ヴァンパイア少女の救った人間【6】
叔父。ベンが苦笑して立っていた。
あたしを抱き上げて包丁を放り投げる。少しだけ気持ちが落ち着いた。怖さも興奮もない。
「手に怪我してるぞ。よく見たらあちこち……痛いだろ?」
「痛くないのよね。それよりあいつを……」
叔父さんはあたしの目を覗きこむ。
「人間の血を飲んだのか?」
「!」
静かに呟く。やっぱり分かるんだ。
「あの子のを……」
あたしは倒れてる男の子を指差した。
「状況が分からないな。少しずつ話してくれないか?」
叔父さんはそっとあたしを降ろす。腕を押さえたあいつがあたしを睨み、再び男の子の両親の血をすすっていた。
「あいつは……」
「あれは後成りの成れの果てだ。人間の血を吸えばああいう後成りは堕ちてしまう。必要以上に短期に摂取しすぎたんだろう。放っておいても、すぐに処断される」
あたしは叔父さんの言葉にぞっとした。
あの状況を見ても顔色ひとつ変えずに興味もなさそうに呟く。
当たり前のように。
でももしそのままの言葉を受けるなら、初めは血が要らないと言ってたのに、あたしが飲んだから……。
「あたしが……」
歌を聴いた。そして、血の匂いに駆けつけて……。
さっきまでに起こったことを全部叔父さんに話した。
「メグは、自分の血を浴びせてからあの少年の血を飲んだのか」
あたしは頷いた。
「安心した」
叔父さんは大きく息をついてあたしの頭を撫でた。
「安心?」
「そうだ。メグのような子どもには人間の血は早い。有害だ。そこにいる後成りのようになってもおかしくない。だが、自分の後成りとした相手の血なら問題ない。むしろ力を与えてさえくれる」
後成り。
その不快な響きの単語の意味を叔父さんに訊ねようとして顔を上げた。
「後成りは、メグが下僕だと言ってたのと同じ意味だ。俺らのように生まれながらのヴァンパイアに対して、後からヴァンパイアになった者達を言う。あの少年は大丈夫。メグが傷口に血を浴びせたからそこから治るはずだ」
後成り二人は置いていこう。そう叔父さんはあたしの手を引いた。
「嫌なのよね! ダメ! あの子をここに置いていけない、それに、あいつにこれ以上あの子の両親を食べさせるのは嫌!」
あたしは叔父さんの手を振り払う。叔父さんは困惑した顔で、あいつの方に歩いて行った。
「わかった、目をつぶってろ」
口元を緩め、叔父さんはそいつの首を掴んで、ちぎった。
「いやああああっ!!」
あたしは叫ぶ。叔父さんは顔色ひとつ変えないまま、そいつの首を持って歩いてきた。
「いやあああっ! 来ないでよね! 来ないでよね!!」
あたしは怯えて後ずさる。
「……すぐに楽にするにはこれしかないんだ。後成りは、処断者というヴァンパイア専門ハンターの持つ処刑道具以外で殺そうと思ったら、首を切り離すしかない」