦いが最後の戦いになるだろう」
破敵を持つ手に力を込め、神社を目指し走る。
点在していた民家も見えなくなり、それに伴い街灯が無くなる。
そして街灯の代わりに、灯籠が道の両脇に等間隔で並んでいる。
灯籠の灯りを頼りに道を進む。
しばらくすると、石段が見えた。
恐らくこの上に神社がある。
その神社には弧影さん、そしてこの世界を造りし者がいるはずだ。
「……行くか」
身体能力が強化された俺は、一気に石段を駆け上がる。
石段を登りきると、予想通り古びた神社があった。
灯籠の灯りに照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、その神社に人影が二つ。
一つは弧影さん、そしてもう一つは異形。
「弧影さん!」
弧影さんは異形の後ろに倒れていた。
ここからでは無事かどうかは分からない。
「クソッ!」
駆け寄ろうとすると、異形が行く手を遮るように立ち塞がる。
異形の右手には鉄杖が握られていた。
「クッ!」
破敵で斬りかかる。
が、異形が鉄杖で難なく受け止める。
「こいつの鉄杖も、破敵で斬れないのか」
後ろに跳んで距離をとる。
やはり簡単には倒せないか。
攻めあぐねていると、異形が間合いを詰めてきた。
「チッ!」
破敵で鉄杖を受け止め、攻撃を捌く。
「クソッ、速い」
異形が連続で攻撃を仕掛けてくる。
破敵を使い、なんとか攻撃を避ける
「いける、奴の動きについていけるぞ」
霊力によって身体能力がアップした俺の体は、異形の動きにも対応することができた。
異形の苛烈な連続攻撃を凌ぎ、反撃の隙をうかがう。
「よし!」
異形の鉄杖を大きく弾き、胴体ががら空きになる。
そこに乾坤一擲の一撃を放つ。
「なにっ!?」
破敵が空を斬る。
刃の先に異形はいなかった。
「上か!」
視線を上げると、上空にカラス天狗が浮かんでいた。
……まずいな。
戦いにおいて、上からの攻撃はかなり不利だ。
異形が上空から降下して攻撃を仕掛ける。
「チッ!」
鉄杖による攻撃を受け流し、反撃を試みるも異形は上空に舞い上がる。
「クソッ、こちらの攻撃が届かない」
こちらが攻撃しようにも、すぐに空に飛んでいってしまう。
このままじゃ防戦一方だ。
「クッ、ちくしょう」
異形は攻撃してはすぐに空に飛び、ボクシングでいうところの、ヒットアンドアウェーの攻撃を繰り返してきた。
なんとか致命傷は避けるものの、体のいたる所から血が流れ出す。
「このままじゃ、出血で意識が保てなくなる」
どうする、このままではじり貧だ。
ジャンプして攻撃するか。
駄目だ、異形はそのさらに上を飛んでいて届かない。
ならば攻撃するのを待って一か八か、カウンターを狙うか。
灯籠の前で破敵を構える。
「来た!」
異形が上空から急降下して襲いかかる。
俺は後ろに跳び、灯籠の上に乗る。
俺のいた場所を、異形の鉄仗が空を切る。
異形が再び空に飛ぼうとする。
「逃がすか!」
灯籠から跳び、異形の背中に着地する。
「捕まえた、とどめだ!」
破敵で異形の首を斬り落とす。
首を無くした異形は、地面に向かって落ちていく。
「……痛ぅ!」
首の無い異形の体と共に、地面に落下する。
異形の体が光の粒子になり、俺の体に取り込まれる。
そしていつもの様に傷が癒された。
「これって……」
「柳さん!」
いつの間にか目を覚ましていた、弧影さんが駆け寄ってくる。
「大丈夫、弧影さん」
俺がそう言うと、弧影さんが抱きつきながら答える。
「はい、私は大丈夫です。柳さんは、どうしてここだと分かったんですか」
「手帳を読んだんだ」
俺がそう言うと、一瞬弧影さんの体が強張った気がした。
「柳さん、お兄ちゃんの手帳を読んだんですね。何が書いてありました」
弧影さんが、抑揚の無い声で聞いてくる。
お兄ちゃんの手帳? ああ、そうか……そういう事か。
彼女の言葉で、引っ掛かっていた事が解決した。
「弧影さん……」
彼女に話掛けようとした時、突然突風が吹いた。
「な、なんだ、急に」
突風が収まり、目を開けて神社を見る。
その異形は神社の屋根の上に立っていた。
山伏の姿に、鼻の長い赤い仮面を着けていた。
「天狗?」
そうか……昔、本で読んだことがある。
カラス天狗は天狗の使い。
こいつがカラス天狗を操っていたのか。
ならば、こいつも倒さなければ。
異形を迎え討つべく、再び破敵を構える。




