ライン親子
・ライン親子の小話
・一章一話のリスクから着想
・勝手に伏線を回収してみる試み
・親子共々キャラ迷子
・つまりはやりたい放題
「それってどういう事だよ!別命あるまで全員集合の後学園の門の警備なんて!」
学園の広い廊下に少年の声が響く。不満と焦りと怒りがありありと浮かんでいて、そこに早朝の爽やかな空気は欠片もない。むしろ窓から差し込む朝の陽ざしに反射する制服の金具と煌めく金髪のまぶしさが不釣合いである程。そしてその声色を反映するかのように足音も性急さを持っていた。
そして廊下に響くもう一つの足音を追いかける。
「どういう事も何もその文言の通りだ。しっかりと理解しているではないか」
小走り気味のその足音とは真逆、悠然としたその足音と歩調には余裕さえ感じられる。
その声にも落ち着きが見られ、教師の紋章を衣服につけた男は少年とよく似た顔立ちをしつつも実に対照的に映る。その泰然とした態度は重ねた経験の差か、まだ幼いとさえ言える齢の少年に苛立ちを抱かせる。
「納得がいかない!非常事態なのにそんな悠長な態度でいられるか!」
「非常事態だからこそ冷静かつ迅速に対応を講じる必要がある。そのために私達教師陣が直接国王も交えての対談をせねばなるまい。その間のこの学園の警護をお前たちに任せたいと言っているんだ。ここでお前たちが攻勢に出て学園を蛻の殻にして、もしここを襲われでもしたらどうする?この場所を拠点と、今の家だとしている生徒はどうしたらいい?」
「…」
「お前はもう少し冷静になれ。あまり奴らを憎むと、自分のことを見失いかねない」
理路整然とした物言い。何も間違ってはいないその言い分。少年には分かっている、自分の父である教師のいう事が最善のことで自分はさっさと教室に戻って皆に教師である父の指示を伝えねばならないという事くらい、分かっているのだ。教師のいう事を聞いて、仲間たちと共に居場所である学園を守ることも重要だということも理解している。しかし少年は父であり同時に教師である男の存在に対する屈折や反発を感じられるくらいには成熟し、また誰かの死を目前にして理性的に行動出来るほどの大人でもなかった。
「…冷静になれっかよ」
「何だと?」
「人が、決して他人じゃないひとが死んで冷静でなんていられるか!本当はあんたの指示とか、全部ほっぽり出してこのままあの第八区に行っちまえたら!むしろ、何で!!なんでそんな冷静でいられるんだよ!?」
少年は、その表情を怒りに歪ませて叫ぶ。その矛先は父へと向かい、それを通して殺した人物へ憎悪としても向かっていることには少年は気付かない。悲痛ともとれた少年の叫びは高いところに設置された窓にまで伝わってかすかに硝子を鳴らす。
生きていた人間が死ぬ、しかも誰かの悪意によって。
この戦いにおいて至極当然の事態、しかし少年だけでなく他の生徒たちも守られ死が遠ざけられている現状の矛盾。そして誰かが死ぬという事実を突きつけられた現実。そして、かつてその善意によって誰かを救う医者を志したことがあった少年にとってあまりにも衝撃だった。
少年の叫びは止まらない。男の後ろを追いかけるようにしていたが、足を速めて男の前に回り込む。開かれた正門にも近い位置、男の進路を塞ぐ様に立った。早朝と言うにはやや高く上がった太陽の光を受け、少年の金髪は感情に合わせるかのように一層と輝いた。
「もっと、焦ったって、怒ったって!!あんたみたいに、僕は、冷静になんてなれるかっ!!あんたと違って、あいつらを憎いと思わずにいられるか!!あんたと違って、悲しまずに」
いられるか、そう叫ぼうとした声は放たれた拳によって遮られた。
本来拳ではなく剣を振るう男の拳は本職のそれと比べれば軽くはあったのだろうが、壮年であっても鍛え抜かれた体から放たれたもの。それは受け身も何も準備の取れていなかった油断のある体勢で、同様に鍛えられ様々な訓練を受けていても未完成な少年の体を崩すには十分だった。
数歩たたらを踏んで少年は堪えたが、それでも衝撃に耐えきれず尻餅をつくような体勢になる。話している途中に殴られた為、舌こそ噛み切らずに済んだが口内が鉄の味で満たされるのを感じる。
「…ってぇ…」
「私の目を見て答えろ。
私が…私達大人が、何も感じてはいないとでもお前は言うのか!!」
響く怒声。男が教師として、父として少年を諌める時の声色とは違っていて、はじかれるようにして少年は顔を上げた。
