ヴァンパイア少女の救った人間【5】
そいつはあたしの首を掴み、高く持ち上げる。視界が広がり、みんな見渡せた。
首に力を入れられる。
でも、痛くも苦しくもない。
「オマエもニンゲンか? 食いたい、飲みたい、血をヨコセェッ!!」
「えっ」
さっきまでヴァンパイアとして立っていた。間違いなくこいつもそれを知っていた。
目が真っ赤に染まったそいつは、あたしの足に噛みつこうとした。
さっきほど、機敏でもない。
あたしはそれを簡単に避けることができ、そのまま手を払って地面に降りた。
血を含んだ草が柔らかくあたしの着地を助けてくれる。
「あたしが強くなったの?」
人間の血で。
でもなんで。
「なんで、貴方は……」
強くならないの?
同じ立場に立つと言い、男の子の血を、果ては両親の血まで十分に飲んだはずなのに。
「血が血が血が血が血が血がアアアアッ!!」
そいつはあたしに掴みかかろうとして、男の子に狙いを定めた。
「生きテル! あのガキがイキてウマソウなニオイをさせテル!」
男の子に駆け寄るそいつをあたしは追い、男の子に手を伸ばす直前にその手首を掴んで強く引いた。
さっきはびくともしなかったのに、簡単に後ろに飛ぶ。
「あたし、どうして……」
怖い。
自分が怖い。
あたしだけ、おかしくなったの?
目が真っ赤に染まったあいつは、もう言葉として認識できないような叫びをあげて、あたしに向かってくる。
でも全て遅く感じる。
殴りかかる手も、蹴りあげる足も、全てゆっくりとかわすことができた。
あたしはそいつの腕を掴んで、地面に押し倒した。
ぞくぞくする。
さっきまで弱く感じてた自分が大人相手にこんなにも力の差を見せつけることができる。
「ふ、ふふふっ」
おかしくなってきた。
こいつが、恐らくあっさりと男の子の両親を殺せたように、あたしがこいつの命を捻り潰すこともできる。
あたしは落ちたままの包丁を掴んで、真下にいるそいつの腕に突き立てた。
こんなこと、怖い。それなのに、楽しい。
おかしくなる。
頭が麻痺して、楽しみに侵食される。
「やめろ」
次に包丁を振り上げたあたしの手を、誰かがつかんだ。
あたしはその相手の手を振り払い、包丁で斬る。
「メグ、何してるんだよ。痛いだろ」
「…………」
聞き覚えのある声にあたしは顔を上げた。
赤毛で濃い茶色の瞳。くしゃくしゃのシャツにシワのよったズボンをはいている。
「いつもより帰宅が遅くて、探しに来たんだ。血の臭いがするから心配になってな。何してるんだ」
「叔父さん……」