叔父さんとアドルフくんと【1】
部屋で男の子のために枕とかタオルとか用意するあたしを、お母さんが呼んだ。
叔父さんに話を聞いたらしい。
「メグが家族の中で唯一後成りのマスターになったのね」
あたしの腕の傷にそっと触れて優しく包帯を巻いてくれた。
「あれだけ気に入っていたロングヘアも、こんなに短くなってしまって。綺麗に整えてあげるわね」
あたしはお母さんに連れられてリビングに行く。椅子に座って、タオルをかけてもらった。
腰まであった髪はばさばさで、長いもので肩くらい。短いと男の子みたいで。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいわよ」
お母さんはあたしの頭にキスをしてくれた。
「メグは痛い思いをして、それでもあの男の子を守ったの。私の誇りよ」
でも、とお母さんは付け加える。
「私はメグが心配だから、あまり無理はしないでちょうだいね」
「お母さん……」
あたしは急に怖くなって、痛くても我慢していた涙をぽろぽろと落とした。一歩間違えば、死んでたり、あいつみたいになってた。
「あの子が起きたら、一緒に家まで送ってあげましょうね」
「……家族がいなかったら? お祖母ちゃんとかお祖父ちゃんとか叔父さんとかいなかったら? そしたらどうしたらいい?」
両親はもういない。他の家族がいるとも限らない。
「小さい子だから、施設かしらね。ヴァンパイアということもあるから、人間の施設には預けられないわね……」
お母さんは少し困った口調になっている。
「だから、それだったら監禁施設に入れればいい。調教して、人間を襲わないように……」
「叔父さんはしゃべらないでほしいのよね! 叔父さん嫌い! お父さん……」
静かにドアの前にもたれているお父さんにあたしはすがった。叔父さんは話にならない。
「メグ、返答は少し待ってくれんか? ベン、もう釈放か?」
「そうだけど。俺はしばらく警察にお世話になってた方がいいか?」
「そんなんはどうでもええ。とりあえずそのメモはなんや?」
お父さんはあたしの方を見て、叔父さんを問い詰める。
叔父さんは手に持つメモを開き、お父さんはあたしのそばに歩いてきた。
「メグ、よう頑張ったな。痛い思いも怖い思いもしたし、連れて帰ってきた子も、あれだけ怪我してよう生きとった。メグのおかげやな」
「お父さん」
あたしはお父さんにぎゅっと抱きついた。お父さんはあたしの短くなった髪をそっと撫でてくれた。
「……警察でついでに子どものことを調べてきた。子どもの名前はアドルフ・ステイマー。母親の身分証から判明した。父親は身分証も免許証も複数持ってる。分かったのはどれにも載ってる同じ顔だけだ。ステイマー姓のだけは、持っていなかった。母親の証明書にある住所のアパートに、父親のステイマー姓身分証があったと今電話で聞いた」
「父親は犯罪者なのか」