「ある意味お前ら生徒たちよりも私達は校長と接していた時間が長い、それでもお前は私達が冷静であると、怒りなど感じていないと!!何よりも奴らを憎んでなどいないなどと!!お前はそう見えるのか!?」
そこにいたのは厳格な教師でも、堅物な父でもなく。
尊敬に値するひとりの人間を亡くしたことに慟哭する、一人の男だった。
重ねた年月によって手に入れた落ち着きを以てしても堪え切ることのできなかった、吹き出したそれは少年が抱いていたものが可愛らしく思えるほどの、まさに激情。先程の凪いだ水面のような表情からは想像しえない程に歪められた渋面。少年と似通った瞳は少年が抱く以上の悲しみ、怒り、憎悪、無念の状がありありと現れていて、その深い、幾多の激情を湛えたそれに少年は身を震わせる。
年相応の顔に刻まれた皺と白髪の混じり始めた茶髪は男の辿った生を、経験を示すのを少年は感じ取る。決して一度目ではない喪失の悼みと己の無力感。いくら繰り返されそうとも順応が赦されない、自分に赦そうとしない事をまざまざと理解させられる。
決して気が長い方でない少年の気質、それは確かにこの目前の男から受け継がれたものであるのだから、この男が最初から冷静でいられる筈がなかった。
そして少年は知る。目の前の男は自分とは比較にもならないほどの感情の渦中にいることを。
「そして!これからの決定次第で、生徒たちを…自分達よりも一回りも二回りも幼い子供たちを!!奴らの元へ送り込むかもしれない!!!その後ろで待っているしかできない、死地へと自分の子供を送り出すことになり兼ねないのに!!冷静であれる親が一体どこにいるというんだ!!?」
男の叫びは少年の口から返答を得るには、あまりにも重い。
父であり、教師であり、送り出す側にしかなれない、男の苦悩。
「それでも、私達はそれで終わらせられるなら…そうするしかない、そう信じてでもやらなければならない」
「…」
少年は、その言葉に対する返答を持たない。
しかし少年は立ち上がり、唇から垂れた血を拭う。
「僕たちは死なない。僕たちが…絶対に終わらせる。そう、僕は信じている。僕だけじゃない、みんなも」
少年は告げる。自分の覚悟を、決意を。
男の抱くものとはあまりにかけ離れた、子供染みたと笑われても仕方のない、理想論。それでも、少年は信じていると声をあげる。仲間たちとなら為せるのだと、そう信じているのだと。
お前たちはそうではないのかと、暗に問うその言葉を。
「…そうだな。私達も信じている。お前たちなら…信頼する生徒なら、平和を取り戻せると」
少年の言葉を真正面から受け止めた男は小さく笑い、私もまだまだだな、などと言った。少年からしても珍しい、自然にこぼれた気の抜けた笑い方だった。その表情も一瞬のことですぐにいつもの、教師の生真面目な表情に戻ってしまった。
「原則は教師からの指示に従う事だが、結局は現状の理解が一番深いのは現場だ。どういう事かは分かるな?」
「…!勿論。必ず生きて帰る」
つまりは生徒らの判断に一任するということ。
無茶は決してしない、そんな意も含めて少年は自信を持って返答をする。
「当たり前だ、この馬鹿息子。親にいらん心配ばかりかけさせる」
「うるせぇ。僕はもう教室に戻る」
「その言葉遣いもだな」
「分かったから、早く行けよ!他の先生待ってるだろ!」
「言われなくてもそうする」
少年の脇を通り過ぎ教師の男は外に待機している他の大人たちの方へ向かっていく。少年は何も言わずにその背中を一瞥すると、自分もすぐに教室に向かって駆け出した。
背を向け合った二人には、同じ表情が浮かんでいた。
前に書いて頂いていたお話をやっと投稿しました…!
本編でリスクとアシス先生の親子ネタを深く書くことがあまり出来ていなかったのですが、本当に素敵に書いて下さいました!!
ありがとうございました!
【以下作者コメント】
懺悔
オチ付けるの下手過ぎわろりんぬ
私多分おっさんに夢見てる
というか設定がどこか間違っている気がする
そしてシリアス生産機ですどうも とても楽しかったです
てかこの親子容姿が似てるんでいいんだよね?
と思ってたら先生の髪色間違えてたorz(修正済)息子と同じだと思ってた…
この先生達の姿勢はFF零式から着想得たって書き上げてから気付いた
結果的に女子二人がさらわれて第八区に乗り込むフラグ乙!
きっと先生は苦悩に塗れて生きてるって妄想も乙!!
20140927修正
もったいないので修正前のラスト一文だけ載せておく
背を向け合った二人の金の髪が太陽の光を受けて、同じ煌めきを発した。