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神隠し  作者: 四苦八苦
12/14

夜に鳴く鳥

「何の声ですか」


 気がつけば弧影さんが目を覚ましていた。


「どうやら異形が来たらしい。弧影さんはここにいて」


 そう告げて、急いで外に出る。

 いつの間にか外は日が暮れていて、街灯に明かりがともっていた。

 街灯の明かりに照らされ、俺よりも大きな異形がそこにいた。


「こいつが異形か……」


 その姿は頭が猿で胴体は狸、尾は蛇で足は虎である。


「……鵺?」


 この姿、そして人を不安にさせ狂わせるという鳴き声、本で読んだ通りだ。

 間違いないだろう。


「それにしても、こいつの鳴き声をなんとかしないと」


 あいかわらず「ヒョーヒョー」と不快な声で鳴いている。

 奴の鳴き声を聞いていると、言い知れぬ不安感に襲われ、集中力が保てない。


「ちくしょう、どうすればいいんだ……っな?!」


 いつの間に間合いを詰めたのか、突然異形が目の前に現れて攻撃を仕掛けてくる。

 前足で殴りつけてくる攻撃を、なんとか破敵で受け止める。


 なおも異形は、「ヒョーヒョー」と不快な声で鳴き続ける。


「チッ、こいつの鳴き声を止めないと。このままだと気が狂いそうだ」


 しかしこの異形のスピードはかなり速い。

 注意力散漫な今の状態では、異形の攻撃を受け止めるので精一杯だ。


 このままではじり貧になる。

 とにかく一旦、奴と距離をとらないと。


 じりじりと下がり、異形から離れる。

 が、こちらの都合通りに異形は待ってくれない。

 一気に間合いを詰め、前足で攻撃してくる。


「クッ!」


 自ら跳んで、相手の攻撃の勢いを受け流す。

 かなり遠くまで転がされる。

 この間合いを利用し、素早く物陰に移動してズボンのポケットからティッシュを取り出し、耳に詰める。


「よし、これでマシになった」


 異形の鳴き声が聞こえなくなった。

 だが同時に、聴力を失う。

 音は聞こえず、視覚のみで異形をとらえなければならない。


 異形の姿を探すため、物陰から顔を出す。


「?!」


 すぐ近くに異形の顔があった。


「チッ!」


 素早く後ろに跳び、距離をとる。

 だが異形も距離を詰め、追撃してきた。

 虎の腕の攻撃を受け止める。

 異形の頭が、がら空きになっていた。


「うらあああああっ!」


 破敵で異形の頭を狙うも、攻撃をした別の腕で異形が受け止める。


「なに!」


 俺の攻撃を、異形が虎の腕で受け止めた。

 頭をかばった。

 ということは、頭は普通に破敵で斬ることが出来るのか。

 いけるぞ、少なくとも頭はこちらの攻撃が通じる。

 活路が見え反撃を試みようとするも、異形が腕を振り回して攻撃してくる。


「チッ!」


 間合いをとるため、再び後ろに跳ぶ。


「えっ?」


 背中に衝撃を感じる。

 後ろを見ると塀があった。

 追い込まれた、どうする。

 俺の一瞬の逡巡を見逃さず、異形が突っ込んできた。

 とっさに横に跳ぶ。

 ぎりぎりで突進をさけると、異形が頭から塀に突っ込む。


「チャンス!」


 異形は塀に頭から突っ込んで、身動きがとれない。

 後ろに回り込み、攻撃を試みる。


「チッ、蛇か」


 異形のしっぽは蛇になっている。

 しかも大蛇クラスだ。

 その蛇の尾が、こちらの動きを牽制する。


 うかつに攻撃はできない。

 自然と行動が慎重になる。

 だがそうこうしている間に、塀に嵌まった異形が抜け出そうとしている。

 時間がない。

 蛇の動きを見て、思いきって突っ込む。


「フッ!」


 破敵を振るい、蛇の首を斬り落とす。


「よし、やったぞ……えっ?」


 斬り落としたはずの頭が、再び生えてきた。


「トカゲのしっぽかよ。クソッ、本体倒さないと駄目なのか」


 そしてこちらが攻めあぐねている間に、とうとう異形が塀から抜け出した。

 絶好の機会を失う。

 猿の頭をこちらに向け、鋭い歯を剥き出しにし威嚇してくる。


「チッ」


 破敵を構える。

 すると異形は口を開き、黒い霧を吐き出した。


「な、なんだ?! 周りが見えない」


 黒い霧によって視界が封じられる。

 聴力に続き、視力まで使えないとなると勝ち目がない。


「ど、どうする……ぐわあっ!」


 虎の手が背中を斬り裂く。

 暗闇に乗じて異形が攻撃を仕掛けてくる。


「うおおおおお!」


 闇雲に破敵を振るうも、こちらの攻撃が当たらない。


「クソッ、あいつはこっちがどこにいるのか分かるのか」


 こちらの攻撃は当たらず、異形の攻撃をくらい続ける。

 気がつけば血まみれになっていた。


「このままでは殺られるだけだ。一か八かに賭けるか……」


 破敵を上段に構える。

 深呼吸をして、異形の攻撃を向かえ討つ。


「クッ、ゴフッ」


 脇腹に激痛が走る。

 異形の虎の爪が左の脇腹に食い込んでいた。

 俺は虎の腕を振り払うことをせず、左手で抑え込み右手で破敵を構える。


「捕まえたぞ、逃がさない!」


 異形の口の中に破敵を突っ込む。


「消えろおぉぉぉ!」


 異形が光の粒子になり、俺の体に吸い込まれる。

 傷も、流れ出た分の血も回復する。


「ふぅふぅ……ギリギリだったな」


 思わず呟く。

 狙い通り脇腹を攻撃してくれたおかげで、捕まえることが出来た。

 肉を切らせて骨を断つ、みたいな戦法はできれば使いたくなかったんだがな。


 俺は弧影さんの元に向かうため、踵を返す。


「きゃあああああああああ!」


 遠くで叫び声が聞こえる。

 まさか……。


「弧影さん!」


 急いで彼女の元に向かう。


「な!?」


 弧影さんは異形の手により、宙に浮いていた。

 異形は山伏の姿で背中に羽を生やし、鳥のようなくちばしをもった顔をしていた。


「カラス天狗?」


 異形は弧影さんを連れて飛んでいく。


「待て!」


 俺の言葉は届かず、異形と弧影さんの姿は霧の中に消えていった。


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